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【完結】親によってヤクザに売られた俺は、いつしか若頭になっていた。  作者: 松竹梅竹松
第4章

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第4章 第8話 最強タッグ

「いよいよだね、こーくん」



 星閃が蜘蛛道と接触する18時五分前。俺と藍羽は論馬組事務所の入口が見える物陰で待機していた。



「聞くところによると論馬組組長はよくいる社長タイプらしいね。好き勝手暴れられた下っ端の時はすごかったけど、出世して安定を覚えたらすっかり耄碌した老人。人の上に立てる器じゃないっていうのかな。何にせよ狡猾な若頭よりよっぽど扱いやすい。交渉するなら絶対そっちの方がいいよ」



 藍羽の意見は俺の思惑と概ね同じだった。星閃と夜煌が蜘蛛道と話している間に組長と接触、舞の存在をちらつかせながら降伏させる。そのためにも組長とどう交渉するかを考えなければいけないのに。



「……藍羽。やっぱり俺一人で行く。藍羽はここに残っててくれ」



 俺の頭の中には薬からの一言。藍羽を切り捨てる覚悟がなければ死ぬという忠告が何度も響いていた。



「考えてみれば交渉は俺一人で充分だ。むしろ藍羽の存在は邪魔になりかねない。だから残ってくれっていうか残ってろ。俺が全部終わらせる」



 情けない話だが、どこまで非情ぶろうがきっと俺は藍羽を助けてしまうだろう。絶対に切り捨てるなんてできない。結愛が親に売られた俺を助けてくれた存在なら、藍羽はそれまでの俺を助けてくれた存在だ。決して見捨てられない。たとえ俺が死ぬ結果になろうが藍羽の身を優先してしまう。それがわかっているから藍羽には……。



「……今のこーくんちょっと変だもんね。いつもなら潰すって言ってるところを、止めるって言ってた。自信がないんだね、勝つ自信が」

「……お見通しか」



 おそらく薬の言っていることも藍羽の言っていることも当たっている。俺は蜘蛛道に勝つことができない。少なくとも、薬の言うように自分から攻めるという方法では。



「まぁこーくんがびびる気持ちもわかるよ。そのお腹の傷はまだ癒えてないもんね。それにまた玄葉さんを使われたらこーくんは抵抗できないだろうし。結愛ちゃんが玄葉さんを取り戻したいと思ってる限り玄葉さんは強力な人質でしかない。こーくんは圧倒的に不利だよ」

「……だろうな。そしてその隙を蜘蛛道は見逃さない。正直敗北濃厚だ。でも結愛のメンタルが弱っている以上攻め急がないわけにはいかない。わかってるけど……どうしようもないんだよ」



 蜘蛛道が張り巡らせた巣に捕まっているような感覚だ。どう足掻いても詰んでいる。それはお互いわかっているはずなのに。



「でもうれしかったんだ。こーくんがわたしを頼ってくれて」



 藍羽は笑っていた。



「潜入という手段を取る以上帯同できるのはせいぜい一人。普通に考えたら高城さんが一番だけど、こーくんはわたしを選んだ」

「それは……失敗した時のために手出しされないような奴を選びたかったから……」


「こーくん的にはそうだろうね。でも考えてるのはこーくんだけじゃないんだよ。わたしだって色々考えてる。友だちである結愛ちゃんをどうやって助けたらいいか。そのためにはやっぱり直接本丸を叩くのが一番だと思った。この状況はわたしにとっても渡りに船なんだよ」



 ああ……そうだった。俺は一体何を考えていたのだろう。藍羽を守ろうだなんて、そんな勘違いをしていた。



「わたしは5年間、ヤクザを潰す方法だけを考えてきた。こーくんを助け出すために。思っていた方向とは違っちゃったけど、この努力は絶対にこーくんの力になれる。元々こーくんは一人で何でもできるってタイプじゃないでしょ。一緒に結愛ちゃんを助けてあげようよ」



 神室藍羽という親友は、なんだかんだ俺の一歩先を行く人間だった。



「ごめん藍羽。俺が間違ってた。一緒に戦ってくれ」

「任せて。わたしがいればこーくんは無敵だよ」



 事務所のドアが開き、中から組員が出てきた。それと同時に雪が指揮する半グレたちが組員に見えるように走り出す。



「待てやてめぇら何者だぁぁぁぁ!」



 想像通り。数人の組員が別々の方向に逃げ出した人影を追って駆けていく。それと同時に後ろに組んだ夜煌の手が大きく開いた。目の前には誰もいない、その合図だ。



「いくぞ藍羽」

「うん」



 一気に駆け出し、星閃たちを追い抜いて事務所の中に入る。これで第一関門は突破。いや、全ての問題はクリアしたと言ってもいいかもしれない。俺と藍羽はゆっくりと、そして堂々と事務所内を闊歩していく。



「お前鎧波の……!?」

「どうも」



 道中何人かの組員とすれ違ったが、反応はされたが止められることはなかった。これも心理的な問題。敵組織の人間が事務所内を歩いているという異常事態。だが異常事態故に、何かの事情があるのだろうと勝手に判断してくれる。おまけにヤクザは縦社会。上の人間が通していると思ってしまえば、それを止めるのは下の人間には不可能だ。俺たちは組長や蜘蛛道がどこにいるのかさえ知らないというのに。



「たぶんこの辺だよ。外から襲撃されづらい、入口から遠い内側の部屋。わたしがトップだとしたらそこにいると思う」



 藍羽の推理を疑う理由はない。俺は藍羽の言う通りの部屋を開け、踏み入る。



「貴様……どこから入ってきた!」

「……ビンゴ」



 完全に藍羽の推理通り。和服を着たサングラスをかけた初老の男性。論馬組組長が俺たちの姿を見て狼狽えている。



「さてと組長さん」

「交渉といきましょうか」



 俺と藍羽。暴力団若頭と元警視総監の娘という最強タッグの戦いが幕を開けた。

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