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【完結】親によってヤクザに売られた俺は、いつしか若頭になっていた。  作者: 松竹梅竹松
第4章

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第4章 第11話 嘘つきVS嘘つき

「こーくん、殺しちゃだめだよ?」



 失神した百田をテーブルの下に隠していると、まるで子どもに注意するかのように藍羽が言う。



「さっき殺すみたいなこと言ってたけど、そんなことしたら本当にヤクザになっちゃうよ。もう後戻りできなくなる」

「まぁこいつは舎弟頭……組長の弟分だからな。消したら組長との交渉がやりづらくなる。殺すまではしないよ」


「そうじゃなくて。こーくんはヤクザを辞めるんでしょ? ていうかわたしが辞めさせるから。だからわたしが庇えなくなる罪は犯しちゃだめ。わかった?」

「……わかってるけどこいつは黙らせなきゃいけない。事が終わったらそれなりに乱暴な手を使ってでも口封じする。それくらいの武器なんだよ、こいつは」



 改造スタンガン『卑雷針(ほのいかずちのかみ)』。これは本当の切札だ。舞と今見せた藍羽しか知らない、結愛や薬にも秘密にしている俺の生命線。俺は弱く、舞に守られているだけの子どもでないといけない。多少鍛えているという情報くらいは与えてやってもいいが、理外の音と光で隙を作ることが主目的の卑雷針は存在を知られた時点で価値が半減する。だから百田の口封じは必須だ。



「でも蜘蛛道さんから逃げる時音を出したでしょ? だったらあれはまずかったんじゃないの?」

「それは……もし藍羽に何かあったらって思うと……手段を選んでられなかったから……」

「ふふ、そゆこと。こーくんはわたしをがっかりさせられない。乱暴なことはしちゃだめ。だめって言ったらだめだからね?」



 イタズラっぽい笑みを浮かべられ、ため息をつくことしかできない。本当にこいつには敵わないな……舞と一緒に拷問でもしようと思ったが、薬から情報を仕入れて言葉で脅すとしよう。まぁそっちの方がひどい結果になりそうな気もするが。



「とにかくここから出よう。狭い室内で会敵なんかしたら逃げようがない」

「いやその必要はないぜぇ葛城。もう逃げる必要なんかないんだからよぉ」



 最悪だ。部屋の外で事が終わるのを待っていたのか、蜘蛛道が入ってきやがった。



「舞と合流するって言っただろうが。それなのに兄貴たちがいるであろうこの部屋に俺たちが来るわけないだろ。ちゃんと考えてんのか?」

「お前のやり口は知ってる。信じるわけがねぇだろうが。この調子だと高城舞も来てないみたいだしなぁ」


「ひどいな、人を嘘つきみたいに言いやがって」

「大嘘つきだろうがてめぇはよぉ」



 もうさっきの手段は通じない。舞がいないこともバレている。……詰みだな。



「さぁこれからどうする? どうやって俺を楽しませてくれるんだぁ?」

「いや降参。参った。俺たち鎧波組の負けだ」



 最悪なのは組長と交渉するという作戦が潰えたこと。だったら別の作戦に切り替えるだけだ。



「この戦争は鎧波結愛が仕掛けたもの。そして俺が乗ったことで始まったものだ。責任を取って俺たちは鎧波組を辞める」

「……お前、何のつもりだ?」


「ただ俺の隣にいる子は元警視総監の娘でな。色々と警察にツテがある。そんな女の子に襲い掛かってきた馬鹿がいたよな。その責任は親分であるあんたに支払ってもらいたいわけだが、俺も鬼じゃない。玄葉龍華を返してくれたら水に流してやる」

「……はっ、それが初めから目的だったか」



 今さら何を言っているんだか。俺は結愛の願いさえ叶えられれば。龍華さえ取り返せればそれでいい。そのための手段が抗争、組長との交渉、蜘蛛道との対決。確実に勝つのが目的だったなら初めから舞を連れてきていた。



「だが残念だったなぁ葛城。そんな提案は呑まねぇ。これでも俺はお前を評価してるんだ。お前の口から出た言葉の時点で答えはノー以外にありえねぇんだよぉ」



 ……やりづらいな。今までの相手なら大抵俺を子どもだと舐めてくれたから楽だったが……やっぱり若頭なんかなるもんじゃないな。まぁそれならそれでいい。俺の言葉に素直に答えてくれている時点で俺の術中なのだ。



「じゃあお前を潰すことにするわ」

「それができないからこうして無様に逃げ回ってるんだろうがぁ」

「逃げた? 違うな。追い詰めたんだよ。俺が、お前を」



 瞬間部屋に電撃の光が灯る。俺の切札、卑雷針。



「そんな武器で俺をどうこうできると思ったか?」



 だがその光はすぐに消え失せる。胸に激しい痛みと、倒れた衝撃を伴って。殴られたか蹴られたのかもわからないが、蜘蛛道の一撃を食らったようだ。動き出しすらも見えなかった。やはり化物……こりゃ四人でかかっても勝つのはしんどそうだ。



「が、は……っ」

「こーくん!?」

「要は話せないようにすりゃお前なんか怖くねぇんだ。痛みでまともに呼吸もできねぇだろぉ?」



 駆け寄ってくる藍羽と、そんな俺たちを見下ろし余裕そうに笑う蜘蛛道。悔しいが肺の痛みで動くどころか話すこともできやしない。



「お前は会う度別の女を連れてるなぁ。いや別に責めてはないんだぜ? 女遊びはヤクザの華だもんなぁ」



 俺が話せないとわかり勝利を確信したのだろう。蜘蛛道が椅子に腰かけてベラベラと語り出す。



「何人もの女ととっかえひっかえ遊ぶ。普通の人生じゃありえねぇもんなぁ。でも俺ら極道はそんな倫理観とは無縁の生き物。むしろカタギじゃできねぇ遊びができるのがヤクザの醍醐味ってもんだぁ。女だけじゃねぇ。高ぇモン買って好きに遊んで嫌な奴は黙らせて。こんな人生を送れねぇカタギさんはご苦労なこった」

「今が楽しければそれでいいんですね。他人を虐げる生き方で長生きなんかできるわけない。私から言わせればそれは馬鹿の生き方ですよ」



 反論したのは俺でなく藍羽。蜘蛛道はいいとこのお嬢様の戯言だと馬鹿にしたように一笑に付したが、こいつは何もわかっていない。真に警戒するべきは俺なんかじゃなく、このカタギの女子高生だということを。



「今が楽しければそれでいい……逆だなぁ。今が楽しくなきゃ人生じゃねぇ。お前らガキにゃわからねぇだろうがなぁ……つい一ヶ月前車を買ったんだよ。ガキの頃お気に入りだったミニカーの復刻モデル。5000万もしたが高い買い物だとは思わなかったぁ。さっそくお気にのキャバ嬢隣に乗せてぶっ飛ばしたよ。そんで高級ホテルの最高層に泊まってよぉ。高ぇ肉を食って高ぇワインを嗜みながら夜景を見下ろす……俺ぁ思ったね。生きるってのはこういうことだってなぁ」



 ……楽し気に語る蜘蛛道のその顔は。どこかくたびれたおっさんのように見えた。



「……そんなくだらないもののために組長に謀反を起こそうとしてるんですか?」

「あぁ?」

「鎧波組を調べる中で知りました。あなたが組長に反乱を起こして組のトップになろうとしていることを。その先にあるものが、さっきのくだらない思い出なんですか?」



 蜘蛛道の顔に陰りが見えた。生意気なガキに嘲られた怒りが九割、残り一割は……。



「わたしはそうは思わない……。こーくんと対峙していたあなたの顔は楽しそうだったから。よくある話ですよ。暴れたいだけのヤクザが不相応の地位を手にして幸せを持て余すなんてのは。欲望と能力が噛み合ってない……ようするに器じゃないんですよ。断言します。あなたは成り上がって組長になったところで満足なんかできない。あなたが本当に望んでいることは……!」

「……最近のガキってのはうるさくて敵わねぇ」

「あぁぁぁぁっ!」



 藍羽の顔に蜘蛛道の拳が迫る瞬間。その間にスタンガンを滑り込ませる。当たりこそしなかったが、攻撃の軌道ははっきり見えた。怒りで攻撃が雑になったんだ。



「……はは。藍羽の言う通りだ器じゃねぇよ。すぐ沸騰して溢れ出しちまう。インテリ気取ってるようだが根はどこまでもただの馬鹿なヤクザだ」

「葛城……てめぇ!」



 立ち上がり、再び卑雷針を構える。



「確かに俺にはあんたの言うことはまるでわからないな。俺の人生にそんな成金じみた未来はいらない。ただ好きな人と一緒に、誰にも迷惑をかけず、普通に。真っ当に生きられればそれでいい」



 作戦変更だ。このまま降伏して真の目的だけ通すつもりだったが……気に入らない。



「じゃあ聞くが葛城ぃ……。そんな人生の先に何がある。真っ当にカタギとして生きて、ヤクザの若頭以上のアガリが見られんのか? あぁ!?」

「さぁな。何が見られるのか……どんな未来が待ってるのかなんて俺にもわからない。だから楽しいんだろ? 人生ってのは」



 どうやら俺も器じゃないようだ。カタギとしての器がまるでない。気に入らない奴は真正面から叩き潰したくてしょうがないらしい。



「俺はあんたの未来を否定する。だから潰させてもらうよ、蜘蛛道海斗」

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