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【完結】親によってヤクザに売られた俺は、いつしか若頭になっていた。  作者: 松竹梅竹松
第4章

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第4章 第12話 信じる心

 俺が信頼できる筋に頼んで作ってもらった改造スタンガン、『卑雷針(ほのいかずちのかみ)』。発生した電撃の光と音は、それこそ雷と錯覚させるほどのものだ。本来の目的はその二点による脅しと囮だが、当然威力も普通のスタンガンとは桁違い。喧嘩慣れしてる奴も電気の耐性があるわけではない。どんな強者だろうが当たりさえすれば確実に失神まで持っていける。そう、当たりさえすれば。



「どうしたぁ? 強気は口だけかぁ?」



 だが目の前の敵、蜘蛛道は多少鍛えてる程度の俺とは違う、本物のヤクザ。当たれば勝てるとわかっているのに、その当てるという行為までの距離が果てしなく遠い。今は前に構えることで間合いを詰められることを避けているが、このスタンガンは威力の分バッテリーの減りが早い。連続稼働時間は約1分。予備のバッテリーも当然持っているが、こいつ相手に入れ替えている余裕はない。だから攻めないといけないのだが……一歩でも踏み込めば命を取られる。相手はステゴロだというのにその直感が俺の動きを鈍らせていた。



「来ないのならこっちからいくぞぉ!」



 手の下から何かが突き上ってきた。それが蜘蛛道の蹴りだと気づいた時にはもう遅い。俺のスタンガンは空中に放り投げられていた。



「くっそ……!」

「失った得物を目で追わなかったのは偉い。だから何だって話だけどなぁ」

「ぐうぅぅ……!」



 咄嗟に腕をクロスさせて傷を負っている腹を隠したが、蜘蛛道が振り下ろした拳はそのガードを軽々と突き破り腕と身体を痺れさせてくる。



「はぁぁぁっ!」



 蜘蛛道が動いたのを見て藍羽が前に出るが、それに俺が気づいた時には藍羽の身体は蹴り飛ばされて遠くの壁に激突していた。



「あいがはぁ!?」

「女を気にしてる余裕があるのかぁ?」



 藍羽を捉えていた視界が揺らぐ。おそらく顔を殴られたのだろう。痛みで気絶することは免れたが、床に崩れ落ちた身体はもう言うことを聞いてはくれなかった。



「二発でKOか。思っていたよりはできるようだが、所詮は喧嘩慣れしてないガキ。お前の敗因は一つだ葛城ぃ。俺と殴り合いを選択したこと。交渉だったら勝ってたかもしれないのによぉ」



 もうどこが痛いのかもわからない。ただ確かなのは、手元に卑雷針がないこと。そして倒れながらも、まだ何とか立ち上がれる余力はあるということだ。



「死にたくなかったら降参しろ。ただしてめぇがさっき言ってた若頭を降りるという話はなしだ。玄葉を返すという話もなぁ。お前は俺に選択肢を与える立場じゃねぇ。俺に生かしてもらう立場なんだよぉ」



 ……確かにその通りだ。敗者に交渉の権利は与えられない。敗者だったらの話だが。



「――舞! 今だ!」



 蜘蛛道の視界にメイド服の白い布が映ったのだろう。蜘蛛道の腕はまるで負けを認めるかのように防御姿勢を取った。それが舞の服ではなく、藍羽が放ったただの白い布だと気づいた時にはもう遅い。



「知らないのか? いつだって切札は二枚。派手な武器を見れば、静かな武器は見落とすよな」



 卑雷針を雷神と呼ぶなら、この改造スタンガン、『(なぎ)』は風神。小威力ながら音と光が発生しない俺のもう一つの切札が蜘蛛道の腹に突き刺さっていた。



「クソがぁ……!」



 市販のスタンガンよりも威力のない一撃。当然失神までは至らないが、電流を浴びた蜘蛛道の動きは確実に鈍くなっていた。



「俺の言葉は信じないんじゃなかったのか蜘蛛道ぃ!」

「舐めやがってクソガキがぁぁぁぁ!」



 床に落ちていた卑雷針と凪の二刀流で蜘蛛道に襲い掛かる。卑雷針はもとより凪も威力は低いが当たれば一秒は身体が硬直する……つまりどちらかが当たれば実質的に勝利を収められる。加えて相手は手負い……なのに。



「俺を舐めるんじゃねぇぇぇぇ!」



 俺の身体は藍羽とは逆の壁に叩きつけられていた。



「はぁ……っ、はぁ……っ。俺の拳を腹に食らったんだ……もう身体動かせねぇだろぉ」

「あぁ……通りで腹が死ぬほど痛いと思った……血が滲んでる……傷が開いたな……」



 壁にもたれかかりながら二丁のスタンガンの位置を確認する。殴られた衝撃で蜘蛛道の後方に飛んでいるな……そして奴の言う通りもう身体を動かすことは難しい。胸元に隠している拳銃を引き抜くことくらいはできるが、撃つ前に確実に潰されるな……はは。



「後ろを気にしなくていいのか……? メイド服の化物が迫ってきてるぜ……」

「言っただろ……お前の言葉はもう聞かねぇ。あの女ももう動けないはずだし切札ももう使い切っただろ……俺はまだ一枚残してあるけどなぁ……!」



 俺もまだ薬という切札は残っているが、使える場面じゃないし、そもそも使う必要もない。



「だから人を嘘つきみたいに言うなよ……俺だってたまには本当のことを言うんだ……。特に舞には嘘を使わないって決めてるんでな……」



 そう、俺は正々堂々と教えてやったのだ。



「……舞は化物なんかじゃない」



 再び蜘蛛道の視界に白い布が映る。今度は防御も回避もしなかった。それが仇となった。



「ぐはぁ……!?」

「これで二度目だね。あんたをぶん殴るのは」



 その布の正体は、メイド服を着た夜煌だったのだから。



「席を外すとか言ってなかなか戻ってこなかったからな。音の鳴る方に来てみたら弟のピンチだ。悪く思わないでくださいよ若頭さん」



 星閃が拾った卑雷針が轟音を部屋に響かせる。不意に顔面を殴られた蜘蛛道はふらふらとしながら、その音の本体ではなく俺に顔を向けた。



「葛城ぃ……いつからこれを狙ってた……?」

「初めから。……なんて言っても信じてくれないだろ? 俺は家族を信じてたけどな」

「……ふん。俺の完敗だなぁ……」



 最後に心の底から笑ってみせた蜘蛛道は、雷撃の前に散っていった。

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