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維新の剣  作者: 才谷草太
もう一つの維新、始まる
111/140

真岡にて

 土方等前軍の快進撃で、古河の新政府軍を撃破した幕府軍は、その勢いのまま北上を続ける。

 また、その勢いを察知した会津藩等の勢力も宇都宮に向かい進軍を始めた。当初は壬生にまで向かう予定だったが、既に壬生が新政府に抑えられている為、宇都宮・日光を拠点とする事に変更した。


 古河に続き小山の戦いにも勝利した前軍。四月十九日には真岡にまで達していた。


 激戦が続いており、土方と以蔵はこれまで殆ど会話をしていない。二人がようやく言葉をまともに交わしたのは、真岡に入り宇都宮城の挟撃に備え、会津藩等の軍備が整うのを待っている間だった。



 「岡田、お主あの後どこに居た」

 「……伊東を斬った後、ある男と斬り合い、相討ちました」

 「まさか、鴨川の…?」

 以蔵は一瞬、ホッと安堵した。宜振は刻を超えていない、その事実は確認できた。

 「ええ…。ですが、副長と出会った山道は、坂本龍馬を斬った後、土蔵で見ました」


 以蔵のその言葉に、土方は眉を顰めた。


 「正体を失っている時にか?」

 「ええ…。恐らく私はここに来るべくして来たのでしょう…」

 「今度は何をやらかすんだ?」


 珍しく土方は口元を緩めて以蔵を見る。


 「分かりませんよ…。ですが、副長の居る所に来た、という事は何らかの刻の意志があるかと」

 「副長ではない。土方と呼んでくれないか…?」

 土方は寂しそうに言いながら以蔵を見て、続ける。

 「我々はこの先、宇都宮城を落とし、日光を手中に収める。ここを起点に北を支配し、新政府と相対する事となる」


 土方のその言葉に、以蔵は小さく頷く。


 「お主はどうする?」

 「土方さんの元に来た以上、共に行きますよ…。斬られなければ」

 以蔵も冗談交じりに返す。

 お互いに口元を緩めたまま、暫く無言の時間が流れて行く。



 「土方さん…。この戦いに意味がありますか?」

 視線を合わせず、下を向いて問いかける以蔵。

 「さあな。正直分からん。『俺』はただ戦場を求めて歩いているだけかも知れん」

 「『俺』…ですか」

 「軍備も着物も洋装だ。『拙者』と言うには余りに重い」


 その言葉で以蔵は深層にある土方の苦悩が分かった気がした。



 「軍に着いて行くとしても、私は剣しか使えません…。戦の役には立たないかも知れませんね」

 「ならば、俺の護衛に当たってはくれないか? 後方より短筒を撃ち、接近する敵は斬る。簡単だ」

 「戦が嫌って言葉は、ここに来た以上言えそうにありませんね」

 「修羅の発する言葉では無いな」


 互いにクックと笑いながら立ち上がる。

 野営している軍隊は皆、土方から振る舞われた一杯の杯のみで士気を保っている。




 「さあ、戦の意義を見付ける為に戦地に戻ろう」


 修羅と鬼神が、戦場へと向かう。

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