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維新の剣  作者: 才谷草太
刻の歪
74/140

大政奉還論

 沖田は河上彦斎を熊本藩へと送り、自身は江戸へと向かった。

 以蔵と佐那は薩摩から京へと向かう。

 そんな中で、龍馬も参加していた幕長戦争は小倉で意外な展開を見せる。

 幕軍の前線で指揮を執る「小笠原長行」が、予想外の長州軍の抵抗と快進撃に弱腰になっていたのだ。幕軍についていた諸藩は、その総監督の態度に激昂。かつて西郷に「不戦」を求められていた各藩は、相次いで撤退を開始していた。と、同時に謹慎が解けていた勝海舟が停戦を求め朝廷に交渉を求めている動きも戦場に伝わった。

 そして慶応二年七月。大坂にて運命の大転換が静かに幕を開ける。

 幕軍総司令として大坂に入っていた将軍、徳川家茂が病死。そして、その知らせを聞き付けた小笠原は戦線を離脱。司令官を失った幕軍は、小倉城に火を放った。


 わずか数カ月で、長州は幕府を討ち負かした。


 それが全国に伝わるのは、そう時間もかからなかった。


 京…戦による米価暴騰も手伝い、幕府に対する不満が沸き起こる。しかし新撰組の手前、大きな動きは見せないが、かつて「浅野薫」として粛清に参加した「制札事件」を模倣した輩が続出。戦に負けた幕府が、「朝敵長州」と謳う制札を次々と抜き去っていた。


 長州…幕長戦争に勝利し、これを機に江戸に攻め込む意気が高くなり、桂小五郎を止める高杉晋作。互いに意見の食い違いが生じて来る。


 薩摩…したたかな西郷は、未だ表に立たず、現在の幕府の統率力を推し量るべく流れを静かに眺めていた。


 そして越前…そこには龍馬の姿があった。時は八月になっていた。

 「ほいたら、ワシの考えは甘いっちゅうがか?」

 「そうでは無い。大政奉還論というのは、かつて同様に唱えた者が大勢いたが、成し遂げた人間は一人もいないと言っているのだ」

 「そいつは可笑しな事を言う。成し遂げちょったら、幕府はとうに無くなっちょります。できんから無理、言うがは薩長を結ぶ事も同義ぜよ」

 龍馬が話す相手は越前の重鎮、松平春嶽公。かつて勝海舟の私塾、海軍操練所設立資金を融資して貰った人間である。

 「誰もができん状況と、今の状況では話しが違うろう?」

 「幕府の力が弱まっている…そう言いたいのか」

 「今、徳川を守る策は『大政奉還』しか無いがよ。政権を朝廷に返上し、イチ藩士としてこの先を纏めるっちゅうのが最善の策じゃ」

 「確かに、今のままでは勢い付いた長州を筆頭に、倒幕派が江戸に流れ込むのは時の流れ…」

 春嶽公は腕を組み、静かに目を閉じる。


 「長州でも、恐らく高杉さんは進軍を反対するき…」

 「高杉…奇兵隊司令官が反対を?」

 「高杉さんは戦を望んで奇兵隊を作った訳じゃないき。あそこは農民も商人も、みな平和になる為に組織されちゅう軍隊じゃ。江戸の商人や農民が被害に会うような事は望んじゃおらん」


 「坂本、お主は勘違いしているようだが、長州・薩摩の利害一致を説くのと、徳川の意地…立場を堅守する立場を解くのとでは、次元の違う話しだ。私の力ではどうにもならない」

 松平春嶽は、腕組みをしつつ絞り出しながら口を開く。

 「最も…今、将軍として君臨する慶喜公に近い御方が力添えをして頂けるのであれば、有り得ない話でも無いが…脱藩浪士である坂本の力になる御方が居るか…?」


 「土佐藩…かえ」


 「山内容堂公は、慶喜公と旧知の仲だ。容堂公さえ立てば何とか…」


 上士と郷士。圧倒的な身分差に苦しみ、更に武市をはじめ『土佐勤王党』の多くの仲間が処刑された記憶が蘇る。と、同時に、和解し利用する算段も立て出した。



 土佐…この地で、時代は龍馬を一気に英雄にする事を選択させる。

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