第十五章(二の2)
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「晃一、痛むか?」
足を引きずるように時折腹に手を当てて顔をしかめながら黙って歩く晃一に、紀伊也が声を掛ける。
「まぁな」
「もう少し、頑張ってくれ」
「ああ」
短く返事をすると、軽く手を上げた。そして、紀伊也の少し先をまるで先導するように歩く野犬に目をやった。
あれが先程のアリクイなら晃一は黙ってはいなかっただろう。
「不思議な犬ですね」
自力で歩けるようになった岩井に支えられた。
「悪ィ」
晃一は遠慮する事なく肩を借りた。
相当箇所をアリに噛まれ、紀伊也に手当てはしてもらったものの、腹は無残にも赤く腫れ上がってしまい、時々激痛が襲う。
しかし、あのまま休んでいる訳にはいかなかった。
紀伊也から事情を聞き、明日の夜中までには目的の地へ行かなければならなかったのだ。しかもこのペースで行けばあと二日は掛かりそうだ。
偶然出くわしたゲリラだと言うのならば、その時を逃したら二度とチャンスはないだろう。そう思うと必死になれた。
本当に紀伊也は頼りになる。
普段は無口で滅多に会話などに参加しないが、ここ一番という時には何故か根回しも良く頼りになっていた。特に司とは幼い時からの付き合いだと聞いてはいたが、その司が心底頼りにしているのは紀伊也だと言ってもいいだろう。そう思ってもおかしくはないと晃一は思った。
決してたくましいとは言えないその背中を見つめながら晃一は紀伊也を信じていた。




