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【WEB版】ループから抜け出せない悪役令嬢は、諦めて好き勝手生きることに決めました【コミカライズ連載中】  作者: 日之影ソラ
本章第一幕

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29.水の守護者

 水の守護者。

 彼が受け継いだ異能はいたってシンプル。


 その力は――


「さぁ! 水よ舞え!」


 水を生み出し、自在に操ること。

 彼の周囲には湿気が満ち、瞬く間に水の波が出来上がる。

 川のように荒々しく、彼の手に合わせるように流れの方向を変える。

 彼の足元から水の柱が生成され、私に目掛けて放たれる。


「影よ」


 私は影を広げた直後に影を作り、流れる水を弾く。

 水しぶきが舞い、一部は私にかかる。


「冷たいわね」

「濡れて寒いなら俺が温めてあげるよ! 君が望むなら、一緒にお風呂だって入ってあげるよ?」

「絶対にお断りよ!」


 私も攻撃に転じる。

 正面からではなく左右から攻撃。

 これは阻まれるが本命は後ろ。

 彼の足元の影を操り、死角から攻める。


 が、これも防御されてしまう。


「甘いね! その程度で俺の隙をつけると思ったかい?」

「みたいね」


 思っていた以上に手ごわい。

 驚くべきは水の汎用性の高さにあった。

 影を自在に変化させ戦う私と、彼の戦闘スタイルはよく似ている。

 似ているけど、自由度が違う。

 水に決まった形はなく、どんな場所や状況でも形を変えて流れ続ける。

 今だって、防御する直前に水の形状を変えて躱してくる。

 

「面倒ね」


 そこだけじゃない。

 次第に周囲に湿気が満ちている。

 彼の異能は生成した水だけじゃなくて、周囲の水も操れるはず。

 この地形が湿気で満ちるほど、彼の武器は増えて厄介になる。

 時間をかけるほど私が不利だ。


 影の中に落としちゃえば簡単なのだけど……。

 

「俺を影の中に引きずり込もうとしているね? 残念だけどそれは無理だよ」


 彼には気付かれていた。

 すでに自分の影を覆うように水の膜を張っている。

 足の裏も、地面についているようで実際は水の上に乗っている。

 彼の力で塞がれて、直下の影を操ることができない。

 ディルのように飛びぬけた身体能力はないけど、異能のコントロールは私より上ね。


「驚いたわ。虚勢じゃなかったのね」

「虚勢? 何の話だい?」

「そうだったわね。貴方は全部本気で言っていたわ」


 私は気を引き締める。

 今のところは互角。

 どちらも攻め手にかけている。


「おや? 随分と大人しいじゃないか。まだまだこの程度じゃないだろう? もっと本気でかかってくるといい。俺は君の全てを受け止めてあげるから」


 本気……本気ね。

 確かに本気を出したほうがよさそうだわ。

 この男は強い。

 ムカつくけど認めましょう。


「ふぅ……じゃあ、そうするわ」

「――!?」


 殺さないように手加減していた。

 それを止める。

 力を吸収するためには、相手を追い詰める必要があった。

 今のままじゃいつまで経っても決着がつかない。


「影で周囲を!?」

「ええ。影の結界よ」

「こんなこともできたのかい? そんなに俺を逃がしたくないのかな?」

「ええ。逃げられたら困るわ。殺せないもの」


 殺すつもりで戦うと決めた瞬間、いろいろなものが吹っ切れた気がする。

 嫌いな相手なのに手加減したり、変に気遣ったりするから調子が乱れるんだ。

 遠慮なんていらないと本人もそう言っている。

 殺してしまってもいいじゃない。

 だって殺したところで、失敗したところで、そこが終わりじゃないのだから。


「いいね、その目! 本気の目だ」

「余裕そうだけど、もっとちゃんと守ったほうがいいわ。じゃないとすぐに……串刺しよ」


 彼の足元の影が棘のように変化し、手足を貫く。

 咄嗟に上半身を反って急所は避けたようだけど、貫かれた箇所から血が噴き出る。


「ぐっ、さっきまで通らなかった攻撃が!」

「通るわよ。手加減していたけど、もうやめたわ」


 殺さないように、というのは案外難しい。

 自分で思っている以上に、力に制限がかかってしまう。

 私たちの異能は、精神と肉体の状態に大きく影響を受ける。

 心が迷っている攻撃と覚悟を決めた攻撃では、当然威力は異なる。


「ははっ! 血を出したのなんて久しぶりだよ。ますます君がほしい!」


 彼も負けじと水を操り攻撃をしかけてくる。

 今度は高波のように。

 鋭さではなく質量で押しつぶすつもりか。


「密閉したのは失敗だったね! この中じゃ水はたまるばかりだよ!」


 目的は窒息させること。

 だけどそうはならない。

 私の影はあらゆるものを取り込む。

 水であっても――


「なっ、俺の水を吸収して――」

「忘れたの? 私は影と影を繋げられるのよ」


 流れた水を影を通して外に出す。

 そうすれば結界内に水が溜まることはない。


「そうきたか! だったら簡単さ! 水が流れないように制御すればいいだけ――!?」

「気づくのが遅れたわね」

「こ、これは……」


 彼の身体を影が縛り付けている。

 こうなればもう動けない。


「影はどこにでもできるものよ。たとえば水面にも……ね」

「そういうこと……か!」


 彼が大技を繰り出した瞬間、防御に使っていた水の制御が乱れた。

 その隙を私は見逃さない。

 細い影を送り出し、彼を守っている水の内側に影を纏わせる。

 あとは簡単。

 内側の影を操り、彼の身体を直接縛る。


「この隙を作るために……大技を使ったんだね? この結界も俺の攻撃を誘導するために」

「ええ」

「くっ、ははは……まいったな……完敗だよ」


 この時、彼が見せた笑顔には苛立ちを感じなかった。

 今までのにやけ顔とは明らかに違って……。

 どこか、満足しているような顔をしていた。

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