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【完結】親によってヤクザに売られた俺は、いつしか若頭になっていた。  作者: 松竹梅竹松
第4章

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第4章 第4話 宣戦布告 2

「とりあえず生きていてよかったわ、龍華。私のところに帰ってきなさい。許す……かどうかは光輝次第だけれど、私も一緒に謝るわ。だからお願い、そんなところにいないで帰ってきて」



 結愛の作戦を聞いた時は馬鹿げていると思った。龍華のスマホのGPSが論馬組の事務所にあるから直接迎えにいこうという計画。殺されている可能性があったし、そもそも俺たちを誘き出す罠だと思ったからだ。だから龍華本人が出てくるのは想定外だった。囚われていたとしたら助け出せたが、事務所内を平然と歩き回っているということは、そういうことだから。



「お嬢様……いいえ鎧波結愛さん。親ガチャという言葉を聞いたことがありますか?」



 真摯に声をかける結愛への返事は、遥か昔にも聞いたことがある言葉だった。



「子は親を選べない。生まれた時点でどういう人生になるかが決まってしまう。だからガチャというわけです」

「……知ってるわ。ヤクザの家に生まれた私たちは揃って大外れよね」

「貴女は違うでしょう、結愛さん。古くから続く由緒正しい極道一家の生まれ。親ガチャ大当たりじゃないですか」



 俺は知っていた。結愛と龍華は……いや、俺たちと龍華では認識が違うということを。龍華は俺たちと違い、ヤクザの世界で生きることを決めていた。



「わたくしの父は鎧波組組長の弟分ではあるものの四次団体の組長です。知っていますか? 四次団体ともなると組長であっても上位団体の下っ端と力は同等。いえ、本家の下っ端に使いっ走りにされるレベルです。論馬組との抗争のきっかけもその下っ端の粗相のツケを支払わされる形で始まったものですしね」



 俺は元々結愛直属で一般的な下っ端の立場は知らない。だから父親がどんな扱いを受けていたか。そんな父親を見て龍華がどんな想いを抱えていたか。俺には知る由もない。



「ですがヤクザはヤクザ。外からは迫害され、内からは抑えつけられる日々。ヤクザを抜けようが居続けようが待っているのは地獄だけ。そんなわたくしが成り上がりたいと思うのも、自分が一番不幸だと喚いている恵まれたお嬢様を憎く思うのも当然だと思いませんか?」



 憎い。その言葉を耳にした結愛の身体がビクリと震える。全く想像していなかったのだろう。自分が龍華から嫌われているなど。



「じゃあ……悪いことをしたわね……。そんな風に思っている人の付き人をさせてしまって……」

「いいえ、それ自体はわたくしが望んだことです。貴女に付き従っていればわたくしもいい空気を吸えるのではないかと勝手に期待していました。ですが貴女ではわたくしの踏み台としては力不足です。貴女が飼っている若頭さんは簡単にわたくしに騙され、その子分はカニなんかを怖がる始末。所詮は子どものヤクザごっこに過ぎない。わたくしはこんな人たちと遊んでいる時間などないのです」



 もうその瞳には感情の揺れは見えない。結愛を嫌いと言ったのが真実かどうかはわからないが、いま蜘蛛道の後ろに立つことに何の迷いもないのだろう。



「わたくしは蜘蛛道さんに付き、この裏世界で成り上がる。それだけが人生を変える唯一の方法なんです」



 なるほど、だったら結愛が龍華を引き留めるのは無理だな。いつか……今にでもヤクザを辞めたい結愛では龍華の望みを叶えることはできない。絶対に、決して。



「お、そろそろ食い頃だな。ほらよ葛城」

「ありがとう。……んん! おいしい! ほら結愛、これ美味いから結愛が食うべきだって!」

「……光輝。いま私真面目な話してるんだけど」



 カニがあまりに美味しく結愛に勧めたが、彼女は空気を読めと言いたげに俺を横目で見てくる。その様子に蜘蛛道がつまらなそうに笑った。



「くだらねぇなぁお嬢ちゃん。なにが真面目な話だ。んなことどうでもいいだろうがよぉ」

「それに関しては俺も同意だな。ていうかもう考えることないだろ」



 蜘蛛道と考え方が被るのは不快だが、俺たちにはこれ以外の選択肢は存在しない。



「俺たちはヤクザだぁ」

「ほしいものがあるなら力ずくで奪えばいい」



 むしろ考え方はひどくシンプルになった。龍華を蜘蛛道から奪い返せたとしたら、それはヤクザとしてこちらが上回ったということ。龍華の望みともマッチする。



「光輝……なに言ってるの。私たちはカタギになるんでしょ。そんな考え方じゃ……」

「ある意味龍華の言っていることは正しいよ。強くなけりゃ表世界でも裏世界でも喰われるだけだ。たとえヤクザを辞めたとしても弱ければ一生こういう連中に付き纏われる。俺たちが生きるには強くなるしかないんだ」



 抵抗する力もなければ、さっきまで命があったこの食い物のように無惨に殺されるだけ。それだけはあってはならない。



「どうするかは結愛次第だ。結愛が望むなら、俺は蜘蛛道から龍華を取り戻す。どんな手を使ってもだ」

「はっ、それは論馬組と戦争するってことか? こんなガキ一人のために? そんなにこいつが大事か?」

「どうだろうな。まだ刺されたことを許したわけじゃないし、取り戻したとしても裏切者に食わせる飯はない。でもそんなのどうでもいいんだ。結愛が望むことならどんなことでも、俺が命を懸けるに値する」



 結愛に選択を迫る。厳しい選択だろう。一人の女の子が一人の人間の人生を決めようというのだ。普通の女子高生なら耐えられるものじゃない。



「……龍華。私に賭けなさい。どこかの誰かじゃない。私にあなたの人生を買わせて」



 だが既に結愛はその道を超えてきている。5年前、小学生の頃から結愛にはそれだけの器がある。



「……お嬢様。わたくしの話を聞いていなかったんですか。わたくしの望みはヤクザとして成り上がること。あなたの目的とは正反対にいるんですよ」

「あら。大切な人がヤクザになりたいなんて言い出したら止めるのが普通じゃないかしら」



 決まりだな。俺がどう動くべきか、これで定まった。



「蜘蛛道。玄葉龍華は鎧波組のお嬢、鎧波結愛の付き人だった。そいつをたぶらかした責任は取ってもらう」



 もっともらしい理由を付けて、俺は若頭として宣言する。



「鎧波組は論馬組に戦争を仕掛ける。全面戦争だ」

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