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【完結】親によってヤクザに売られた俺は、いつしか若頭になっていた。  作者: 松竹梅竹松
第4章

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第4章 第5話 抗争

 ヤクザの抗争と聞くと拳銃でドンパチというものをイメージすると思うが、現実はとても地味だ。もちろん事務所の警備を増やしたり、シャッターに弾丸が撃ち込まれたりはする。だが実際に人の命を奪ったり、誘拐なんかをすることは基本的にない。そんな動きを見せればすぐに警察に捕まってしまうからだ。



 まぁ激化すれば暴力沙汰に発展するだろうが、それはある程度事態が膠着してからの話。今はまだお互いがジャブを仕掛けている状態。実際に俺が宣戦布告してから三日が経ったが、日常に大きな変化はない。では抗争では何が起こるかというと……。



「よぉ、ヤクザの息子」

「……ああ、おはよう」



 教室に入るなりクラスメイトに力強く肩を叩かれる。だが決して反撃はできない。俺がヤクザの関係者でカタギに手出しできないことは学校中に知られてしまったからだ。



「どうした? 文句があるなら言ってこいよ。脅迫されたって警察に言うからよー」



 身体ではなく心を折る。それが現代ヤクザの抗争だ。論馬組は平然と登校している龍華を使い、俺がヤクザの息子だという噂を流した。聞くところによると弱小組織の下っ端の息子、という設定らしい。現実には若頭だが、世間からの風当たりに強弱は関係ない。むしろ弱いからこそ叩きやすいということなのだろう。ヤクザの息子という事実はないが否定もしづらい。俺はすっかりいじめの対象になってしまったというわけだ。



「別に文句なんてないよ。ただ自分より弱い奴しか相手できないなんてヤクザ以下だなって思っただけで」

「あぁ!? 調子乗ってんじゃねぇぞ社会のゴミが!」



 今度は顔面を殴られる。痛みはどうでもいいが、ずいぶんうっとうしいな。カタギ相手に舞を解き放つこともできないし、こんな小物じゃ舞の殺気を感じることすらできない。蜘蛛道もいい作戦を考えたものだ。



「いいか? これは弱いものいじめじゃねぇ。正義のヒーロー活動なんだよ。ヤクザみたいな社会のゴミを掃除するのが善良な一般市民の務めってもんだろ?」



 胸倉を掴まれながら、どうしたものかと考える。蜘蛛道の作戦は手に取るようにわかる。俺を痛みつけ、舞に反撃させるよう仕向ける。そして警察に目を付けられて大きく動けないところを一気に攻め込む。それが次善の策だ。一番手っ取り早いのは……。



「光輝……ごめん……ごめんなさい……」



 この抗争のボスである結愛の心を折ること。これが俺が一番恐れていて、蜘蛛道が最も狙っていることだろう。ヤクザの抗争はトップが殺られたところで止まらない。報復が報復を呼び、争いが激化するだけだ。抗争の終幕は決まってトップの心を折った時だ。これ以上抗争を続けるわけにはいかない。負けてでも終わらせなくてはいけない。その状況を作った方が勝ち。それこそがヤクザの抗争だ。



 だから蜘蛛道は舞の素性を晒すのではなく、俺を攻撃させるように仕向けた。そしてその作戦はおそらく向こうが考えている以上にクリティカルヒットしている。目の前で部下が反撃もできずにやられているという状況、そして自分の正体が明かされたら同じ目に遭うという現実。その二つによって結愛の心は既に折れかけていた。あと数日もすればゴールデンウィーク。学校での攻撃から逃れられるが、それまで持ちそうにない。今日まで様子見のために黙って受け入れていたが、いい加減動き出すか……。



「無視してんじゃねぇぞおらぁ!」

「ぐ、ぅぅ……っ」



 胸倉を掴んでいた男子生徒が俺の腹を殴りつける。そこに刺し傷があることも知らずに。



「なんだ腹パン一発でダウンかー!? ヤクザの息子ってもたいしたことねぇんだな!」

「……もう我慢の限界です」



 腹を抑えてうずくまる俺の姿に、自分の失態の責任を感じたのだろう。怒りと殺気を身に纏った舞が俺の前に出ようとする。止めなきゃ駄目だ。ここで問題を起こせば蜘蛛道の思うつぼ。でも、もう……。



「その辺にしておこうか」



 だが俺を庇うために前に出たのは舞ではなく、俺の幼馴染にして警察一家の娘。神室藍羽だった。



「なんだよなんか文句あるのか? お前ら警察がいつも言ってることだろ? 暴力団を追い出そうって」

「文句あるね。暴力団だろうと一般人だろうと警察官だろうと、人は人。私刑も暴力も認めるわけにはいかないよ。何より……」



 藍羽の視線がクラスメイトではなく結愛に注がれる。友人である、結愛に。



「誰かの子どもであることは罪じゃない。あなたは自由に生きていいんだよ」



 ……なんだか悔しいな。俺が助けたかったのに、役目が全部奪われてしまった。でも俺なんかのフォローより、藍羽からの励ましの方がずっとうれしいはずだ。だって藍羽と友だちになれたのは、結愛自身ががんばった結果なのだから。



「とりあえず保健室行こうか。大丈夫? 立てる?」

「ああ……ありがとう」



 藍羽に肩を借りながら、俺たちは二人で教室を出る。



「……こーくん本当に大丈夫? そのお腹……」

「喧嘩に自信はないけどあんな雑魚にやられるほど弱くもない。大丈夫だよ」



 藍羽にお礼を言いながら彼女の身体から腕を放す。少し残念そうな顔をされたが、正直それに構っている余裕はない。



「にしても思い切ったよね。論馬組と抗争なんて……勝算はあるの?」

「32」


「……え?」

「俺がこの5年間で潰した組織の数だ。暴力団じゃない犯罪組織も含めた数だけどな」



 ここまでは様子見だ。論馬組の動き方はわかったし、いいようにやられている姿を見せることもできた。結愛の打たれ弱さは少し想定外だったが、何の問題もない。こんな言い方をするのはあれだが事実として断言できる。



「抗争こそが俺の十八番だ」



 カタギに迷惑をかける組員を追い出し、邪魔な組織をいくつも潰した実績から裏打ちされた自信。とはいえ論馬組……蜘蛛道は今まで潰してきた中でもトップクラスの強敵だ。そう簡単にはいかないが……問題ない。



「俺を助けてくれるか? 藍羽」

「ヤクザなんかの助けをするわけないでしょ。でもわたしはいつだって。こーくんの味方だよ」

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