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【完結】親によってヤクザに売られた俺は、いつしか若頭になっていた。  作者: 松竹梅竹松
第5章

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第5章 第16話 終結

「改めまして! 若様、組長就任おめでとうございます!!!!」

「……どうしてこうなった」



 抗争終結から約1ヶ月後。俺はヤクザの組長になっていた。と言っても鎧波組のではない。鎧波組から枝分かれした新しい組織。葛城組という三次団体の組長だ。



「前にパパが言ってたじゃない。パパの弟分だった玄葉さんが裏切ったお詫びとして組を持たせるって」

「俺断ったよな!? 組長なんかやりたくないって! まだ三次団体の組長だけならいいよ所詮は枝組織だから! でも兼任で鎧波組の若頭! なんでこんな順調な出世コースに乗ってるんだよ!」

「こればっかりは自業自得よ。抗争が終わったのならおとなしくしてればよかったのに、ここぞとばかりに暴れ回ったんだから」



 俺と舞の部屋にやってきた結愛がため息混じりに正論を叩きつけてくる。確かに結愛の言う通りではある。1ヶ月前の一件……とりあえず表向きは鎧波組の介入はなく、あくまで論馬組内の内部抗争ということで済ませたがそれはあくまでそういうことになっただけ。それを信じるほど警察も他組織も甘くない。



 この一月の間に警察が三回も事務所に捜査してきたし、論馬組の下部組織が仇を取ろうとちょっかいをかけてきた。その度に蜘蛛道に約束が違うと圧力をかけ、詫びとして色々奪ってやった。その結果がこの様。奪ったシマを俺が管理するハメになったというわけだ。



「でもしょうがないだろ……弱みがあったらつけこみたくなるんだから……」

「さすがは組長さん。根っからのヤクザっぷりに感服いたします」



 嫌味とも思える言葉を吐きながら部屋に入ってきたのは、葛城組若頭。玄葉龍華だ。



「わたくしも若頭として組長さんを見習わないといけませんね」

「いい気になるなよ。ただお前しか組員がいないってだけだ」



 厳しい台詞を吐いたが、俺が組長を引き受けたのは龍華のためというのが大半だ。鎧波組を裏切り論馬組についた龍華。しかし論馬組はこの一件を受けて解散へと追い込まれた。だからといって鎧波組に戻るには相応のケジメが必要だし、父親のもとに帰っても未来はない。そんな彼女の居場所を作るために、俺は組を結成したのだ。



「その分ちゃんと働けよ……。葛城組のシマは元々玄葉組が治めていたシマだ。俺には勝手なんてまるでわからないんだから」

「わかってますよ。組長さんは極道の世界のイロハというものを知らないでしょう? わたくしが完璧にサポートしてみせます」



 悔しいが……いや全然悔しくないけど、俺はヤクザの世界のルールはあまり知らない。いずれ去る場所だし、何より嫌いだから。そんな奴が組長だ。無駄に敵を作りたくはない。そのためにヤクザの世界で生きると決めていた龍華の存在はありがたい。特にこれから行われる儀式を前にしては。



「お嬢様の説得を受け、わたくしもいずれ極道の世界から抜けることが目標になりました。ただそのためには禍根を残さないことが重要です」

「説得力が段違いだな」

「ええ。わたくしの父のような不義理を働かないためにも、しっかりと臨んでください。兄弟盃の儀を」



 それから三時間後。俺は鎧波組組長自宅の一部屋に、和服に着替えてから向かった。普段は宴会用に使われる大きな和室だが、今日は紅白幕が垂れ下がり、仰々しい神棚まで作られている。今から俺はここである人物と義兄弟になる。昔より遥かに嫌いになった、あの男と。



「よぉ葛城ぃ。今日はよろしく頼むぜぇ」

「……蜘蛛道」



 蜘蛛道海斗。論馬組が解散し、その後継組織である蜘蛛道組組長になった奴だ。普段は胸元を開けた派手なスーツを着ている蜘蛛道だが、今日は堂々とした和服で臨んでいる。



「そう睨むなよ葛城ぃ。俺は二次団体の組長、お前は三次団体の組長。差は開いたが、俺たちは五分の兄弟になるんだ。そう感情的になるなよぉ」

「差なんてどうでもいいし義兄弟もまだ納得してない。俺の兄弟は二人だけだ」

「んなこたぁわかってんだよ。俺だってお前と対等だなんて御免だ。俺の方が上じゃなきゃ我慢ならねぇ。ただ抗争を終わらせるにゃあこれが一番手っ取り早い」



 論馬組は解散したが、蜘蛛道組ができたことで実質的には何も変わっていない。そして鎧波組との間で抗争が起きていたのも消えようがない事実だ。それが終結したと示すには、トップ同士が手を取り合う姿を見せるのが最適。だから納得できずとも、兄弟盃を交わすことで形式上は和解した。そう見せることがわかりやすい抗争の終わらせ方だ。でも……やっぱり納得できない……!



「お前なんであんなに藍羽と仲良さげなんだよ……まさか手出したりしてないよな……!?」

「安心しろよ。ガキにゃあ興味はねぇし、あいつが一番好きなのはお前だ」

「俺が聞いてるのはお前のことだよ。……なんであの時、藍羽を助けた」



 イルヘイムの魔の手にやられ、欲に溺れそうになっていた藍羽。そんなあいつを救ったのは蜘蛛道だ。自分の道を示すことで、藍羽の心を救ってくれた。俺じゃなく、蜘蛛道が助けたんだ。



「お前の弟がクスリに負けたってのは聞いた。藍羽を助けたのはそれだけが理由か? もし別の理由があるとして……それを藍羽が望んでいるのなら……俺は……」

「うっせぇなぁ思春期野郎。一々男女の関係に結びつけてんじゃねぇよ」



 警察に目を付けられているから小規模の集まりとはいえ、上位団体の幹部も参列している。これ以上話をするつもりはないとばかりに、蜘蛛道は去っていく。



「俺ぁただ男を見せただけだ。それ以上の意味も理由も必要ねぇよ」



 ……藍羽は言っていた。俺と蜘蛛道は似ていると。正直納得していないが、少しだけわかった気がする。今時のヤクザらしくないんだ。俺も蜘蛛道も。賢い生き方はできそうにもない。俺も蜘蛛道に倣い、決まった位置に座り込む。



 やがて式が始まり、媒酌人の鎧波組組長が長々とよくわからない言葉を並び立てる。そしてそれも十分を過ぎると、対面に座る俺と蜘蛛道の前に酒が入った御猪口が並べられた。これを呑むことで盃を交わすということになる。



「……え、本当に飲むの? 俺未成年なんだけど……」

「心配すんな。これは神酒。未成年が飲んでも違法ってわけじゃねぇ」



 この期に及んで怖気づいてしまう俺を放っておき、一口に盃に入った酒を飲み干してしまう蜘蛛道。わかっている。これを飲むことに法的な問題はない。ただ俺がまだ覚悟を決められていないだけだ。



 ヤクザの世界が嫌いだ。盃とかそういう決まり事がどうにも肌に合わない。でも……男を見せる、か。



「……かっこいいよな、少し」



 ここであれこれ方便を垂れて逃げ出すことはできる。でもそれじゃあ格好がつかないだろう。何よりなんか、負けた気がする。俺も蜘蛛道に倣い一口で神酒を飲み干してみせた。



「ぅぇ……まっず……なんだこれ……ぉぇ……」



 初めて飲んだ酒の味はとにかく最悪だった。やっぱりこういう世界は俺には合わないようだ。ただそれでも飲み干してみせたのは、負けたくなかったから。やっぱりどこまでも嫌いな奴に、舐められたくなかったから。



「言っとくけど俺もお前を対等だなんて思ってない。俺の方が上だし、お前がどう思ってようがあいつを幸せにするのは俺だ。わかったかばーか!」

「お前この一口で酔っぱらったのか……? まぁいいさ、お前の言う通りだ。五部の盃を交わしたが対等だなんて思ってねぇ。隙を見せたらいつでも喰い千切ってやる。だからこれからも負けんなよ、兄弟ぃ」

「上等だ! お前が舐めたことしたらいつでもぶっ潰す! だから俺にそんなことさせんなよ兄弟!」



 こうして長いようで短かった抗争は、完全に終了した。

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