第十五章(五)
第十五章(五)
「 ・・・ん・ もう起き上がっても大事ないか?」
目を覚まし、何とか自力で体を起こして小屋の壁に寄りかかった司を見つけ、シンラが声を掛ける。
「ああ、 ・・・っく・・・、あまり寝てばかりはいられない」
不思議な赤い実のお陰か、頭を動かす事すら困難だったのが、目を覚ましてからはそれが嘘のように軽くなっていた。
ヤニ族の人狩が行われる前にここを脱出しなければならない。
幸いにもここに二人の人間がいるが、両方共に女だ。これがどちらかが異性であったとしたら既に食われていただろう。
目の前のシンラの姿を見て司は少しホッとしてしまった。
いつも飲まされていた根毒入りの水が入ったとっくりを手に取ると、そのまま口につけて一口飲んだ。
喉が焼けるように熱くなり顔をしかめたが仕方がない。シンラの言うように何も飲まないよりはマシだ。
「シンラ、とか言ったな。 ・・・ アルナンのティプラ、とも・・・」
自分では落ち着いて言ったつもりだったが、最後だけは声を震わせてしまった。
「そうだ、私はアルナンのティプラ様に仕える第一戦士、シンラだ。 もう4,5日前になるか、巨大なアルナンの力を感じたとティプラ様がおっしゃっていた。アルナンの守り主に何かあったのかもしれないと。それで私を寄こしたのだ。 ティプラ様は聖なる地で大地の守り主・アルナンにお仕えする者。そして、その聖なる地で火の守り主・ファヴォスにお仕えするのがシーメ様」
「えっ!? シーメだとっ!?」
思わず司は立ち上がりそうになってドンッと壁にぶつかってしまった。
「ちょっと待ってくれよっ。 何なんだよ、アルナンのティプラにファヴォスのシーメってっ!? それって、どっかの国のおとぎ話っ・・・」
「そなた、シーメ様をご存知か?」
司の驚きにシンラは表情も変えずに聞く。
「ここへ来る前に会った」
「お会いされたか・・・」
やはり・・・
シンラは一つ溜息をついた。
「何かお話はされたのか?」
「いや、何も・・・。 話す前に消えちまったからな、これ残して」
あの時の事を思い出すとズボンのポケットの中のファスナーを開け、もう一つのポケットから赤い石を出してシンラに見せた。
「ファヴォスの守り石・火の石か。 これをそなたに託したのか、シーメ様は」
シンラはその石には触れようとせず、じっと見つめると何かを考えるように深い溜息を吐いた。
「そういや・・」
言いながら司はもう一つの緑色の石も見せた。
「これはっ!?」
今度はさすがのシンラも驚いたようだ。
「途中の村の跡で拾ったんだ。そん時オレの連れがあんたらアマゾネスに捕まったんだ」
「ではあの時のアルナンの力・・・」
「ああ、逃がしたのはオレだ。せっかくのご馳走がなくなっておあいにくさまだったな」
軽く皮肉っぽく言うと、口の端をニッと持ち上げた。そして、ふぅっと軽く息を吐いた。
「で、この石は何だ?」
「それはアルナンの守り石・大地の石。 そしてここにコスモスの守り石である光の石がある」
シンラはそう言って自分の首から下げていたペンダントを外すと司の手の平に乗せた。
蜂蜜のように甘い黄色をしている。だが、その隣でさっきまで深い緑色をしていた石が淡い色に変わっていた。
これを光に当てたらどうなるのだろうか。
手の平に乗った二つの石を見比べながら司は想像して目を細めた。




