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【完結】親によってヤクザに売られた俺は、いつしか若頭になっていた。  作者: 松竹梅竹松
第4章

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第4章 第7話 受けの葛城

「よし、約束取りつけられたぞ。この後18時に事務所で会ってくれるそうだ」



 会議を行った放課後。蜘蛛道にアポ取りをしていた星閃が電話を切って報告してくれた。



「しかも組長も事務所にいるらしい。向こうには話した自覚もないだろうが、それとなく探った甲斐があったな。これは大きなアドバンテージだろ」

「さすがはあの親の息子なだけあるな。めちゃくちゃ助かる。ありがとう」



 俺も口は回るが、それは自分の都合を一方的に押し付ける方面の上手さ。相手に話させて情報を引き出すのは昔からコミュ力が高かった星閃の得意分野だ。標的二人が同じ場所にいる……今日というのは急だがこの機を逃す手はない。



「ただ夜煌が謝りたいって体にしたからな。お土産は用意しろってさ」

「なるほど、光輝の情報を売れってことね」



 夜煌は一度蜘蛛道をワインボトルでぶん殴って喧嘩を売ったことがある。俺の手先という可能性が高い以上妥当な条件だろう。



「そうは言われてもどんな情報がいいかな……もちろん中途半端な情報じゃ認めてくれないだろうしなにか教えても大丈夫な弱点があればいいけど……」

「あ、じゃあいい方法がありますよお義姉さん! お義兄さんは写真撮ってください!」



 俺の正面に回ってうれしそうに指示を出す藍羽。……なんか漢字が変な感じしたけど気のせいだろうか……?



「藍羽……何するつもり……」

「えいっ」



 俺の疑問に答えるように、藍羽は背伸びをして顔を近づけると、俺の背中に腕を回してくる。もう数センチ顔を近づければキスをしてしまいそうな距離だ。



「あ……藍羽……これって……!?」

「情報って言ったらスキャンダルでしょ。この写真を差し出すの。あ、わたしの顔あんまり映らないようにしといてください! 若頭と恋愛なんてバレたらさすがにやばいので!」


「いや……でも学生同士の恋愛なんて別になんの弱点にも……」

「この写真高城さんに見せたらどうなると思う?」



 めちゃくちゃ弱点だ。舞は一瞬……というか長時間理性を失うだろう。



「で……でもこれは……」

「ほらこーくんちゃんとわたしの身体抱きしめないと。これも結愛ちゃんを助けるためだよ? ね?」



 ひさしぶりに見た気がする怖い瞳が俺に有無を言わせない。もうめちゃくちゃ恥ずかしいが仕方ない。遠くから見た時にキスしているように見えるような角度に顔を傾ける。



「はいオッケー。もう離れていいぜ」

「…………」


「……藍羽さん? 離れていいって」

「……次はフリじゃなくて、本番でね。それまで初めては守っといてね?」



 ゆっくり顔を離した藍羽が指で唇に触れ、誘うように微笑んでくる。舞としたことあるって言ったら……いや黙っておこう。



「じゃああたしは雪と打ち合わせしとくわ。お兄ちゃんはどう時間稼ぐか考えといてね」



 今回の作戦はこうだ。星閃と夜煌が事務所に訪れる。そのタイミングで見張りから見えるように人影を動かす。見張りのレベルの低さ、監視カメラがリアルタイムじゃないことは以前のカチコミで確認済みだ。見張りが離れたタイミングで俺と藍羽も事務所内に忍び込むという流れ。その囮役はネオンのメンバーが担当してくれる。その指揮といざという時のための脱出の手はずは雪が担当してくれる。さて、俺もやることやっておかないとな。



「舞、そっちはどうだ?」

「若様! はい、予想通り何人か尾行がいます!」



 結愛と一緒に論馬組事務所付近の繁華街を歩いてもらっている舞に電話をかける。忍び込んだ後蜘蛛糸か組長に交渉することになるが、その場にいない舞をいるように見せなければならない。そのためには事務所付近で、尾行の目から逃れることが必須となる。



「18時5分前になったら結愛を連れて本気で走ってくれ。尾行は倒すなよ。報告してくれないと話にならないから」

「わかりましたこっちはお任せくださいっ。それより若様……なんか他の女とイチャイチャしてたような感じがするのですが……」


「……はは。それより結愛と代わってくれるか?」

「それより? まぁ若様の頼みならいいのですが……お嬢、どうぞ」

「……光輝? 結愛よ」



 舞に代わって電話に出た結愛。その声はやはり普段より元気がない。だがそれも今日までだ。



「結愛、必ず龍華は助け出してみせる。全部俺に任せとけ」

「……ごめんね。私がしたいことなのに……私が頼りなくて……」


「いいんだよ結愛は堂々としてくれてれば。誰が何と言おうと俺のボスは結愛だけだ」

「うん……ごめんね……」



 何度も謝罪する結愛の声を聞いていられず電話を切る。……大丈夫。結愛のためなら俺は何でもできるんだ。



「じゃあ俺は相良さんと打ち合わせしてくるわ」



 薬の役目は事務所の外からの監視。何か不穏な動きが起きたら報告するという役割になっている……表上は。



「薬。本当の作戦を話す」



 別室で控えてくれていた薬に俺は語っていく。大まかな作戦内容はみんなに話したものと変わらないが、もしもという時。一発逆転の目がある作戦を。



「……ていうのが今回お前に頼みたいことだ。どう思う?」

「あっしはただのしがない情報屋ですぜ? 作戦の善し悪しがわかるほどの頭はございやせん」


「率直な感想でいいんだ。どれくらい成功すると思う?」

「七割……いえ八割といったところでしょう」


「八割……充分だ」

「ええ。八割の可能性で高城のお嬢が暴れ回って論馬組を潰し、二割の可能性で死ぬと思いやす」



 ……ふざけているのだろうか。いや表情はいつも俺に見せるものと変わらない……ふざけた安っぽい笑顔だ。



「言っただろ。舞は今回の作戦で出さない。あくまでブラフで……」

「でも若旦那が捕まったら助けに来るでしょう?」


「……それは。俺の作戦は100%失敗すると思ってるってことだよな」

「そう熱くならないでくだせぇ若旦那。言ったでしょう? あっしに頭はないって」



 薬は謙遜しているが昔から裏社会の住人と交渉を重ねているプロの情報屋だ。その薬の判断が大きく間違っているとは思えない。



「……理由を聞こうか」

「そもそもあっしなんざに聞いている時点で普段の若旦那とは違うでしょう。それは若旦那もわかっているのでは?」


「いいから理由を話せ」

「まずあっしは葛城の若旦那の味方でも蜘蛛道の若旦那の味方でもないってことは頭に入れといてくだせぇ」


「いいから」

「えー……ではごほん。若旦那、あんた自分の強みを全く理解できてねぇ。あんたの普段の戦い方は後手からのカウンターでしょう? ただ今回は違う。自分から攻めに行っている。だから失敗すると思った。それだけでさぁ」



 俺が……自分から攻めに行ってる……? それは違うだろう。



「まず向こうが俺に嫌がらせしてきてるから……」

「そういうことを言ってるんじゃねぇんですぜ若旦那。普段のあんたなら監視してる三下からとっちめてるはずだ。でも今回それは無視して本丸を攻めに行っている。理由は一つ。その相手が玄葉のお嬢だからだ」


「それは……そうかもだけど……」

「思い返してくだせぇよ。赤熱組を潰した時は組の裏切者を利用したんでしょう? 誘拐された時も相手が高城のお嬢を人質に取ったから勝てた。対して自分から攻めに行った時……星閃のアニキにカチコミに行った時は神室のお嬢に捕まった。キャバクラの時も蜘蛛道の若旦那の罠にはまった。つまりあんたは受けには強ぇが攻めには滅法弱いってことでさぁ。今まで組織を潰してきた時も相手が邪魔になったから潰してきたはず。ですが今回鎧波のお嬢が矢面に立たされたことで自分から動かざるを得なくなっている。完全に負けパターンってやつでさぁ」



 指摘されれば……確かにその通りだ。反撃の大義名分を得ていない時、俺はいつも誰かしらの罠にはまってきた。今回もそうだと……そう言いたいのか。



「若旦那も心の底じゃわかってるはずですぜ。なんせ神室のお嬢をお供に引き連れるんだ。失敗した時のことを考えている。そんな弱気で蜘蛛道の若旦那に勝てるとでも? あっしも付き合いはあるがそんな甘い男じゃねぇですぜ、蜘蛛道の若旦那は」

「……問題ない。自分から攻めに行くのに弱いってのはつまりこういうことだろ。結愛のために行動していない時に弱いってことだ。俺は今回結愛のために動く。結愛のためなら……俺は……」


「まぁそういう捉え方もできるでしょうね。ただあっしがそう思ったってだけでさぁ。……でもあっしはこの場を今生の別れだと思ってるんで。言いたいことは言わせてくだせぇ」



 不敵に微笑んでいた薬の表情が、消える。



「あんた、神室のお嬢を切り捨てる覚悟がなきゃ死にやすぜ」



 心の内側から凍えさせられるような、低く冷たい声。だがすぐに表情はいつものものに戻っていく。



「お気を悪くさせちまったなら謝りやす。ただ不慣れなことはしねぇ方が身のためだ。まぁ依頼された以上言われたことはさせていただきやす。あっしの出番が来ねぇことを願ってやすよ」



 手を振りながら去っていく薬に、俺は何も言い返すことができなかった。

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