表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
維新の剣  作者: 才谷草太
刻の歪
70/140

人斬りvs.人斬り

 高杉晋作の小倉襲撃に先立ち、6月13日に長州藩は岩国藩と手を結び、芸州口への攻撃を開始していた。対するは幕府軍・紀州・彦根・高田連合軍。物量で攻めようとする幕府連合軍だが、ここも兵糧庫等を先駆けて攻撃した長州藩は、戦闘を有利に進めた。

 長州軍は彦根・高田両藩を小瀬川にて撃破し侵攻を始めるが、変わって戦闘に入った幕軍等と戦闘を開始すると膠着状態となる。これに対抗する為に幕軍が芸州への参戦を要請するが、芸州はこれを拒否。

 予てより動いていた西郷隆盛の根回しにより、数で劣る長州軍が持久戦へと持ち込んだのだった。


 また、西郷達の根回しは16日より侵攻を開始した石州口の戦いでも成果を現した。

 四面楚歌と思われた長州藩は、中立の立場を宣言した津和野藩を悠々と通過し、徳川慶喜の弟・松平武聰が藩主であった浜田藩へ侵攻。18日に浜田城を陥落させる事に成功し、石見銀山を制圧した。


 この長州の猛反撃を喰らい、更に門司・田ノ浦沿岸を攻め立てられる幕府連合軍。西郷が撒いた布石を十分に味方に付け、ここまでの戦果を上げて来ている。



 しかし、この状況で西郷が果てればどのような事態を招くだろう…。



 6月の下旬。西郷は懐かしい客人を迎えていた。

 「おぉ…おまはんは坂本さぁと居た…」

 「…岡田以蔵です」

 「そうたい、そうたい…ん? いや、浅野どんでは…」

 「俺の名前は、岡田以蔵です」

 以蔵の口調は、この時にはすっかりと変わっていた。船上にて佐那に何度か指摘されたが、どういう訳か直らない。


 「岡田…そうでおましたか。前にお聞きしており申したか…?」

 薩摩の西郷邸に上がり込んだ以蔵夫婦は、中村半次郎に会いたいと申し出たのだが、まずは西郷が面会をしたいと申し出て来た。

 「どう言う用件で、半次郎どんに会いたいと申されるか?」

 「いえ、少しばかり聞きたい事がありまして」

 「ふふぅん」

 西郷は熱い茶を啜りながら唸った。

 「おいどんの暗殺を止めに来た…と、いう事でおますな?」

 流石に西郷のこの台詞には、以蔵も驚いた。既に命を狙われていると感じていたのだ。

 「半次郎どんの眼つきが違うとります。おいどんにも分かりもす」

 そう言いながら爽やかに笑う西郷。

 「ならば護衛を付けなければ…」

 「信じうと決めたら、最後まで信じうのが薩摩の男ござんで。それで斬られうなら、仕方があいもはんよ」

 「馬鹿な…貴方はどれ程の男になるか、分かって無い…」

 「仲間を疑って、一人前の男にないたくあいもはん」

 相当に頑固な薩摩男児である。最も、この性分があったからこそ、この後の大人物へとなるのだろうが、今は事が重大すぎる。以蔵はその場から一気に間合いを詰めて脇差を抜き、西郷の首筋へと刃を当てる。

 「西郷殿。声を上げて頂く…。半次郎を呼ぶんだ」

 「できもはん。おまはんは半次郎どんを斬るおつもりで…」

 以蔵はグッと力を入れ、西郷の首の皮を斬る。鮮血がゆっくりと首を伝い、襟にかかる。


 「岡田以蔵は暗殺者ではないでしょう?」


 緊迫した空気を裂いたのは佐那だった。

 「私達は暗殺を止めに来た者。貴方がそのような行動に出ては、彼等と何か違いがありますか?」

 あまりに冷静な言葉に、以蔵もゆっくりと脇差を納めた。そして、その場で声を出した。

 「中村半次郎。残念だが妻に止められた…。貴方の番ですよ」


 以蔵の声を聞き、縁側の奥から半次郎が姿を現した。

 「気配を殺しても、身体から出う殺気は消せん…あん男の言葉通いの男なぁ」

 「あわよくば俺に斬らせようとでも思っていたのか?」

 「おいどんは薩摩が政治の中心に行く事こそが望みですたい。そいどん、最近の西郷どんは変わられた…」

 「実権を薩摩が握る事が野望か?」

 「おまはんには分からんでしょう。人を斬る・活かすと言いながらも剣を振い、駆けまわう男に」

 「お前の背中には、野望しか見えて無いぞ…」

 「帯刀しておらん居合に恐怖は無い」

 半次郎はそう言いながら太刀を抜き、上段に構えて見せた。

 以蔵は西郷を押し倒し、その背後に飾ってある太刀を奪い片膝を付き、即座に構えを取る。


 人斬り半次郎と人斬り以蔵が今、敵として向き合う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ