龍馬と土方
薩摩藩邸で西郷達が密談をしていた頃、龍馬は一人、懐かしい京の街並みを見ながら散歩をしていた。
長州・長崎・薩摩などで暫く忙しい日々を送っていた為、お龍と出会った街をゆっくりと歩いてみたくなったのだ。珍しくも自身、感傷に浸ってると思っていた時、目の前に顔見知りが歩いて来た。
「坂本…か」
「ちゃ・ちゃ…新撰組かや…。こりゃぁまずい所で会うてしもうたの…」
「………」
龍馬と対峙しているのは、新撰組副長・土方歳三。直接顔を合わせた事は無かったが、お互いにその情報には事欠かない仲間が居た。
両者とも、言い得ぬ懐かしさを感じていたが、龍馬からすれば斬られるかも知れぬ危機だった。
さて、この場からどう逃げるか…脳味噌の速度を上げ、あらゆる方向から全てを見ていた時だった。
「お主が何を考え、何をやっているか…。我々武士にとって不利益になる事かも知れんが、総司や浅野がお主に於ける信頼は絶大。拙者も、可笑しな事にお主に何らかの期待をしているようだ。武士としてしか生きる手段を知らぬ我等は、我等の道を行くが…坂本、お主の前に立つ事はせん。総司の想いの為にも…な」
沖田は江戸にて病の床についている。当初は表向きだったが、どうやら本当に発症しているようだった。その沖田の文に龍馬の事が書かれていたのだった。
「ワシを見逃すっちゅう事かいな?」
隣に並び、静かに語っていた土方に問いかける。
「お主が、京の町で刀を抜かぬ限りは…な」
「冗談じゃろ、ワシは喧嘩が嫌いじゃき」
「軍艦で幕府と一戦交えながら言う事ではあるまい。だが、ここ京で騒ぎを起こせば、弟の言葉を無視し、お主を斬りに行くぞ」
その目は笑っていた。どうやら本気で敵対する事は無い様だ。
「…分かっちょる。ワシも平和が好きじゃき…」
龍馬はそう笑いながら、新撰組の隊列の間を飄々と歩いて抜けた。
歴史は変わりつつある。
剣一、あるいは以蔵・薫として接した者達が、龍馬を敵として見ずに放免して行く…。
その恐ろしい変化が、何を意味するのか。
まだ以蔵は気付かない。




