斬る者、斬られる者
拙い文章ですが、よろしくお願い致します。
視点が変わっています。
「いやぁ! エリーーーー!!」
アリシアはフェルディナントに斬られ、倒れるエリーを見て痛烈な叫び声をあげた。
そのアリシアの手を、まだ幼いミトが引っ張っていこうとするが、アリシアは地に根を下ろしたかのように動かない。
「アリシア! そこを動くなよ!」
フェルディナントは剣を握り締めると、アリシアまで続く坂道を踏みしめるかのように登ってくる。
「アリシア! 行こう! 早く早く!」
「ミ、ミト? けど、エリーが!」
エリーは天を仰ぐようにして道の上に寝そべっている。
その胸元を覆う衣服に一筋の切れ込みが入り、そこから真っ赤な血が滴っている。
そして、エリーはピクリとも動かない。
アリシアの顔から血の気が引いていく。
真っ青になったアリシアは、両の頬に手を添え、また叫んだ。
「いやぁぁぁぁぁぁ! エリィィィィィィ!」
「ハーッハッハッハ! 生意気な従者め、斬り捨ててやったわ!」
それを聞いたフェルディナントは、ニヤリと口角を持ち上げ、悲痛に叫ぶ妹に向かって高らかに笑い声を上げていた。
「次はお前だ! 今度こそ引導を渡してやる! アリシア!」
「お、お兄様!?」
「思い返せば、お前はいつもそうだ。俺から全てを奪っていく。地位も名誉も才能も……」
そこまで言うと、フェルディナントはアリシアを見上げ、睨み付けた。
「母上までもな!」
「お、お母様を……? どうして私が?」
「決まっているだろう! 母上はお前を産んだから亡くなられたのだ!」
「……え?」
フェルディナントは坂を登りながら、片方の手を差し出すと人差し指でアリシアを指した。
「あの時、母上は病に侵されていた! お前を産まなければ母上は助かったのだ! 自身の命か、お前か。どちらを取るかと医者に問われ、母上は……」
そこまで言って、フェルディナントは口惜しそうに歯を剥き出しにしてギリギリと鳴らした。
「母上は己の命を賭してお前を産んだのだぁ!」
「お母様は……私の、せいで……」
「アリシア! 貴様は俺から全てを奪った! 今度は俺がお前から全てを奪ってやる!」
アリシアは全身の力が抜けるのを感じ、その場にヘナヘナと力なく膝をついてしまった。
まさか、母親が死んだ理由が自分にあるとは夢にも思わなかったのだ。
その事実は、アリシアの心の中をぐちゃぐちゃに掻き回してしまった。
「アリシア、立って! 逃げないと! アリシア!」
ミトが声を荒げながらアリシアの手を引っ張った。
だが、アリシアの心の中は既に空っぽで、今さら立ち上がる気力すら失せている。
ミトが幾度も手を引こうとも、彼女はそれに応えようとはしなかった。
「よぉしよし、いい子だ」
そのアリシア目指して、フェルディナントは一歩ずつ、その距離を縮めていく。
「お前は妹なんだからな、俺の命令に従うのは至極当然」
「アリシア! 立って、立って早くーー!」
邪なフェルディナントの笑みを見て、ミトは体の底から震え上がった。
だが、何としてもアリシアをこの場から動かさなければならない。
幸い、二人の部下はまだ回復していない。
この場から逃げるなら今しかないのだ。
だが、だがアリシアは動かない。
どんなにミトが名を呼び、手を引こうとも……
「さぁ、もうすぐだ! もうすぐお前を……」
ザッザッと力強い足音を立てながら、フェルディナントは剣を頭上に掲げた。
「父上の元に送ってやれる……」
そう言って掲げた剣を握る手に力を込めたときーー
「……そうはさせません」
その腕に、エリーが飛びついて来た。
ーー
「やるべきことだと!?」
シンは手に握る剣を大きく振りかぶり、ラグに斬りかかった。
ラグは飛び込んでくるシンの足の運びを読み、その場から一歩半下がると、体をひねって剣の先をシンに向けた。
「そのやるべきこととは何だ!?」
ラグが向けた剣の先がシンの剣とぶつかると、滑るようにシンの剣はラグの剣の側面を走り始めた。
剣の中ほどに差し掛かったとき。
ラグはその動きに合わせて身体を前に突き動かし、シンの背後に回った。
そして剣を翻し、シンの首目掛けて横一文字に薙ぎ払った!
誰もがシンの首を取ったとそう思ったときーー
キィンと金属が重なる甲高い音が響いた。
「お前に答える義理はない……」
ラグの剣は確実にシンの首を斬り飛ばす軌道に乗っていた。
だが、その軌道の途中。
あと少しで首に刃が届くといったところで、シンは剣を戻し、ラグの剣を止めたのだ。
「相変わらず……、ムカつく野郎だ」
そう言ってシンは剣に力を込めてラグを跳ね除けた。
ラグは軽くバックステップを踏み、シンと一定の距離を作ると素早く構えを取る。
それをシンは、ギラついた目付きで睨み付けていた。
「その態度が前から気に食わなかったんだ。何もかも見透かしたような、何でも理解しているような、その態度が」
シンは剣を顔の横へ持ってくると、そこに映り込む自分の顔を見た。
「あの時もそうだった。勇者として選ばれた、あの時もーー」
「あの時ーー?」
剣に映り込んだ顔を目にしながら、シンは自身の顔を縦に横に動かしている。
「俺の方が勇者適性は上だった。剣にしろ魔法にしろ。ところが実際はどうだ」
シンは剣から視線を外すと、今度はそれをラグへと向けた。
「俺に遠く及ばない、……落ちこぼれが勇者として選ばれた」
シンはラグを睨み付けながら、顔の横に添えていた剣をラグに向けた。
「アトス。お前がな」
ラグは肩幅に広げていた足を更に開き、姿勢を低くした。
「どうしてお前が選ばれたのか。未だに理解できん」
シンも姿勢を低く取り、剣を構えた。
視線はラグに向けられたままだ。
「何で聖剣はお前を選んだんだぁぁぁぁぁぁ!」
シンは叫び、力強く地面を蹴った。
一気にラグとの距離が詰まり、二人は剣を重ねた!
そして重ねた剣越しに、互いに睨み合っていた。
「何でお前が聖剣に選ばれたんだぁぁぁぁぁぁ!」
「……知るか」
今度はラグが力を込める。
ラグは重なり合った剣に力を込めつつ、シンの腹に蹴りを入れた。
「んく!?」
腹を蹴られたシンは、その勢いを相殺するかのように後方へと下がる。
ラグがそうすることで、シンは間合いから強引に弾き飛ばされてしまった。
シンはすぐに姿勢を正し、ラグに向き直った。
「聖剣はお前でなく俺を選んだ。それだけの話だ」
「何だとぉ?」
「お前こそ、相変わらず無駄話が好きだな」
そう言って、今度はラグから斬り掛かる!
その速さと言えば、先程ラグに斬り掛かったシンよりも速い!
シンは舌打ちすると、すぐにバックステップを踏んでラグの間合いを外しにかかった。
だが、ラグはそれを読んでいたのか、さらに踏み込んでくる!
そのせいで、ラグの間合いは変わることなくシンを捉え続けていた。
「くっ! あじな真似を!」
「小細工は好きじゃないのか?」
そうして大きく一歩踏み込み、ラグは一撃を放った。
短く、手首のスナップを効かせて繰り出した斬撃は、シンの体に傷を付けるほどではなかった。
だが、シンの動きを牽制するには十分だった。
スナップを効かせた細かい斬撃を、ラグは繰り返しシンに向ける。
シンはそれを弾きつつ、攻撃してくるが、ラグはその度に素早くステップを変えてシンの間合いを外す。
シンは間合いを外され、動作が大きくなったところを、ラグは一撃を叩き込む。
これをシンは何とか剣を返して凌ぐ。
が、素早い手返しで次撃がシンを襲う。
そんな攻防が続いたとき、シンが大きく姿勢を崩した!
ラグはこのときを見逃さなかった。
それまで片手で持っていた柄を両手に持ち替えると、バランスを崩したシンを一刀両断するために、強力な払い斬りを繰り出した!
「ちぃ!」
シンは強引に体を持ち上げ、体勢が崩れるのを堪えた!
腰を据えて足を踏ん張ることで、ラグの剣の軌道から自分の体を逃がすことに成功する!
そうして大振りになったラグは一瞬だけ無防備な状態をシンに見せてしまった。
「バカめ!」
シンはニヤリと笑うと、無防備になったラグ目掛けて刃を向けた。
今なら確実に殺れる!
そう確信して。
だが、ラグは大振りになったと同時に地面を蹴り跳躍。
体をクルリと回転させながら、シンの一撃をやり過ごす。
シンは目を剥いた。
まさか、そんな攻撃の避け方があるとは思いもよらなかったからだ。
「ア、アトスーー!」
ラグの一撃は、シンの胸元を斬り裂いた!
ここまでお読み下さり、ありがとうこざいます!
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あと少しで物語は終わりますが、それまでよろしくお願い致します!




