会議は踊る、だから私も踊る
タイトルに深い意味はないです。語感だけです。
のっそのっそと歩いていたサカモトだけど、このままじゃ王都に着く頃には日が暮れてしまう。空を飛んで行ったら後の世にサカモト大騒動として語り継がれてしまうから、サカモトには草原を疾走してもらうことにした。
やっぱりそこまで速くはないけど、体が大きい分一歩で結構進んでいる。私の目で王都が見えたら歩けば平気だろう。
「ねえねえリリ、今度の休みにでもエマちゃんも連れてサカモトに乗って旅行でも行こうよ! 折角だし近場じゃなくて他国にでもさ」
「やめて下さいまし! 侵略だと思われてしまいますわよ」
折角サカモト捕まえたのに、結構窮屈じゃない? 他国にも王都にも飛んでいけないなんて。
「じゃあ大々的にサカモトのお披露目でもしようか。何も知らないのにドラゴンが来るから驚くわけでしょ? お披露目して認知度が上がれば『なんだサカモトか〜』で済むし」
サカモトのゴツゴツに寄り掛かりながら話していると、遠くに王都の外壁が見えてきた。のんびり走ってる様に見えてやっぱ速いのかな?
ここからは歩く様にサカモトに伝えて、ゆっくり王都に近付いていく。
「ゆっくり歩いてたら攻撃はしてこないよね?」
「どう……かしらね。陛下がサカモトの対策をどの程度進めていらっしゃるかによりますわ」
攻撃されても困るし、騒ぎを起こしたい訳じゃない。リリが王都の外壁を認識できる距離で止まることにした。
しばらくして止まり、皆にはまた待っているようにお願いした。私は責任を持ってリリを送らないとね!
そこまでスピードを出す必要も無いので、今度はお姫様抱っこでリリを運んだ。門に辿り着いたので、貴族用の門を通る前にドラゴン連れてきたら通してくれるって言ってたオジサンに状況を聞いてみよう。
「おじさんおじさん、ドラゴンについて何か連絡来てる?」
「あ、ああ。なんか王都近くにいるらしい。危険はないと思うが、最大限警戒をしつつ刺激を与えるなとさ」
どうやら王都側からはまだサカモトを発見出来てないっぽい? お偉方がどうなってるかはわからないけど、少なくとも現場では混乱してなさそうだ。
●
リリと一緒に寮の部屋に帰ってくると、ベランジェール様が待っててくれたみたいだね。
「おかえり。帰ってきたのね」
「ただいまベランジェール様。陛下なんだって? サカモトもう連れてきていいって?」
「私の聞いた話だと会議は混迷を極めてるそうよ。リリアーヌ、直接見た感想は?」
「そうですわね……。受け入れるにしても何処へ? というのが率直な感想ですわ。王都にサカモトが寛げるほど広くて何も無い土地なんてないですわよ」
あそっか。ベルレアン邸の敷地面積で見ればサカモトが入れたとしても、庭園とか荒らす事になるのか。
「そこまで大きいの? それなら物理的に受け入れは無理ね」
「じゃあ王都の外、近くならいい? それも無理ってなったらいよいよ放し飼いだけど」
「現実的な落とし所はそこよね。会議で出た意見の中には危険だから受け入れられないって言ってる貴族が多いそうよ。ただそれに対する反論で、そもそも拒むことができるの? という意見も出ているって」
ベランジェール様は上品に紅茶を飲みながら会議の情報を教えてくれた。危険だから受け入れられないって考えは理解できる。ある日突然、ご近所さんがヒグマ連れてきて飼ってもいいですかとか言われてもちょっと困るもんね。
「それと二人には不快かもしれないけど、ベルレアン辺境伯家とノエル個人が力を持ち過ぎている事を危険視している家もあるそうよ。そしてドラゴンを国で管理しようと荒唐無稽な事まで言ってるって報告を受けたわ」
「領地の税収は上がり、元々強かった騎士団もアダマンタイト装備を使うようになりましたわ。それに社交界での影響力も増しましたわね。そこへ来てドラゴンともなれば面白くない家が出てくるのも無理ない話ですわよ」
リリは特に不快さは感じていないようで、平然と紅茶を飲んでいる。
でもみんな一つ勘違いしている部分があるよね。
「ねぇねぇ。そもそもなんだけどさ、陛下も貴族の人たちも勘違いしてるよ?」
「何をかしら?」
「私は王都が混乱しちゃうのを避ける為にはどうしたらいいかって相談したの。怒られたくないから事前に報告したの。ベルレアン辺境伯家が力を持ち過ぎてるとか好き勝手言ってるけどね? それ、私からしたら今は関係ないんだよ」
サカモトを王都に連れてきてはいけない、なんてルールはないでしょ。サイズ的に王都へ入れないのは仕方がない。でも従魔登録が必要だからしたいってだけで、それをする為に連れてきたら王都民がパニくるからどうしましょうって相談と報告をしたんだよ。
別に私は粛々とルールに則って従魔登録して王都へサカモト連れてきたって良いんだよ。王都の外壁真横にサカモト連れてきて野営したっていいんだよ。
「私がサカモトを従魔にして、私が王都に連れてくる。それを不安がるのはわかるし、嫌がるのは勝手だけど、拒む事は出来なくない? 一体陛下達は何を話し合ってるの? 政治じゃなくて先ずはサカモトの話してほしいんだけど」
私の言葉にリリもベランジェール様も黙ってしまった。国として、貴族として考えることはたくさんあるだろうけど会議の内容は少しズレちゃってるね。
「王都全域に、『ドラゴン来るけど敵じゃないから安心してね』ってお触れをだして貰えれば良かったんだよ。なんかそうはしてくれないみたいだし、もうこっちで勝手にやってもいい? 私もお触れを出してって甘えるんじゃなくて自分のことは自分でやるのが正解だったね」
「そう……ですわね。勝手って具体的に何をするつもりなんですの?」
「普通に色んなとこ回ってドラゴン来るけど私の家族だから心配しないでねって言って回るだけだよ? そうすれば少なくとも大惨事にはならないでしょ? 連れてきてやっぱ怖いのでって言われちゃったら仕方ないけどさ」
孤児院、セラジール商会、エリーズ孤児院、冒険者ギルドに学園辺りを回って、噂流して貰えば良いだけだしね。貴族の人達は集まって会議してるんだからわざわざ知らせなくても知ってるわけだし。
そう考えたら平民達に知らせれば良いだけだしね。イージーだよ。
「貴族の反発があるわよ?」
「内容によるよ。やっぱ近くにドラゴンいたら落ち着いて寝られません! とかならごめんなさいって感じだから王都から少し離れる。でもゴチャゴチャ意味わからん事言ってきたら手袋ぶつける」
野蛮? ふっふっふ、文句があるなら手袋投げてきなさいな!
「ノエルが最強の交渉術を習得してしまいましたわよ? ベランジェール様」
「……私のせい? よねぇ……。エドガールのおバカ……」
んじゃあ今日はサカモト達と王都の外で野宿になるね。起きたらさっそく行動開始かな?




