表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【WEB版】ループから抜け出せない悪役令嬢は、諦めて好き勝手生きることに決めました【コミカライズ連載中】  作者: 日之影ソラ
本編第二幕

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/74

58.太陽が昇る④

 約束の日がやってくる。と言っても、いつもと変わらない朝だ。

 目覚めた私は仕度を済ませ、いつものように執務室へと足を運ぶ。部屋にはすでにディルが待機していて、昨日と同じように業務を始める。

 書類に目を通し、受理する物には印を押し、右から左へ移動させる。

 そうしている間に正午になった。私は時計の針に視線を向けて、ディルに呟く。


「来ないわね」

「ああ、静かなもんだな」


 私は記憶を思い返す。確かにシオリアは今日だと言っていたはずだ。まさか自分から指定しておいて、忘れているなんてことはないわよね?

 もしくは事情が変わったのか。

 正直、来てくれないと困る。この話に進展がなくて、私も次にどう動くべきか悩んでいるのだから。


「……とりあえず昼食にするか」

「そうね」


 私が席を立とうとしたとき、扉の前に誰かが立つ気配を感じた。

 トントントン――

 ノックの音が響き、私とディルは視線を合わせ、再び椅子に座る。


「どうぞ」


 私の許しを聞いて扉は開く。

 案の定、扉を開けたのは彼女たちだった。


「こんにちは、セレネ」

「――遅かったわね。お義母様」


 ニヤリと不気味な笑みを浮かべるシオリアと、その隣で縮こまっているソレイユが部屋の中に入ってくる。

 忘れていたわけではなかったみたいで、私は心の中で安堵した。これで話を進められる。


「遅かった、なんて、私たちのことを待っていてくれたの? 嬉しいじゃない」

「勘違いしないで。忙しい時間に来られても迷惑だから、早く用事を済ませたかっただけよ」

「あら、そう? なら先に確認しちゃおうかしら」


 こほんと、シオリアは勿体ぶる様に咳払いをする。

 笑みを浮かべた表情で私のことを見つめ、数秒の間を空けてから口を開く。


「セレネ、ソレイユに当主の座を譲ってくれないかしら?」

「お断りよ」


 考える暇も与えず、私は堂々と言い切った。

 最初から何を言われようと、当主の座を譲る気なんてない。断る以外の選択肢なんて考えていなかった。

 ただ、シオリアも動じてはいない。私がこう答えることは予想済みだったのでしょうね。

 彼女は不敵な笑みを浮かべる。


「そう、あくまで拒否するのね」

「当然でしょ? 言ったはずよ。どれだけ時間を空けても私の意向は変わらないわ」

「……そうみたいね。なら、仕方がないわ」

「……」


 私はシオリアの次のセリフに注目する。彼女が何を言ってくるのか次第で、私たちは今後の対策を考えなければいけない。

 一番いいのは、このまま決闘でもいいから力で解決できることだけど……。


「セレネ、あなたに決闘を申し込むわ」

「――!」


 私は驚き両目をパチッと見開く。

 まさか、シオリアのほうからその提案をしてくれるなんて。嬉しい誤算に自然と笑みがこぼれそうになる。

 緩む口元をぐっと堪えて、私は毅然とした態度でシオリアに尋ねる。


「決闘ですって?」

「ええ。当主の座をかけて、貴女たちには戦ってもらうわ」


 彼女の発言に、私は眉を顰める。どうしていきなり、しかも正面から決闘を挑んでくるのか。彼女のことを完全に理解しているわけじゃないけど、なんだか……らしくない気がした。


「ふざけているの? そんな要求を私が受け入れるわけがないじゃない」

「どうかしら?」


 シオリアはニヤっと笑みを浮かべながら、徐に窓のほうへと歩き出す。私は席に座ったまま、視線だけを動かしシオリアを追う。


「気づいているのでしょう? 屋敷の人間が減っていることに」

「ええ、誰かさんの甘言にそそのかされたみたいね」

「ふふっ、ひどい言い方ね。そんな風だから見捨てられるのよ」

「よく言うわ。甘言に惑わされたのは半数だけでしょう?」

「ええ……けど、同じじゃないわ」

「どういう――」


 私の言葉を遮るように、シオリアは勢いよく窓を開けた。

 ディルのために閉じていたカーテンも退けて、窓の外から光と風が入り込んでくる。ディルは咄嗟に光が当たらない場所へと下がる。


「何のつもり?」

「驚かせてしまってごめんなさい。けど、見てもらったほうが早いでしょう?」

「何を?」

「あら、まだ気づかないんのかしら? もっと近くで、屋敷の周りを見てごらんなさい」


 彼女は窓の近くへと私を誘う。

 表情はニヤついているけど、何か悪だくみをしているわけじゃなさそうだった。私は警戒しつつ、ゆっくりと窓のほうへ近づく。

 そして、窓の外を観察する。

 よく晴れて温かい空気が流れ込む。いつもと何が違うのか。疑問を口に出そうとした瞬間に、私は違和感に気付かされた。

 当たり前の景色の中に、いるはずの人たちがいない。屋敷の周囲と中を警護している親衛隊の姿がどこにもなかった。

 シオリアのほうに視線を向けると、彼女はニヤっと笑う。


「気づいたみたいね」

「……」

「そうよ。親衛隊は今、私たちの指揮下にあるわ」


 ヴィクセント家当主に仕える親衛隊は、お父様から私の元へと移った。異能を持つ当主に付き従い、ヴィクセント家を守護する者たち。

 三百人余りの構成人数を誇り、守護者の家系の中でも最も強大な軍事力を誇る。

 迂闊だった。

 屋敷の中ばかりに気を取られて、外がどうなっているのか見ていなかった。カーテンを閉め切った部屋からは、屋敷の外の様子は見られない。

 ディルは当然、日の光がある場所では活動できないから、確認することもなかった。

 シオリアの元に寝返ったのは半数ではなく……。


「わかったでしょう? この提案は、貴女に対するせめてもの恩情よ」


 私とソレイユの対立は、拮抗しているようで大きく傾いていた。太陽の異能があるならば、親衛隊の存在は脅威となり得る。

 数の上での有利は完全になくなってしまったらしい。


「さぁ、提案を受けてくれるのかしら?」

「……ふっ、いいわよ。受けてあげるわ」


 それでも私の有利に変わりはない。私とソレイユが決闘すれば、まず間違いなく私が勝つ。能力的な相性以前に、性格的な相性もある。

 優しすぎるソレイユには、本気で私と戦うことなんて不可能だ。

 この勝負は戦う前から決している。


「よかったわ。それじゃ、戦う人を先に紹介するわね」

「――? どういうこと? 戦うのはソレイユと私でしょう?」

「あら、言ってなかったかしら? 貴女たちだけじゃないわよ」


 この時、先に気付いたのはおそらくディルだったと思う。私が気づいたときには、部屋の扉が少し開いた後だった。

 扉の前に誰かが待機している。


「入っていいわよ」


 部屋の主たる私の言葉ではなく、シオリアの指示で扉が開く。入室した人影は二つ、その人物を前に、私は驚きを隠せない。


「決闘をソレイユを含めた三人が相手よ」


 驚きと同時に、どうしてという疑問が頭の中を駆け抜ける。これはヴィクセント家の問題だ。他の貴族が関わるべきではない。

 特に、同じ役割を担った六家の人間こそ……。


「紹介するわ。と言っても、どちらも顔見知りよね?」

「……ゴルドフ・ボーテン」


 大地の守護者にして、地上最強の男と呼ばれている人物が立っていた。もう一人の男は、親衛隊の隊長を務めている男だ。名前は確か……。


「アイルズね」

「セレネ様、このような形で相対することになってしまい、まことに申し訳ありません。ですが私ども親衛隊は、太陽の守護者たるソレイユ様にお仕えすることにいたしました」

「そう、別に責めるつもりはないわ。貴方たちは本来、太陽の下で戦うために組織された部隊ですもの」

「はい。ご理解いただけて恐縮にございます」


 深々とアイルズは頭を下げる。彼らの裏切り関して思うところはある。だけど、それ以上の問題が隣に立っている。


「どういうつもりかしら? ボーテン卿……そちら側にいる理由を聞かせてもらえる?」

「すまないな、セレネ・ヴィクセント。俺がここにいるのは陛下のご意向だ」


 ユークリスの名が出たことで、暗がりに隠れていたディルもわずかに反応したのがわかった。

 彼がこの件に関わっている?

 それは考えにくい。これまでならばともかく、今のユークリスは私たちの事情を理解している。

 彼が私たちと敵対するような指示を出すだろうか?

 とは言え、騎士団長であり大地の守護者である彼を動かせるのは国王のユークリス……いいや、そういうことね。

 ユークリスはまだ幼く、王としての責務の一部は大臣や姉に任せていると聞く。ユークリスの意志という名目で、大臣たちが指示を出したのか。


「大臣に取り入ったのね」

「あら? なんのことかしら?」


 しらばっくれるシオリアだけど、彼女ならそういう根回しもできるでしょう。

 王国の大臣たちにとっても、ヴィクセント家の当主はソレイユのほうが都合もいい。影の守護者は世間的にも公表しづらく、不気味がられている。

 これまで通り、太陽の守護者が当主として立ったほうが、彼らにとってもは好ましいはずだ。

 そう考えると、ゴルドフが少し不憫に思える。立場上、王の命令と言われたら、彼に断る選択肢はないのだから。

 視線が合い、わずかに申し訳なさそうな表情で目を瞑る。

 彼を問い質すのはやめてあげましょう。

 私は視線をシオリアに戻す。


「それで? この三人と私が戦えばいいのかしら?」

「まさか。そんな鬼畜なことはさせないわ」


 そう言ってシオリアは笑う。

 世界最強の男を手ごまに用意しておいて、鬼畜じゃないなんてよく言えたわね。

 私は呆れてため息をこぼすと、その直後にシオリアが説明する。


「お互いに三人、一人ずつ戦って多く勝利したほうが当主になる。そういうルールよ」

「そう。戦う順番は?」

「当日までのお楽しみ、としたいけど、特別に私たちの順番を教えてあげるわ」


 シオリアは語りながら、紹介するように手を向ける。


「先鋒は彼、親衛隊のアイルズよ」

「よろしくお願いいたします」


 アイルズは深々と頭を下げる。続けて手を向けられたのは、その隣に立っているゴルドフだった。


「続いては彼よ」


 ゴルドフは軽く目を瞑り、素っ気ない態度を取る。不本意ながらこの場にいると、私に告げているように。

 そして最後は聞くまでもなく。


「最後はソレイユよ」

「……」


 不安げな表情を見せるソレイユが、私と視線を合わせる。彼女こそ、ゴルドフよりも不本意なのかもしれない。

 私と合わせた視線が、私に助けを求めているように見えたから。


「決闘の日は一週間後よ。それまでに、そっちも人数を揃えておいてね? せめて二人いないと、勝負をする前に決着がついてしまうわ。もしよかったら、親衛隊から一人貸してあげましょうか?」

「結構よ」

「そう。だったら期待しているわ。せめていい戦いをしましょうね。セレネ」

「ええ、お互いに」


 私とシオリアは視線をぶつけ合う。私は睨み、シオリアは変わらず笑みを浮かべている。

 かくして、当主の座をかけた決闘が受理された。

 太陽と影、相反する二つの異能がぶつかり合うのか。それとも……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』

https://book1.adouzi.eu.org/n8177jc/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ