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【WEB版】ループから抜け出せない悪役令嬢は、諦めて好き勝手生きることに決めました【コミカライズ連載中】  作者: 日之影ソラ
本章第一幕

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34.不死と最強

 私が立てた計画。

 その内容は至ってシンプルだ。

 アレクセイのように私自身が戦うことはできない。

 ただし、力を吸収するためには戦いで追い込むか、相手が吸収を拒絶しないように説得する他ない。

 説得は難しいだろう。

 必然的に戦いは避けられない。


 ならば、うってつけの協力者がいる。

 戦うのは私である必要はない。

 正体がすでに知られていて、最強に対抗できる存在……。


 不死身、月の守護者が。


「相変わらずの速度だ。姿形は同じだが、とても人間とは思えない。その仮面の裏は……人の顔をしているのか?」


 彼は答えない。

 今の彼は私の護衛をしている。

 これから護衛としてゴルドフの前に立つ機会はあるだろう。

 声を聞かれてしまうと、その時点で正体がバレる恐れがある。

 だから彼には、一切声を出さないように言ってある。


「答える気はない……か。ならば力づくで剥すまで」


 今度はゴルドフから仕掛ける。

 力強く地面を踏んだ瞬間、地響きが周囲を襲う。

 一瞬ふらついたディルにすかさず接近して剣を振るう。

 ゴルドフの身体能力の高さは魔獣と斬り合えるほど。

 しかし、隙をついても尚、ディルの速さはそれを上回る。


「やはり躱すか。だがまだだ」


 移動先の地面を隆起させ、棘のように変形してディルを攻撃する。

 異能によって大地の全てを支配下に置いている。

 踏みしめた地面は、余すことなく彼のテリトリー。


 状況は私とディルが戦った時に似ている。

 あの時の私は、ディルの速さに対応するために影の面積を広げた。

 ゴルドフはそんなことしなくても大地を支配して攻撃できる。

 加えて本人の強さ……。

 明らかに私との戦闘より、ディルが攻めあぐねていた。


 この作戦の最低条件は、ディルがゴルドフを戦闘不能にすること。

 ゴルドフを倒して意識を失ったところで、私が異能の力を吸収する手はずになっている。

 勝てなくては話にならない。


「血液を操る力にその速度。やはり俺たちと同じ異能か?」


 ゴルドフもディルの力に気付き始めている。

 戦えば彼が魔獣とは違うことくらいわかってしまう。

 人間でこんなことができるのは異能者だけだ。

 彼がたどり着いた疑問は、当然のことだろう。


 ディルは答えない。

 代わりに血液を操り二本の剣を生成して攻める。

 いかにゴルドフの攻撃範囲が広くとも、ディルの速度には及ばない。

 速度で攻めればディルのほうが有利――


 だった。


 私を含め、この場にあるもの全てが重みを感じる。

 見えない力に押しつぶされるような感覚。

 これは――


 重力?


 大地の異能は重力すら操れるのね。


「動きが鈍くなったぞ」

「ぐっ」


 凄まじい重力に囚われて動きが止まったところに、地面から棘が生成されディルを捕らえた。

 咄嗟に血液操作の力で刃を鞭に変形させ、拘束している棘を粉砕する。

 そこへすかさず、ゴルドフが剣を振り下ろす。

 ディルは血の剣を交差して受け止めた。


「いかにお前でも、この重さの中で同じ動きはできないだろう。力なら俺のほうが上だ」


 ディルが押されている。

 この時、私は理解した。

 魔獣との戦いで見せた怪力……あれは素の力だけではなく異能も関係していたことに。

 重力を操作する異能を用い、自身の重さを増やしていたんだ。

 重さはそのまま力になる。

 

 剣と重力に押しつぶされそうになるディル。

 彼は力を振り絞り、足元から血液を操作してゴルドフを襲う。

 ゴルドフはのけ反り回避した。

 力が抜けた隙をつき、ディルが距離をとる。


 一進一退の攻防は休まる暇もない。

 自分が戦っているわけじゃないのに、私まで身体が疲れてしまう。

 距離をおいた二人は向かい合う。


「お前は誰だ?」


 突然、ゴルドフが質問を投げかけた。

 これには私も首を傾げる。

 名前を聞いているなら答えるはずもなし。

 一度戦っているから、知らない仲でもない。

 質問の意図が読み取れない。

 すると――


「間違えるな。俺は一度戦った相手のことを忘れはしない。倒せなかった相手なら尚更だ」


 じゃあさっきの質問は?


「俺が聞きたいのは、本当にあの時の男なのかということだ」

「……?」

「わからないか? あの時の戦いはよく覚えている。恐ろしく強かった……だが、どこか投げやりでも全てを諦めてしまっている。死んでもいい……いや、死にたいと思って戦っているような気さえした」


 まさにその通りだったのだろう。

 ディルの願いは、不死身からの解放。

 命の終わりを望んでいる。

 ゴルドフに挑んだのも、彼に殺してほしかったから。


「だが、今のお前からは意思を感じる。何かを成し遂げようという強い意思が。だからなのか、あの時よりも強い」

「……」


 ディル……。


 見透かされている。

 私がアレクセイにされたように、ゴルドフがディルの心に近づいている。

 私ならそれを不快に思った。

 だけど彼は、どう思うのだろうか。


「答える気はないのだろう。だが知りたいものだ。お前を変えたのが何なのか。その強さ手に入れた希望を」

「――ふっ」


 その時、ディルは小さく笑った。

 仮面の下で確かに。

 口に出して答えはしない。

 ただ、彼はその何かを示すように――


「――っ!?」


 力強く拳を振るう。

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