マーニィが微笑むとき
マーニィです。
笑い顔は可愛いとよく言われます。
マーニィです。
「マーニィ様!」
そう呼ばれて、彼女は足を止めた。
振り返ると、若い剣士が息を荒げながらそこに立っていた。
「どうしたの?」
「報告があります! 例の酒場の店主ですが、この小屋に住んでいたであろう男が、アリシア・カムリを追跡してきたドルバ剣士長を退けたと言っていたとのことです!」
「へぇ、そっかぁ」
マーニィは剣士の報告を聞き、まるで興味無さげな態度でそう答えた。
今、彼女はラグが過ごしていた森の小屋の前に立っている。
どことなく生活感がなく、しかし人が確かにそこで寝起きしていたという感覚を感じ取りながら。
「で、お嬢様の行方は? 何か吐かなかった?」
「ある程度は尋問したのですが、何も」
「ある程度?」
マーニィは剣士の言葉を聞いて目を細くした。
彼女が振り向くと、剣士はビクッと体を震わせる。
その目があまりにも冷たい目をしていたから。
「ある程度ってどの位? 指折ったり、太ももにナイフ刺したり、耳を削ぎ落としたり、ある程度は痛めつけたんだよね?」
「あ、あ、いえ、……そこまでは……。さすがに一般人ですので……」
「なっさけな」
マーニィはそう言って剣士の方を振り返ると、大きく右手を払った。
いつの間に抜いたのだろうか。
その他には細めの刀身の剣が握られている。
「それでよくバルト国剣士団を名乗れるねー。ちょっと反省しな」
「は、はいーー!」
剣士は肝っ玉が縮み上がる思いだった。
第三軍のマーニィと言えば、冷酷非道。
老若男女問わず、目的達成のためならあっさりと斬り捨て、拷問となれば、「こんな目に遭うくらいなら死を選ぶ」程の苦しみを与えるという。
そんな人物の機嫌を損ね、さらに剣を抜いているところを見れば、間違いなく立腹している。
幸い、まだ自分は斬られていない。
ならば、さっさと謝ってしまおう。
この剣士はそう思い、
「申し訳ありませんでしーーー」
と頭を下げた時。
両目の中心に何やら赤い点が付いている。
その点はプツプツと増え、次第に点と点が結ばれて一本の線となり、頭をグルリと一周して繋がった。
剣士はそれに気付くことなく、
「ーーた!」
と言った瞬間、ズルリと両目から上。
額と頭頂部がずれて地面にベシャリと落ちた。
それから下の、体の部分も追い掛けるようにして地面に倒れたのだ。
剣士は斬られる前だったのではない。
既に斬られた後だった。
「あーらら。詫びる前に死んじゃうなんて、フェルディナントはどんな教育してんだか」
と、マーニィは悪びれる様子は全くなく、元剣士の体に「ぺっ!」と唾を吐きかけた。
その様子を見ていた他の剣士は、恐る恐る彼女に次の指示を請うた。
「マ、マーニィ様。いかがされますか? 例の酒場の店主をもう一度……」
「いや、もういいよ。どうせ何したって口割らないだろうから。それに時間の無駄だし」
「は、はぁ……」
「シンの言った通り、旧街道を目指すよ」
「旧街道に……?」
マーニィの言葉に、剣士はやや怪訝な表情を見せた。
「そ、旧街道。シンの言う通りなら、旧街道のどっかにお嬢様はいる。多分、奴と一緒にね」
「シン様が……、どうしてそのようなことが?」
そう問われ、マーニィは悪戯っぽい、年に合わぬ可愛らしい笑顔を浮かべた。
「さぁてね、シンに聞いてみて♪」
剣士はその笑顔を目にして、体が凍るような感覚を覚えたという。
怖かった……
こんなのが恋人だったらゾッとします。
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