表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/37

彩菜の決心

 翌朝。いつものように君の家のインターホンを押す。

 いつも通り、代わり映えのない朝。なんだけど、ちょっとだけドキドキする。


 もう、昨日君が変なことを言うからだよ。

 何にも考えてなかった私だって悪いんだけどさ。


 インターホンを押して少しすると君が玄関から出てくる。

「おはよう」

「おう」

 君の挨拶はいつもより短い。照れ臭いんだろう。こっちを見ない。

 私だって照れ臭い。けど、素知らぬ顔で切り出した。


「昨日のことだけどさ」

「ん」

「鈴木先輩のこと聞いてくれるように、田中くんにちゃんと頼んでよね」

 私が念を押すと君は肩透かしを食らった顔になった。


「は? そっちかよ」

 照れくさいのを忘れたらしい君が私に顔を向けてくる。

「そっちもこっちもないでしょ。大事な友達のことなんだから」

 私はしらばっくれて、他に何があるのとばかりに君を見る。


 昨日の間接キスうんぬんはもう忘れた。消去。それがいい。

 だって私は君とのこの空気が好きだ。肩に力が入らない、気兼ねもいらない。そんな君との時間が。


 変に意識して壊したくない。

 ずっとこのままでいたいって思う。


「あー、そうだったな。頼んどいてやるから安心しろって」

「よし頼んだ」

「へいへい」

 君は頭の後ろで腕を組み、適当な返事。こんな風に言っていても、わりと真面目な君はちゃんと聞いてくれるだろう。


 秋らしく大分温度の低くなった朝の空気を切って、私と君は学校へ向かった。



 また日が変わっての翌々日の朝。私は彩菜の姿を見かけると、挨拶もそこそこにぐっと親指を立てて見せた。

「千尋、それって」

 そそくさと私に駆け寄ってきた彩菜に、小声で君から聞いた内容を話した。

「大丈夫。鈴木先輩、付き合ってる人も好きな人もいないって」

「よかったぁ」

 彩菜の体から力が抜ける。ここ数日、ずっと緊張してたもんね。


「おはよう」

 そこへすみれも合流してくる。私はすみれにも同じことを話す。

「そうかあ。よかったね、彩菜。まずは第一関門突破だよ」

 すみれがほっと目元を柔らかくした。

 やっぱりすみれも心配していたんだね。私も結果を聞くまでドキドキしていたもの。


「えへへ、うん。ありがとう!」

「ここで安心しちゃだめよ。今度は先輩にアピールしないと」

「うん、そうだね。頑張る」

 彩菜がぐっと拳を握ってみせた。

「そうそう、その意気よ」

 私とすみれはそんな彩菜の肩をぽんぽんと叩いた。


「けど、どうやってアピールしたらいいのかな」

 鈴木先輩と一緒になるのは体育祭の練習の時のみ。それも学年ごとの練習がほとんどなので回数は多くない。


「廊下とかですれ違った時に挨拶するとか」

「階が違うのにすれ違わないよ」

 私の意見に彩菜が首を横に振った。うちの中学校の場合、一年生は一階、二年生は二階、三年生は三階という風に分かれている。


「じゃあ、朝、校門で挨拶とかは? 先輩が来る時間に合わせたらいいじゃない」

「あ、それなら」

 彩菜の頬がふわっと染まる。恥ずかしそうにうつむいた。


「それなら、してるの。おはようございますって言ったら、先輩いつも手を振って笑いかけてくれるんだ」

 凄い。彩菜、自分から積極的にいってるんだ。

 私だったらきっと出来ないなあ。


「わ、いいじゃない」

 すみれも驚いたようにぱちぱちとまばたきをした。


「でもでも、それくらい普通だしっ。他の先輩といるからそれ以上話かけられなくて。リレー練習で一緒の時はなるべく話しかけてるんだけど、私ばっか一方的に話しちゃうし」

 彩菜がもじもじと自分の指をこねくりまわす。この言葉に、私とすみれは顔を見合わせた。


 そこまで出来てるなら、私たちの出る幕なんてないんじゃない?


 すみれの目も私と同じことを語っている。二人でうん、と頷きあった。

「それでいいよ、彩菜。頑張れ」

「うんうん。その調子だよ。応援してるからね」


 それから毎日のように彩菜からは先輩の話題が出た。


 今日も挨拶を返してくれた。その時の笑顔が素敵だった。と頬に手をやってうっとりと。

 今日の部活は少しだけ調子が悪そうだった。大丈夫だろうか。と心配そうに眉を下げて。

 今日はたまたま階段でばったり会えた。すっごくラッキーだった。と花が咲いたみたいな顔で。

 今日はリレーの練習の日だった。けどあまり話せなかった。としょんぼり項垂れて。


 などなど。


 彩菜は先輩の事で一喜一憂。ころころと表情を変えてみせる彩菜は、とても生き生きしていて、可愛くて私とすみれまで幸せな気分になった。恋ってすごいなって思う。



 そんな風に日々が流れていき、いよいよ体育祭が近づいてくると、彩菜がぐっと右手を握って宣言した。


「決めた! 私、体育祭の日に先輩に告白する」

「えっ!?」

本気(マジ)で?」

 いつもの昼休み、突然の宣言にびっくりした私とすみれの声は、思わず裏返った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ