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【WEB版】ループから抜け出せない悪役令嬢は、諦めて好き勝手生きることに決めました【コミカライズ連載中】  作者: 日之影ソラ
本章第一幕

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28.油断は禁物

「さぁさぁ! 存分に語り合おうじゃないか!」


 応接室らしき部屋に案内された私とディル。

 丁重にもてなされていることは認める。

 ただ……やっぱりこの人を見ているとイライラする。

 苛立ち過ぎて最初から畏まることすら忘れてしまっているほどに。


「どうしたんだい? 俺の顔に見惚れてしまっているのかな?」

「違うわ。よくそこまで自分に自信が持てるわね」

「自信じゃない。これは確信だよ。この世に俺以上の男は存在しないのさ」

「……」


 この男の凄いところは、今の発言を本心から言っていることだ。

 嘘偽りなく、心からそう思っている。

 曇りなき眼がその証明だろう。

 呆れるほど純粋に、自分自身を信じ切っている。

 だからこそ自分のプロポーズが断られるなんて思ってもいないのだろう。


「あの時ハッキリとお断りしたはずよ。私は貴方の婚約者になるつもりはないわ」

「聞いたさ。今はそれでいい。どうせそのうち、君のほうから俺に頼んでくるよ。俺のフィアンセになりたいとね」

「そんな未来は永遠にないわ。天地がひっくり返っても、私から貴方に求婚することなんてありえない」

「随分と強気だね。ますます気に入ったよ」


 意味不明だ。

 今の発言のどこに気に入る要素があったのだろうか。

 思いっきり拒絶したはずなのだけど……。


「貴方ってもしかして馬鹿なの?」

「まさか! 俺は頭脳も優秀だよ!」

「優秀な人間は、自分のことを優秀だなんて言わないわ」

「それは偽者さ。本物ならば恥じることなく堂々と公言できるはずだよ。今の俺のようにね」


 なるほど一理ある……とはならないわね。

 自信たっぷりに語られて一瞬納得しかけてしまった。

 この人と話していると調子が狂う。

 少しでも早く用件を済ませて退散したいし、話の流れを作らないと。


「しかしわからないな。君はまだ俺の誘いを受けるきはないのだろう? だったら一体、何をしにここまできたんだい?」


 来た。

 ちょうどいい話の入り方。


「チャンスをあげに来たのよ」

「チャンス?」

「ええ。さっきも言った通り、私が貴方の婚約者になることは永遠にないわ。でもそれじゃかわいそうでしょう? だから一度だけチャンスをあげる……私と戦って、勝ってみせなさい」

「君と戦う?」

「そうよ」


 聊か強引ではある。

 冷静に考えれば意味不明だし、なぜ戦いになるんだと思うだろう。

 だけど確信はあった。

 彼は疑いこそすれ、断りはしないと。


「いいだろう!」


 やっぱり引き受けたわね。

 予想通りで助かるわ。


「君の思惑はわからないけど、そのチャンスは魅力的だ。君に俺の力を存分に見せつけて、心も身体も屈服させてみせよう」

「すごい自信ね」

「当然さ。言っただろう? この世で俺以上の男はいない。全てにおいて俺が一番だ」

「……そう」


 最強の異能者は誰か。

 その問いに、多くの人々は一人をあげる。


 大地の守護者ゴルドフ・ボーテン。


 事実、彼は王国最強と呼ばれている。

 魔獣を倒したという功績の数々も、最強と呼ばれるのに相応しい。

 それは彼も知っているはず。

 その上で自分のほうが強いというのは……さすがに慢心が過ぎると思った。

 余計に苛立つ。


「いいわ。その自信を折ってあげる」

「違うね。君が首を垂れるんだ」


  ◇◇◇


「怖いくらいうまく誘導できたな」

「そうね。単純な男で助かったわ」


 私たちは勝負の場所に移動している。

 少し前を歩くアレクセイに続いて、私とディルは並んで歩く。


「大丈夫なんだろうな?」

「私が負けると思っているの?」

「お前の強さは知ってる。ただ、あの自信はちょっと怖いな」

「そう? 私は逆に安心したわ」


 戦いに自信がなければ、この誘いも受けなかったかもしれない。

 そういう性格でよかったと思う。


「ここで始めよう」


 案内されたのは屋敷の庭。

 石畳が一面に敷かれ、障害物はあまりない。

 当然ながら天井もなく、月明かりが真っすぐに差し込む。


「いいの? 水場が一つもないわよ」

「構わないさ。君だって夜は影ができにくい環境だろう? お互いにフェアに行こうじゃないか」

「そう。貴方がそれでいいなら、始めましょう」

「ああ。先手は君に譲ろうじゃないか。君の想いを存分にぶつけてごらん!」


 かかってこいと言わんばかりに両腕を広げている。

 侮られている気がして、私は苛立つ。


 そういうことなら遠慮なくいきましょう。

 力を吸収するためには、相手をできるだけ弱らせないといけない。

 立てなくなるくらいまで痛めつける。

 そのくらいでちょうどいいわ。


「影よ。貫きなさい」


 足元の影が竜巻のように私の周りに立ち昇る。

 変形した影は鋭い刃となり、一斉に隙だらけな彼に目掛けて放たれる。

 殺さない程度には本気で攻撃している。

 一瞬だけディルの顔をみたら、やりすぎだろ……と思っている顔をしていた。

 攻撃を放った直後に、正直私も思っていたりする。


 イライラしてやりすぎたかしら?


 ただ、そんな心配は無用だった。

 私の攻撃は阻まれる。

 高圧の水流に。

 水の膜ではなく壁と表現するのが適切か。

 彼の周囲を水が流れ、私の攻撃を全て弾いてしまった。


「うんうん! 中々強力な攻撃だったよ! やっぱり最高だなー君は! 俺はね? 強い女が大好きなんだ」

「……そう。それはよかったわね」


 不敵な笑みを浮かべるアレクセイ。

 侮っていたのは私のほうだったみたいね。

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