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【完結】親によってヤクザに売られた俺は、いつしか若頭になっていた。  作者: 松竹梅竹松
第3章

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第3章 最終話 盃

「さっかーずき! さっかーずき!」



 ものの数人で自分の父親や論馬組若頭補佐を含めた十数人を叩きのめした舞。楽しそうに歌いながら返り血で濡れた身体で掃除をしている。



「……あたしよく知らないんだけどさ。盃ってそんなにうれしいものなの?」

「そりゃあもう! 盃とは魂の契り! 法的効力はないからこそ固く結ばれる絆! しかも心の底からお慕いしている御方にお誘いいただけるなんて……こんな光栄なことはありません!」



 舞に喜んでもらえてうれしい……はうれしいけれど。やっぱりあんまり乗り気じゃないな。舞と家族になりたいと心から思ってはいるが、盃を交わすにはいくつか嫌なことをしなくてはならない。



「この後光輝のとこの組員が迎えに来てくれるんでしょ? 組に帰ってからやるの?」

「いやこの場でしたい。組に戻ってからだと極道流のやり方になる。二人っきりでできるならそれでもいいけど、若頭としてやるからにはお偉いさんも呼んで大々的にしなくちゃいけないから時間がかかるんだよ。俺は今すぐ舞と家族になりたいんだ」

「若様ぁ……♡」



 蕩けた顔をしている舞と、げんなりしている夜煌。姉弟のこういうの見たくないよな気持ちはわかる。



「この場でやるって言っても盃って確か清酒でやるんでしょ? ここにあるとは思えないけど」

「どっちにしろ未成年だから酒は飲まないよ。御猪口もないだろうしどっちにしろ正式なのは無理だしな。媒酌人は夜煌にやってもらいたいけど」


「媒酌人?」

「司会というか見届け人というか……わかりやすいイメージだと結婚式の神父さんみたいな役。まぁコップに水を注いで俺たちに渡してくれればいいよ」


「結婚式……! 正式なものができないのであれば結婚のお約束というのでも舞は構わないのですが……!」

「いや婚姻届を藍羽に握られてるから無理」


「やはりあの雌殺します!」



 舞が怒りに吠えているが、それよりコップすら見当たらないのが問題だよな……。それにどういう種類の盃にするかというのも考えなければいけない。盃は基本的に親分子分を決める親子盃か、兄弟分になる兄弟盃かの二択。



「兄弟はもういるし親子盃がいいんだろうけど……あの口上嫌いなんだよな……」

「親が黒だと言ったら白いものでも黒だと言うってやつですよね。こういう時絶対に言うやつ。舞はむしろそうしたいのですが……」


「ああ。でもそれは省くよ。あくまでそれはヤクザとしての決め事。俺たちはいずれヤクザを辞めるんだ。これはたとえヤクザを辞めてカタギに戻ったとしても、舞と一緒にいたいから交わす約束なんだから」

「若様ぁ……♡」


「雪気をつけないよ。こういうこと言う奴絶対詐欺師だから。うちの親昔結婚詐欺とかもやってたから完全に血が出てる」



 夜煌が失礼なことを言っているが、とにかく御猪口の代わりになるものを見つけなければいけない。一応ミネラルウォーターのペットボトルは見つけたがコップが見当たらない。早くしないと迎えが来るな……。



「そうです! パパ、起きてください」

「うん……? 雪……? 舞か……?」



 俺がコップを探している間、舞が気絶している父親にビンタをかまして無理矢理起こしていた。姉妹の顔すら識別できていないクソ親っぷり。本当にどうしようもないな。



「パパ、舞はこの方と家族になります。だからあなたはもう家族じゃありません。いいですね?」

「ま……待て……! お前は私が決めた男と結婚するんだ……! こんな男との結婚は認めない……!」

「舞の人生は舞のものです。舞は若様と幸せになります。今日まで……いえ3年前までお世話になりました」



 ぺこりと頭を下げ、お礼を済ます舞。なんだか本当に結婚式みたいだな……え? 結婚? なんか親族が集まってて本当にそれっぽくないか……? しかもいい加減本当に時間がない。



「やるならやるでさっさと終わらすよ。口上とか知らないからそれっぽいので済ますから」



 夜煌も早く終わらせたいのか催促してきてるし……腹を決めるしかないか。



「健やかなる時も、病める時も。死が二人を別つまで共にいることを誓いますか?」

「誓いますっ!」

「……それ本当に結婚式パターンじゃん……」



 舞と向き合いながら改めて思う。これは結婚式じゃない。舞が着ていた上品な衣装は血に汚れ、髪も暴れたせいでボサボサ。辺りに見えるのは屍の山。とてもカタギの結婚式とは呼べないし、ヤクザの盃事にしても物騒にもほどがある。だがそれでもそれが俺と舞の関係だ。



「……誓います」



 思えば始まりからそうだった。獣のように暴れる舞。それに対し人として約束を交わす俺。俺たちの関係はいつもそうだった。人の道から外れた俺たちが、人として生きていこうと藻掻く日々。きっとそれはこれからも変わらないだろう。だからこそ約束することができる。俺はこれからも舞と一緒にいたいのだと、心の底からそう思える。



「で誓いのキス……じゃなくて盃を」



 舞が瞳を閉じ、顔を上に向ける。御猪口もないし……これしかないか。ミネラルウォーターを口に含み、わずかに飲む。そして――。



「なんて……ごめんなさい。キスなんかしてくれませんよね。飲んだペットボトルをくれれば……!?」



 舞の口に、俺の口にある水を流し込んだ。唇を重ね合わせて。



「……そんなみっともない真似できるかよ。これが俺の気持ちだ」



 盃は同じ酒を分け合うことに意味がある。ペットボトルを渡すことでもそれはできたが、舞の覚悟を前にしてそんな軽々しいことはできない。だから俺の気持ちを伝えるためにはこうすることしかできなかった。



「……ごめん気持ち悪かったよな。嫌なら吐き出してくれてもいいから……」

「若様ぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~♡♡♡♡♡♡♡♡」



 身体を押し倒されて、そのままキスを続行させられる。出会った時と同じやり取り。なんだろう……盃なんて交わす必要なかったな。俺たちはずっと、こうだったんだから。



「これからもずっと一緒にいましょうっ。新しいお約束ですっ」

「ああ。約束する」



 3年前交わした見捨てないという約束。そして今日交わした一緒にいるという約束。俺たちはこれからどうなるかわからない。ヤクザを辞められるのかも、カタギの生活に戻れるのかも何も定まっていない。それでもこの約束さえあれば、これから何でもできると。心の底からそう思えた。

これにて第3章完結となります。少し長くなってしまい申し訳ございません。次章からはいよいよ両親との対面、そして論馬組との正面戦争をやっていければと思います。どうぞ引き続きお付き合いいただけると幸いです。


ここまでお読みいただき誠にありがとうございました。みなさまの応援のおかげでここまで続けることができました。とても感謝しています。


もしここまでおもしろかった、続きが気になると思っていただけましたら☆☆☆☆☆を押して評価とブックマークを押して応援していただけると続ける気力になります。では引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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