祖父のオルゴール
昨年の夏、祖父が他界した。
手先が器用で何でも手作りしてしまう祖父は、事あるごとに私達家族へ小物類をプレゼントしてくれていた。
祖父の一周忌を終えた後、祖母が私に相談をしてきた。
「このオルゴールねぇ、昔おじいさんが私にくれた物なんだけれど、音が鳴らなくなっちゃってねぇ」
机の上に小さなオルゴールを乗せながら祖母は呟いた。
つまみを回してみようとするが、何かが引っかかっているらしく、びくともしなかった。
私は壊れたオルゴールを預かり、祖母の代わりに近所の修理屋へ持って行くことにした。
「ああ、櫛歯が折れていますね」
修理屋のおじさんはオルゴールを一目見て呟いた。
慣れた手つきで分解しながら説明をしてくれる。
「ホラ、ここに音を鳴らす小さな板が並んでいるでしょう? これが一枚折れて、中の歯車に引っかかっちゃっているんですよ。丁度同じタイプの部品があるので交換しましょう。古い部品はこちらで処分しますね」
おじさんは手際良く櫛歯を取り外したが、ふと困惑した表情を浮かべた。
「おや? これは……すみません、この部品は私の方では引き取ることが出来ませんね」
「えっ、どうしてですか?」
戸惑う私を宥めるように、おじさんは優しく微笑みながら古い櫛歯を手渡した。
「ホラ、コレ。……お祖父様は相当器用な方だったんですね」
◇
無事に修理されたオルゴールを鞄に入れながら、私は帰路についた。
「フフッ。おばあちゃん、きっと照れるだろうなぁ」
私はバスに揺られながら、古い櫛歯を再度眺めた。
錆びかけた細い金属板の裏側、機械の死角に埋もれて見えなかった面には、うっすらと『I LOVE YOU』の文字が手彫りされていた。




