第十五章(四)
第十五章(四)
「はぁっ はぁっ 紀伊也っ、俺達一体どこまで歩かされんだ。 はぁっ はぁっ・・・」
息を切らせ、かすれるような声で晃一が聞いた。
岩井に代わり、紀伊也は貸していた肩から漏れる晃一の熱い息にふっと笑みを浮かべ
「東京ー大阪間って、とこかな」
と、ぼそっと言った。
「へっ マジかよ。 ・・・ で、今、どの辺歩いてんだ?」
「琵琶湖辺りまで来たか・・・。 少し休むか」
晃一の腕を外すと大木に背を当てるように座らせた。
だらりと首を垂れて座った晃一は、今にも落ちてしまいそうになる自分の意識を歯を食いしばって持ち堪えていた。
「頑張れ、あと一日だ」
紀伊也はもぎ取っておいた果実の皮を剥くと皆に渡しながら勇気付ける。
震える手でそれを受け取り、震える唇でそれに押し当てるように口に入れていた。
皆、限界だった。
この極限状態にどう立ち向かって行けばいいのか。それすら考える事も出来ない。ただ、紀伊也について行くだけだった。
「目を閉じるなっ」
思わず閉じそうになった佐々木は紀伊也に叩かれ、ハッと我に返る。
そして、隣にいた木村にもポンと肩を叩かれると苦笑いを浮かべた。
西村と岩井も死んだように目を閉じて動かない恩田に、果実を搾っては汁を口の中に落としていた。
日が暮れると辺りの岩場はすっかり冷え込む。空気も少し薄くなって来たのだろう。全員の体力の消耗も激しさを増した。
火を囲みながら体を寄せ合って暖を取った。
そして、夜明けと同時に強い光を浴びて目が覚めた。
紀伊也は一人一人を確認するように声を掛けると、高熱を発してしまった晃一の腕を取り、肩に回した。
「はぁ はぁ 悪ィな ・・・ お前に借り作っちまうな はぁ はぁ・・・」
「いいさ、東京に帰ったら、たっぷり返してもらうから」
紀伊也の冗談に晃一は苦笑いを浮かべると、よいしょと何とか立ち上がった。
「あともう少しだ、頑張れっ」
紀伊也は皆に声を掛けると、先頭を歩き出した野犬について歩き出した。
このペースで歩いても何とか間に合いそうだ。もしかしたらもっと早くに着くかもしれない。
思った以上に皆頑張ってくれていた。




