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【完結】親によってヤクザに売られた俺は、いつしか若頭になっていた。  作者: 松竹梅竹松
第5章

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第5章 第2話 5年ルール

「光輝……いつもごめんね。辛い思いばっかりさせて」

「いや謝るのは俺の方だ。お前に辛い思いをさせないのが俺の仕事なのに……」

「わたくしに謝らせてください。今さら謝っても仕方ないことはわかっていますけど……」

「……え。舞も謝っといた方がいいですか?」



 生徒会室に龍華を連れ込み、結愛と舞と合流する。ついでに気絶した不良三人も教室に放置してると面倒なので連れてきている。こいつらは後で星閃と夜煌に任せるとしよう。



「それで……わたくしに何をするつもりですか。舞さんに頼んで尋問でもしますか?」

「いや下っ端のお前が知ってる程度の情報なんてこっちもとっくに把握してる。必要ないよ」



 まだ身体が動かない龍華が床に転がりながら悔しそうに歯ぎしりする。元々こいつは俺のことが気に入らないみたいだからな……そんな俺に見下されて悔しいのだろう。そんな奴にこれを言うのは酷だが……。



「ゴールデンウィーク中、お前の父親に会ってきた」

「お父さんに何したの!?」



 父親の名を口にした途端、倒れていた龍華が立ち上がって俺の胸倉を掴んでくる。しかしすぐに力が入らなくなったのか、するすると俺の服に手を這わせながら再び床に崩れていく。



「なに怒ってんだよ筋違いだろ。先に俺たちを裏切ったのはお前らの方だ。俺が裏切者に容赦しないってことは知ってたはずなのに」

「それは……でも……!」


「これまでは結愛に免じて見逃してやってたが、その結愛がいいって言うならそりゃケジメをつけさせに行くさ。お前は認めたくないようだけどこれでも若頭なんでな」

「っ……!」



 元々龍華の父親とは面識があった。下部組織だったが組長の弟分だったから。それなりに良くもしてもらっていた。しかしひさしぶりに見たあの人の姿は、記憶とはずいぶん変わっていた。



「血生臭い極道の世界から離れて生まれ育った田舎でスローライフ……ってつもりだったようだが、ずいぶん悲惨だったよ。農業をやってるようだが畑は荒らされて、家もボロ小屋……ほとんどホームレスだ。まぁしょうがないよな。娘に指示して兄貴分の組の若頭を刺したんだ。うちの組員が手を出さなくても勝手に別の組織がやってたみたいだよ。本当に怖いよな、5年ルールってのは」



 暴力団から抜けても5年間は反社会的勢力と見なされる……それがヤクザの5年ルールだ。そもそもが反社会的組織……形式上抜けたとなっていてもまだつながりがあるかもしれない。完全にヤクザとの関係が絶たれたと確認できるまでヤクザと同義と見なす……それが5年ルール。カタギの皆様には安心安全な法律だが、当のヤクザからしてみれば最悪の法律だ。



「5年間口座も作れないし家も借りられない。就職したとしても元ヤクザだと発覚した時点で解雇される。しかもケジメもつけないで組から抜ければ元同業者から狙われる……直接手は出さなくても、いくらでも嫌がらせの手段は思いつく。もうカタギに戻ったってのに警察だって守っちゃくれない。ヤクザを辞める時は全てを清算した時ってのは間違いないな」



 龍華は論馬組から父親を助けるため、俺に刃を向けた。それで敵からは許してもらったとしても、今度は味方が敵になるだけ。決して平穏な生活が待っているわけではない。結果として龍華はミスを犯したわけだが、ならどうすればよかったというのだろう。



「この5年ルールのせいでヤクザの社会復帰は妨げられてる。裏社会にいても地獄、抜けたらさらに地獄……だったらよりマシな地獄にいた方がいい。そう思うのは当然だよな。でもそれはヤクザの側の理屈。真っ当に生きている人たちにとって、たとえ元だとしてもヤクザだった人間となんて関わりたくないんだ。嫌なら初めからヤクザなんかやらなきゃいいんだ。俺たちに反論する権利なんてないんだよ」



 ……もういいだろう。無理矢理怯えさせるものじゃない。



「結論から言うと、俺たちはお前の父親に何もしていない。約束は一つ結んだが、それ以外は何もない。お父さんは無事だよ」

「ほん……とに……?」


「俺はしてもよかったんだけど、結愛がな。うちの下部組織にもやめるよう通告を出しておいた」

「だって嫌がらせなんてしても誰も得しないじゃない」



 あまりにも当然のことのように結愛は言う。裏切者を見逃すリスクを知らない……というわけではもちろんない。俺よりも長い間……生まれてからずっと、極道の深いところで生きてきた。それが鎧波結愛という傑物だ。



「龍華のお父さんを助けるため……というのはもちろんあるけれど。こうするのが一番手っ取り早いと思ったのよ。だってせっかくの弱点なのだから。留飲を下げるんじゃなくて、もっと効果的に使わないと」



 俺は蜘蛛道に忠告している。あいつは覚えていない……いつものような俺のでまかせだと思っているだろうが、これは紛れもない事実だ。



 俺は所詮詐欺師のなり損ない。言葉を弄し感情を利用する。だがヤクザは違う。心などどうでもいい。脅迫で行動を縛りつける。龍華は父親のために俺たちを裏切った。ならばこちらの人質にもなり得るということだ。



「龍華。二重スパイ、やるわよね?」



 論馬組は起こしちゃいけない本物の極道の血を、既に目覚めさせてしまっている。

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