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維新の剣  作者: 才谷草太
避けられぬ戦へ
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慶応年号の始まりは悲劇への序章

 元治二年4月より、年号が慶応と改められる。これには禁門の変等を含めた社会不安が続き、年号を改める事により安定を計ろうとした為だった。そして、この慶応が奇しくも江戸幕府最後の年号となってしまう。名の由来は、古代中国の書物『文選』という中の、『慶雲応に輝くべし』という言葉からだと言われている。


 そして、この慶応元年5月。長崎にある亀山にて浪士結社が結成。名を「亀山社中」となる。

 結成された当時は、代表に坂本龍馬、そして龍馬と共に脱藩し、勝海舟の門下になった沢村惣之丞や、龍馬の生家近くの饅頭屋でもあった、近藤長次郎、医者出身でシーボルトに医学を学んだ長岡謙吉、龍馬の甥である坂本直等が在籍していた。また、この結成に尽力した中には、後の天才的外務大臣となる、陸奥宗光の姿もあった。


 この亀山社中は、後の海援隊として有名になるのだが、元々は薩摩藩が龍馬達「海軍操練所」出身者の航海技術、操舵技術等を有効に使う為に作らせた結社である事は、あまり知られていない。つまり、帆船の技術を使い、商業活動に従事させる為に出資したのだ。もちろん龍馬発案の個所も多かったのだろう。近代の株式会社に類似した性質を持ち、出身藩や身分に関係無く、様々な役職に就かせ、結果を出して来ている。


 そんな生い立ちを持つ浪士結社を、いきなり「薩長連盟」の先鋒に掲げる龍馬の発案は奇抜であり、ただの商業活動だけに留まらない将来を想像させるには易い事だった。


 龍馬はこの亀山社中で手に入れた軍艦を使い、今まで以上に諸藩を渡り歩く事ができるようになり、そのスピードも比に為らない程になっていた。


 長崎を拠点に、長州・京都・薩摩と駆け回り、中岡慎太郎と共に薩長の同盟に尽力していた。


 そして、桂と西郷が出会う日取りが決まった。


 六月三日。場所は下関。龍馬はその知らせを長州の桂に届け、海路にて下関へと向かった。


 しかしこの日、龍馬と桂を待っていたのは衝撃の出来事だった…



 「何故だ! 何故西郷は来ん!」

 下関にある料亭に、桂の怒号が響く。そしてその怒りの先には額を畳に押し当てている中岡の姿があった。

 「中岡、何があったか応えておうせ…。西郷殿が易々と反故にするとは思えんが…」

 「分からん、ワシにも分からんがよ。誰かからの文が届き、それを読んだ途端に京に行く言うて…」

 「分からんで済むか! 僕が下関まで来たのは、西郷と面会し、同盟を結ぶ為だ! これでは武器の件も、直前で反故にする気だろう!」

 「桂さん、それは無いぜよ。西郷殿は浅野薫殿とも京で面会し、更なる展望も聞いちょる。この同盟無くして、未来は無いっちゅう事も分かっちょるがよ」

 龍馬の言葉に、桂は更に語尾を強める。

 「だったら、何故ここに来ぬのだ! 長州代表として来ている僕の立場を、嘲笑って京で一杯引っかけてるんだろう!」

 烈火のごとく怒りを現している桂は、既に龍馬の言葉を聞こうとしていない。そして、中岡は相変わらず額を畳に摺り付けながら

 「すまん、桂殿、まっことすまんぜよ…坂本、まっことすまんぜよ…」

 ガタガタと体を震わしている。


 幕末を無事に納める方法として最重要事項でもある薩長同盟を、中岡はしくじったのである。最早、一人の責任でこの国を地獄へと向かわしていると言っても過言ではない。怒りに任せ、長州が幕府軍到達の前に薩摩に攻め入る事も想像できる。そうなればその道中の藩もタダでは済まない。戦火に包まれ、国が疲弊して行くのだ…。


 龍馬はふぅっと息を吐き、桂の肩を掴んで引き倒した。

 「落ち着きや、桂さん! 今、桂さんが立ってしもうたら、この国はもう元には戻れんがじゃぞ! エエか、ワシがきっと西郷殿を連れて来るき! そんで今日来られんかった理由も聞いて来るき!」

 桂を上回る大声で、桂をねじ伏せた。桂も、うぅ…と唸りながら悩んではいたが、龍馬はすぐに料亭を飛び出し、港へと向かっていた。

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