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維新の剣  作者: 才谷草太
もう一つの維新、始まる
113/140

被弾

 四月二十三日朝。遂に新政府軍は宇都宮城への総攻撃を開始。

 滝尾神社・六道口および新町と、宇都宮西部の守護に当る幕府軍を攻撃し、撤退させるが、そこには無論、幕府軍の策略があった。

 しかし、素直に退く事は怪しまれる可能性もあり、城守備隊の本隊も滝尾神社付近まで侵攻を開始し、一時は新政府軍を押し戻す。

 その間に西口を守備していた幕軍は、密かに日光へと向かう。


 圧し戻された新政府軍の援軍は、更にその本隊を圧そうと進軍。これを機に本体も徐々に後退。


 午後三時。新政府軍は遂に宇都宮城まで到達。今まで後衛に当たっていた幕軍は、既に日光へと向かっていた。

 残るは本隊。このまま暫くの時間を稼ぎ、日光へと撤退する事が軍議で決定していた。が…。


 「土佐藩が出て来てるか」

 「その様ですね…。板垣退助が指揮を執る、維新の立役者の藩です」

 「何が立役者か。坂本の策に呑まれ、踊らされただけだろ」

 「しかし、その影響力は紛れも無く偉大な物になってる筈です」


 宇都宮城、松が峰門の守備についていた土方と以蔵。


 「さて…、撤退戦ですが如何しますか?」

 視線を先に向けたまま、以蔵は土方に問い掛ける。

 「鬼神に、背中を向けて撤退しろと言うか?」

 ニヤっと笑った土方に、やれやれと頭を掻きながら、

 「軍議の決定は無視ですか?」

 「無視では無い。時間稼ぎだ」

 「貴方はいつでもそうですね…。味方が戦っていれば、それを放って退却はできない」

 「戦場が好きなだけだ」


 二人は視線を合わせる事無く、言葉を交わしている。


 「皆は志の為に戦っている。我等がそれに呼応せずにどうする」

 「義を見てせざるは勇無きなり…ですか?」

 以蔵のその言葉を聞き、口元を緩めて応える。

 「洋装をしていても、我等は新撰組、という事からは逃れられん」


 その言葉を合図に、鬼神と修羅は最後尾から一気に駆け出す。


 味方の間を縫うように風が走り、前線へと達した頃には両名共に戦っていた。


 伊地知正治率いる新政府側救援軍に土佐藩も加わり、その戦場は激戦区と化していた。


 土方はライフルを使い牽制をし、その銃弾の合間を縫うように以蔵が斬る。遠近の攻撃によりその周辺は二人の舞台の様になっていた。

 更に両名の後方からは援護射撃も加わり、次々に新政府軍を打ち倒していく。


 しかし、物量で勝る新政府軍はジワジワと両名を囲む様に陣営を展開。


 「土方さん! そろそろ潮時です! 引きましょう!」

 「臆すな、岡田! 我等はまだ圧せる! まだ皆は戦っているのだ!」

 「その戦いを無駄にするおつもりですか!」


 血煙が舞う二人の間に、僅かな会話が展開した直後、以蔵の目に映る土方は崩れ落ちる。



 「土方さん! 皆、隊長を守れぇ!!」

 以蔵は周りの幕軍に声を掛ける。それに呼応した幕軍は土方を取り囲み死闘を継続。

 その輪の中に飛び込み、以蔵は土方を抱え上げる。


 「戻ります! 貴方が何を言おうと、連れ戻します!」


 輪の中で足を庇う土方。



 「撃たれたか…右足をやられた」

 「死に場所を選ぶには、まだ早い! 土方さん、貴方にはまだ守るべき者が大勢居ます!」


 仲間に守られた土方は、宇都宮城を捨て、更に後方へと下がる。その間、土方を守る壁は銃弾を浴びて倒れる者が大勢出るが、更にその穴を塞ぐ為に新たな壁となる者が後に続く。


 「やめろ、お前達…自らの命を守れ!」

 その光景を見た土方は、仲間に声を掛けるが、皆が無視をして壁となり、息絶える。壮絶なる撤退戦が、予期しない形で展開される状況を目の前に、土方は目を閉じて足を引きずる。


 「守る為の戦で、守られるとは…」

 土方は笑いながらも、口惜しそうに表情を歪めていた。



 「貴方が前線に拘る限り、今の状況では無駄な犠牲者が増えます」

 「無情な事を言うな、岡田は…」

 「先方隊と共に、先に会津に移り怪我を癒しましょう。会津であればまだ時間が稼げます」

 「鬼の副長とまで呼ばれながら、一発の銃弾で…」


 仲間に守られた鬼は、人の表情を浮かべながら離脱して行く。

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