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【完結】親によってヤクザに売られた俺は、いつしか若頭になっていた。  作者: 松竹梅竹松
第4章

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第4章 第1話 継承

「おぅ兄弟。どういうことか説明してもらえるよなぁ。あ? とぼけんじゃねぇよてめぇんところの娘がうちのカシラ刺したことだよ。散々世話してやって高校まで入れてやったのにずいぶんな義理の返し方だよなぁ」



 俺が刺された一週間後の夜、退院した俺を迎えて幹部会が開かれた。会議の最中龍華の父親……玄葉組組長とようやく連絡が取れ、組長が電話越しにずいぶんドスの効いた声で凄んでいる。



「なに? 娘が勝手にしでかしたこと? もう極道は辞めたから関係ねぇって? 舐めた真似してんじゃねぇぞ馬鹿野郎! てめぇ兄貴に挨拶もなしにこの世界抜けられると思ってんのか!? 筋の通し方ってやつを教えてやるよ今すぐツラ出せゴラァ!」



 一方的にまくしたてると電話を切る組長。怖いよ……60後半の半隠居ジジイが出す声じゃないんだよ……。



「……悪かったな光輝。龍華を招いたのも結愛の付き人にしたのも全部俺の裁量だ。おかげで大変な目に遭わせちまった。近い内に組持たせてやるよ」

「え……罰ゲーム……?」



 なんでヤクザ抜けたいって常々言ってる奴を組長にさせようとしてるんだ。偉い人は詫びのやり方もわからないのか?



「いえ今回は俺の失態です……。俺が近くにいたのにカシラを守れなかった……若頭補佐失格だ。カシラ、事が終わったら指受け取ってくだせぇ」

「だから罰ゲームが過ぎない……!?」



 戸川さんが頭を畳につけてくるが本当に困る。普通に俺と結愛を組から抜けさせる方向で謝罪してくれたらいいんだけど……。



「いえ……責任は舞が取ります」



 また責任のセルフ擦り付け合いか。ヤクザ流の謝罪は罰ゲームにしかならないんだけど……と言いたいが声が出なかった。幹部会だというのに俺の後ろに控えている舞。今まで感じたことのないほどの気迫が部屋中を突き刺している。



「子分になれたことに浮かれ……カニに怯え……本懐である若様の護衛をしくじりました。自分が情けなくて涙すら出てきません……。若様……舞と親子の縁を切ってください。そして必ずやあなた様の前に論馬組全員と裏切った玄葉龍華の首を並べてみせます」

「罰ゲーム超えて嫌がらせ!?」



 ここで反論しないと本当にやりかねない。なんとか声を出して思いとどまらせる。部屋に指と首が飾られるとか恐怖でしかないんだよ……。



「とりあえず全員落ち着いてください。俺ならたった一週間入院する程度の軽傷。それは龍華が俺を生かそうとしてくれたからです。それに論馬組からもらった5000万の金。正直駆け引きもロクにできない三下に持たせるのは過ぎた金額です。たぶん今回の詫び料も含めた金額だったんだと思います。蜘蛛道としてもメンツがある。これはその手打ち金ってわけです。誰が悪いってわけでもないんだし、俺も無事だった。この辺りで終わりにするのはどうですか?」



 本音を言えば痛み止めを打っててもまだ痛いし5000万は俺のものにならないしたとえ丸々俺のものになってもこんな大金使いどころないしで全然納得できていないが、まずは嵌められて怒り狂ってるこいつらを止めることが最優先だ。何より……そうしないと報復として本当に龍華が消されかねない。



「駄目だ。論馬組……そして玄葉組にはこの件のケジメを取ってもらう」

「でも組長。まさかこの時代に全面戦争でもするつもりですか? 勝ったとしても警察にパクられますよ」


「……カシラ。これはカシラだけの問題じゃねぇんですよ。鎧波組のメンツに関わる問題だ。何より親の決定は絶対だ。いくらカシラが止めようが俺たちはやるぜ」

「生憎俺の親は組長じゃないんで。俺を動かすことができるのも止めることができるのもたった一人だけだ」



 静かに襖が開き、ずっと外で話を聞いていてくれた結愛が部屋に入ってくる。



「みんな……光輝も。まずはごめんなさい。私の付き人が迷惑をかけたわ」

「お嬢が謝ることじゃねぇですよ! 悪いのは全部あの女なんだから!」


「下のケジメ取るのは上の務め……パパに教わったことよ。ヤクザのしきたりなんて全部理解できないけれど、不思議とこれは受け入れられたわ。誰も助けになってくれない……一人きりの部下の気持ちに寄り添えるのは身内だけ。そういうことでしょう?」



 ……かつて。まだ暴対法ができる前……ヤクザが幅を利かせていた全盛期。現組長である鎧波雄大は伝説の極道として名を知らしめていたらしい。どんな劣勢でも。どんな罠に嵌められても、自分の意地を貫き通し裸一貫で大立ち回りを演じ、組を守り大きくしていった伝説の男。



「あなたたちの意思はよくわかった。組のことを……若頭のことを思って怒ってくれた気持ち。無碍にするなんてありえない。その気持ち、全部私が預かるわ」



 俺はどこまでいってもクズだった。親と同じ、他人を騙して利を得るクズの中のクズ。残念ながら血は逆らえなかった。つまり、そういうことだ。



「この一件のケジメは私がつける。それでいいわね、パパ。……ううん、組長」



 鎧波結愛という人間は、どこまでいっても伝説の極道の血を継いでしまっている。



「すげぇ……まるで親父のようだ」

「あぁ……何の心配もいらねぇ」

「さすがは俺たちのお嬢だ……」



 今幹部になっている連中は組長に惹かれてヤクザをやっている人間も多い。憧れの再来にまるで青年のような反応を見せる幹部連中。そしてそれは組長も同じだった。



「……できるのか? ヤクザと関係を絶ちたがっているお前に」

「ええ。私には頼れるナイト様がいるもの。いくわよ、光輝」



 うれしそうに尋ねる組長に堂々と返事をし、結愛は俺を引き連れて部屋を出ていく。



「……やっぱり血は抗えないわね。本当に嫌だわ。あんなことを軽々しく言えてしまう私が」

「そのために俺がいるんだろ。二人でこの決まりきった人生を切り拓こう」



 俺と結愛が出会って5年が過ぎ、当初お互いを励まし合った親とは違うという言葉は空虚なものになってしまった。だがそれでも俺たちの想いは何も変わっていない。たとえ性根が腐りきっていたとしても、人は変わることができる。それだけを信じ、俺たちは龍華を救うために動き出した。

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