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【完結】親によってヤクザに売られた俺は、いつしか若頭になっていた。  作者: 松竹梅竹松
第3章

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第3章 第3話 コンプレックス

「星閃たちを探してるのか?」

「ひぃっ!?」



 高城一郎に会ったその日の深夜。家の中を静かに嗅ぎまわっていた藍羽を見かけて声をかけると、柄にもなく本気で驚いたのか彼女は大きく声を上げた。



「な……なんだ……こーくんか……。いや別に……トイレを探していただけで……」

「ただ単に遊びに来たわけじゃないんだろ? 誤魔化さなくていいよ」

「あー……ごめん、そう。さすがに一週間も通学してないと不安になってね」



 俺が庭の軒先に腰掛けると、藍羽も隣に座ってくる。庭の鯉がわずかに跳ねて水が揺れる音がした。



「あいつらはここにはいないよ。警察も把握してない小さな住居にいる。もちろん監禁はしてないよ。飯も与えてるしな。ただあいつが自分から出ないという選択をしてるだけだ」

「うわ出たヤクザ論法。脅迫や監禁をしたら犯罪になるから心理的に逃げられないようにしてるんでしょ。ほんとさいてー」



 最低なのは自覚しているが、鎧波組の名前を使って好き勝手してる連中を野放しにはしておけない。いつか逃がすにしても、その名前を下手に使ったらどうなるかをきっちり教えておかなければならない。



「これは独り言だけど、まだ誰も捜索願は出されてないみたいだね。お兄さんと一緒にいた二人は大学生だけど元々大学にも行かずに遊び歩いてて一週間家にいないとかザラだったみたい。やっぱり悪いことはしちゃいけないね。で、お兄さんとは話せた?」

「……いや、俺は顔を出してない。そもそも俺の顔も覚えてないしな」


「なんで? 復讐したかったんじゃないの?」

「まぁな。でもそれは俺のことを忘れてたり組の名前を勝手に使ったからであって、それ自体は殺してやりたいってほどでもないよ。確かに売られる俺を見捨てたりもしたけど、子どものあいつらに何ができたかって話だし。やっぱり許せないのは俺を売った両親だ」


「……つまり両親は殺してやりたいって思ってるんだ」

「……思ってるだけだよ」



 口が滑ってしまった。やっぱり今日は冷静になれないな。



「どうせ言うこと聞いてくれないんだろうけどさ、復讐はよくないよ。過去ばっか見てないで未来を見ないと。今は組が家族だし組長が親なんでしょ?」

「なんで? 結愛と結婚してないけど」

「そりゃそうだよこーくんの婚姻届持ってるのわたしだもん」



 目が怖い……あれ冗談じゃなかったのか。



「そうじゃなくてさ、親子盃とかあるでしょ? ヤクザの世界では。組長と交わしてるんじゃないの?」

「いや俺はやってない」


「なんで?」

「未成年だから」


「あのさぁ……」

「いや実際問題ヤクザのそういう感覚あんまりわかってないんだよなぁ。それにいつかヤクザなんか辞めるし。裏切るのが決まってて家族になんかなれないだろ」



 親子盃、兄弟盃……ヤクザは盃を飲むことで家族になるが、本当にこの感覚だけは理解できない。どこまでいっても家族は家族だし他人は他人だろう。



「なんか意外。こーくんって身内は大事にするタイプだと思ってたけど」

「大事は大事だよ。ただ家族じゃないってだけで。家族って一生付き纏ってくるもんだろ、嫌でもさ。でもヤクザの家族は辞めようと思えば辞められるんだよ。簡単ではないけど」


「こーくんにとってはそれが嫌なものでも家族なんだね」

「そういうこと。それに……」



 家族は嫌なもの……そうだな……。



「子どもの頃……たぶん小学校に上がるより前のことだったと思うんだけど。俺の誕生日に遊園地に行ったことがあるんだよ。もちろんその頃から虐待気味ではあったんだけど、たぶん機嫌がよかったんだろうな。たいして興味もない遊園地につれていってくれた。かくいう俺も遊園地より動物園に行きたかったし、星閃は友だちと遊びたかっただろうし、夜煌も一人でいたかったと思う。誰も幸せにならない誕生日だった。でもなんだろうな……うれしかったんだよ。家族が俺のために何かしてくれたっていう事実が。俺のことなんか全然理解してくれなかったけど、うれしかったんだ。もちろん嫌な思い出しかないしこれ自体も特別幸せな記憶じゃないんだけど、嫌なことだけじゃないっていうかなんだかこの日のことだけはずっと覚えてて……。家族って、そういうもんだと思うんだ」



 ……なに言ってるんだ俺は。こんなこと言いたかったわけじゃなかったんだけどな。あー恥ずかしい。



「こーくん、結婚しよっか」

「……なんで」


「家族にコンプレックスを抱いてるみたいだからわたしが上書きしてあげなきゃって思った」

「結婚なんてしない……怖い目やめて。えーとなんの話だっけ、そう、舞の話だ」



 言っておいて舞の話なんか一ミリもしていないことに気づいたが、実際舞のことは相談したかった。問題は何も解決していないからだ。



「2000万渡したの……あれまずかったよな」

「わかってやってたの? これで向こうは軍資金が3000万になった。それだけあったら無理矢理鎧波組から奪うこともできるでしょ。ただでさえ平然とヤクザを使う人相手なんだから」


「だよなぁ……。でも筋は通したかったんだよ。何のしがらみもなく舞は俺のものだって言いたかった」

「なにヤクザみたいなこと言って……舞さんの人生は舞さんのものでしょ? こーくんの人生はわたしのものだけど」


「もちろん舞の好きなようにさせるつもりだけど……え? なんて言った?」

「とにかくしばらくは舞さんの周辺を警戒しといた方がいいよ。もし他のヤクザに攫われたとしたら……」


「いやそれに関しては問題ないんだけどお前がな……」

「? どういうこと?」



 むしろ警戒するべきは藍羽だ。舞が誘拐されるなんてことは百億パーセントありえないだろうが、人質交換として結愛を狙われたらかなりまずい。龍華は藍羽といる時は動けないし、そうなると一緒にいる藍羽にも危険が及ぶ。そして二者択一の状況になった時。俺は迷いなく藍羽ではなく結愛を助ける。鎧波組組長の娘を狙うヤクザはいないだろうが、高城一郎がその辺の事情を知らない半グレを使ったとしたら……そろそろ切るか。



「若様……少しよろしいでしょうか」



 早めに手を打とうと考えていると、ネグリジェ姿の舞が軒先にやってきた。舞は常時脳のリミッターが外れているせいで疲れやすく一度眠ったら滅多なことじゃないと起きない。だからおそらくずっと起きていたのだろう。俺から事情を聞いて、考え続けていたのだ。



「恐縮ですが……しばらくお暇をいただいてもよろしいでしょうか」

「……妹さんのことだな」

「はい。雪は頭がよくて人当たりがよくて明るくて……完璧な子なんです。だから悪いことなんてしないでほしい……普通の人生を歩めるんだから真っ当に生きてほしいんです……舞が歩めなかった道を」



 俺が舞の立場なら真っ先に親への復讐を考えるだろう。それでも舞は妹のことを考えている。潰すことしか頭になかった俺とは違う、普通で優しい思考だ。でもな……。



「駄目だ。正真正銘お前は俺が買った。だからお前が勝手に俺の傍から離れるのは許さない」

「ありがとうございますっ」

「やっぱこーくんはわかりやすいね。一々悪者ぶらなくていいのに」



 冷たい反応を取ったのに、返ってきたのは舞からのお礼と藍羽の後方彼女面。そんな反応をされたら言うのも恥ずかしいんだけど……。



「俺も一緒に妹さんを救う。だから俺の傍から離れるな」



 だが二人は知らない。俺には切札があることを。そして今こそが切札を切るタイミングだということを。

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