34.不死と最強
私が立てた計画。
その内容は至ってシンプルだ。
アレクセイのように私自身が戦うことはできない。
ただし、力を吸収するためには戦いで追い込むか、相手が吸収を拒絶しないように説得する他ない。
説得は難しいだろう。
必然的に戦いは避けられない。
ならば、うってつけの協力者がいる。
戦うのは私である必要はない。
正体がすでに知られていて、最強に対抗できる存在……。
不死身、月の守護者が。
「相変わらずの速度だ。姿形は同じだが、とても人間とは思えない。その仮面の裏は……人の顔をしているのか?」
彼は答えない。
今の彼は私の護衛をしている。
これから護衛としてゴルドフの前に立つ機会はあるだろう。
声を聞かれてしまうと、その時点で正体がバレる恐れがある。
だから彼には、一切声を出さないように言ってある。
「答える気はない……か。ならば力づくで剥すまで」
今度はゴルドフから仕掛ける。
力強く地面を踏んだ瞬間、地響きが周囲を襲う。
一瞬ふらついたディルにすかさず接近して剣を振るう。
ゴルドフの身体能力の高さは魔獣と斬り合えるほど。
しかし、隙をついても尚、ディルの速さはそれを上回る。
「やはり躱すか。だがまだだ」
移動先の地面を隆起させ、棘のように変形してディルを攻撃する。
異能によって大地の全てを支配下に置いている。
踏みしめた地面は、余すことなく彼のテリトリー。
状況は私とディルが戦った時に似ている。
あの時の私は、ディルの速さに対応するために影の面積を広げた。
ゴルドフはそんなことしなくても大地を支配して攻撃できる。
加えて本人の強さ……。
明らかに私との戦闘より、ディルが攻めあぐねていた。
この作戦の最低条件は、ディルがゴルドフを戦闘不能にすること。
ゴルドフを倒して意識を失ったところで、私が異能の力を吸収する手はずになっている。
勝てなくては話にならない。
「血液を操る力にその速度。やはり俺たちと同じ異能か?」
ゴルドフもディルの力に気付き始めている。
戦えば彼が魔獣とは違うことくらいわかってしまう。
人間でこんなことができるのは異能者だけだ。
彼がたどり着いた疑問は、当然のことだろう。
ディルは答えない。
代わりに血液を操り二本の剣を生成して攻める。
いかにゴルドフの攻撃範囲が広くとも、ディルの速度には及ばない。
速度で攻めればディルのほうが有利――
だった。
私を含め、この場にあるもの全てが重みを感じる。
見えない力に押しつぶされるような感覚。
これは――
重力?
大地の異能は重力すら操れるのね。
「動きが鈍くなったぞ」
「ぐっ」
凄まじい重力に囚われて動きが止まったところに、地面から棘が生成されディルを捕らえた。
咄嗟に血液操作の力で刃を鞭に変形させ、拘束している棘を粉砕する。
そこへすかさず、ゴルドフが剣を振り下ろす。
ディルは血の剣を交差して受け止めた。
「いかにお前でも、この重さの中で同じ動きはできないだろう。力なら俺のほうが上だ」
ディルが押されている。
この時、私は理解した。
魔獣との戦いで見せた怪力……あれは素の力だけではなく異能も関係していたことに。
重力を操作する異能を用い、自身の重さを増やしていたんだ。
重さはそのまま力になる。
剣と重力に押しつぶされそうになるディル。
彼は力を振り絞り、足元から血液を操作してゴルドフを襲う。
ゴルドフはのけ反り回避した。
力が抜けた隙をつき、ディルが距離をとる。
一進一退の攻防は休まる暇もない。
自分が戦っているわけじゃないのに、私まで身体が疲れてしまう。
距離をおいた二人は向かい合う。
「お前は誰だ?」
突然、ゴルドフが質問を投げかけた。
これには私も首を傾げる。
名前を聞いているなら答えるはずもなし。
一度戦っているから、知らない仲でもない。
質問の意図が読み取れない。
すると――
「間違えるな。俺は一度戦った相手のことを忘れはしない。倒せなかった相手なら尚更だ」
じゃあさっきの質問は?
「俺が聞きたいのは、本当にあの時の男なのかということだ」
「……?」
「わからないか? あの時の戦いはよく覚えている。恐ろしく強かった……だが、どこか投げやりでも全てを諦めてしまっている。死んでもいい……いや、死にたいと思って戦っているような気さえした」
まさにその通りだったのだろう。
ディルの願いは、不死身からの解放。
命の終わりを望んでいる。
ゴルドフに挑んだのも、彼に殺してほしかったから。
「だが、今のお前からは意思を感じる。何かを成し遂げようという強い意思が。だからなのか、あの時よりも強い」
「……」
ディル……。
見透かされている。
私がアレクセイにされたように、ゴルドフがディルの心に近づいている。
私ならそれを不快に思った。
だけど彼は、どう思うのだろうか。
「答える気はないのだろう。だが知りたいものだ。お前を変えたのが何なのか。その強さ手に入れた希望を」
「――ふっ」
その時、ディルは小さく笑った。
仮面の下で確かに。
口に出して答えはしない。
ただ、彼はその何かを示すように――
「――っ!?」
力強く拳を振るう。
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