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【完結】親によってヤクザに売られた俺は、いつしか若頭になっていた。  作者: 松竹梅竹松
第5章

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第5章 第8話 開戦

 ホテル『山蘭館』。歴史は古く大正時代に建てられた、森の中にひっそりと佇む三階建ての洋館だ。周囲を木々に囲まれ秘匿性が高く荘厳な雰囲気もあって、昔から権力者の間で愛されている人気のパーティー会場。今夜そこを貸し切りにして、高城一郎主催の政治資金パーティーが行われる。



 そもそも政治資金パーティーとは、金を得る手段に制限のある政治家が資金を得るための会だ。有力者に参加費となるパーティー券を買わせ、開催費から差し引いた金額を懐に収めるという会合。今回は表向きには高城一郎の慰労会という名目になっているが、その実態は大きく異なっている。



 参加者はいわゆる高城派と呼ばれる国会議員に、それを支える企業の役員たち。そして非営利活動法人を運営しているということになっている、俺の両親。論馬組の幹部も会場に来てはいるが、表に存在してはいけないヤクザもの。前に出ることはないだろう。しかし参加者に論馬組の存在を知らない者はいないはずだ。それを証拠に論馬組の若衆がホテルの周りを警備している。



 参加者は高城一郎に金を差し出すことで目には見えないヤクザとのパイプを築き、両親は様々な企業と知り合うことでイルヘイムを使ったビジネスチャンスを作る。高城一郎は表から、論馬組は裏からその存在感を示しながら金を得る。そして関係者が一堂に会したことで攻めてくるであろう鎧波組を控えさせたヤクザたちで返り討ちにする。それが敵の目的だ。



「突入は会が終わった後……参加者が全員帰った直後だ」



 俺は木の陰の警備から見えない位置でそう指示を出す。



「一番楽なのはパーティーの最中。邪魔な連中が一か所に押し込まれている間に本丸を潰すこと。でも向こうもそれを一番警戒してると思う。だからその逆を突く」

「逆?」

「パーティーが滞りなく完了したら『終わった』って思うだろ。それがパーティーが終わったことでもいい。終わった、と明確に一息をつくタイミングがあることが重要だ。気を張った中で心の片隅に『終わった』という感情が少しでも出ればそれは心理的な隙になる。そこを狙って攻め入る」



 おそらく両親、論馬組、高城一郎はすぐに帰ることはしないだろう。今回のパーティーの本質を知っている関係だ。必ず集まってその結果を確認する時間を作る。そこを狙えば本当に潰したい奴らだけ終わらせることができる。だからこそ光輝、舞、皆川さんという論馬組が最も警戒している三人が正面から突入する。



「じゃあ頼んだぞ、星閃」

「おう。必ずクソ親どもを連れてこいよ。俺もぶん殴りたいから」


「雪……本当に大丈夫ですか?」

「心配しないでよ姉さん。お父さんをきっちり絞めてきてね」



 ただしその光輝と舞は本人ではない。俺の兄である星閃がスーツを着て、舞の妹である雪がメイド服を着る。そこに本物の皆川さんがいれば、俺たちの顔を見たことがある奴らですら見違えるはずだ。最も上手い嘘のつき方は、9割の真実の中に1割の嘘を仕込むことだから。組員たちが正面に回ったところを本物の俺と舞、そして結愛が裏口から入り込んで警備が手薄になった本丸を潰す。それが今回の作戦だ。



「お嬢……ご無事で」

「ええ。皆川も気をつけてね」



 結愛の世話係である皆川さんが腰から頭を下げる。今回一番危険なのは皆川さんだ。一般のホテルの中、おそらく銃火器が使われることはないだろうが、星閃と雪を守りながら囮を務める。いくら皆川さんが強いからといって、無事でいられる保証はない。



「皆川さん、俺からもお願いします。危ないと思ったらすぐに逃げていい。だから必ず無事に帰ってきてください」

「はい。カシラ……いや、光輝」



 俺にも頭を下げた皆川さんだが、その口調が急に変わる。いや、戻ったという方が正しいか。俺が出征する前……家に取り立てにきたヤクザだった時のものに。



「まったく……まさかあの時のクズなガキに大切なお嬢の命を任せるなんてな……」

「はは……俺もこんなことになるとは思ってませんでした」


「だろうな……あれから5年。色々あったが……お前に賭けたのが間違いだったと。俺に思わせないでくれよ。お嬢に何かあったら、立場なんて気にせずぶっ飛ばすからな」

「はい。それだけは約束します」



 俺も皆川さんに頭を下げ、車の音が消えるのを待つ。



 「……行ったな」



 参加者がいなくなったかどうかは簡単に判断することができた。駐車場にある車の数、見送りも務める警備の人間の態度。今が一番の好機。



「よし、いくぞ。最後の戦いだ」

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