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維新の剣  作者: 才谷草太
刻の歪
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沖田、前線最後の煌き

 長州で沖田と河上が対峙していた頃、以蔵は京へと旅立った。志士達の意思の力を信じ、自らはこれから訪れる回天を迎える為に。


 そしてその意思の力は小倉での戦闘を大きく動かしていた。


 拮抗していた戦力は、小倉城下で繰り広げられていたが徐々に幕軍の勢力が弱くなって行く。幕府軍総督小笠原長行の臆病な性分が災いし、来る予定の無い援軍を思い描きつつ、前線に混乱を招いていた。

 この状況が今後の幕長戦争を終戦へと向かわせるのだが、今はまだ前線で不満の火種が着いたばかりだった。



 場所は長州に戻り、沖田・河上・桂の三人。


 「幕府の狗が…お主たちがこの国を諸外国の隷国へと向かわせておるのだぞ」

 河上は居合腰のまま沖田に言い放つ。

 「その言葉は聞き飽きましたが、敢えて言うと、国の為を思って我々は剣を交えています。桂さんもまた、敵ではありますが国を思っての事。道は違えど志は一つ」

 「敵対している勢力が、志は共にしているなど、笑止千万である!」

 河上は抜刀をしつつ間合いを一気に詰め、中段に構える沖田の剣を交わし、腕を薙ぎに出た。

 沖田は右手一本で剣を振り上げ、その一太刀を交わし、一歩下がる。

 「岡田以蔵を見ていなければ、その一振りで刀傷は残っていたかも知れませんね」

 沖田の表情には余裕の笑みが満ちて来る。

 「私はどうやら、彼と出会う事で剣の腕も上がっている様です。…覚悟は良いですか? 新撰組一番隊組長・沖田総司…参る!」

 沖田はギュッと眉間に力を込め、同時に腹を絞めた。この修羅に温情という言葉はもはや無い。


 「糞! 岡田が何だと言うのだ!」

 河上は納刀し、立ち上がりながらも腰を落として臨戦態勢を取る。そんな河上に沖田は更に言葉を続ける。

 「友人の名を軽々しく口にして貰いたくないですね。さぁ、始めましょう」

 沖田は表情を殺したまま、再び中段に構える。それとは正反対に、怒りと焦りを表情に現している河上は、再び抜刀をする。狙いは再度沖田の腕…。

 その瞬間、沖田は左下段に構え直し、後ろに跳ぶ。

 空を斬る河上の太刀は、次の一手の為に切先を振り抜かず止めた。が、沖田の剣はその切先を横に弾き、下段のまま河上の左側へと突っ込みながら左太股を切り裂く。


 崩れ落ちる河上に、沖田は膝を着く事を許さなかった。

 河上の左後方から中段に構え、左肩・手の甲へと突きを放つ。そして、河上の手から太刀が離れ、畳に落ちるまでの間に、左太股を貫くように突く…。


 一瞬の出来事を桂は見た。美しくも恐怖で支配されたその一瞬は、沖田総司という男を象徴する時間となった。


 河上は沖田の突きの勢いに圧され、右に傾いて倒れた。


 「方手抜刀は、左手が無防備になりますから、気を付けた方が良いですよ。最も、左脚はもう使えないでしょうから、剣術を振うには少々厳しいでしょうけど」


 沖田は殺した表情を崩し、河上に無邪気な笑顔を向けた。


 「桂さん、この男を熊本に護送します。誰か中立の藩まで付き添いをお願いできますか?」

 「あ…あぁ、分かった。しかし沖田君…この様な事をして、新撰組内部で問題にはならないのか?」

 「私は江戸で結核の養生をしている、という事になっていますからね。土方さんがそうしろと」

 「なに? あの土方が??」


 長州藩の男達は、河上を部屋から連れ出していた。その間、沖田と桂はこれまでの経緯を話していた。無論、桂も以蔵と深いつながりを持っている為、立場的には沖田と同様だと判断しての事だった。

 半信半疑ではあるが、政敵沖田がこの場で自らの命を救いに江戸から戻った事実。謀反者伊東の存在、闇以蔵こと宜振…。何より不思議な存在であった「岡田以蔵」が刻を超えた存在だとなると、全てに合点が行った。否定する要素を見付ける方が困難な程、現実主義の桂にも認めざるを得ない衝撃だった。


 「これから先、時代はどうなるんだ?」

 「刺客は全て退けた筈です。そして新撰組が動いた事により、伊東の動きも派手にはなりにくいでしょう。彼は自らの存在を察知されていないと思っているでしょうから…」

 「我々はどうすれば?」

 「思うままに行動して下さい。我々は志士。全ては志のままに」


 沖田は桂に一礼し、その場に背を向けた。


 「次は…敵同士か?」


 「いえ、私は新撰組には戻れません。このまま江戸に向かい、友の帰りを待ちます」


 黙認とは言え、政敵を救った沖田は新撰組に戻る事を良しと思えなかった。無論、土方もそうなるであろうとは感じていた上での指示。それが刻の意思であるならば仕方無しと、苦渋の決断での指示だったのだ。



 歴史を覆す同時暗殺計画は潰えた。

 龍馬・高杉・佐那・沖田…謀らずしも、この野望を食い止めたのは時代の英雄達の活躍だった。ここに岡田以蔵の剣は出て来ない。

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