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サバイバル  作者: 清 涼
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第十五章(二)

第十五章(二)


 夜が明け、朝露が緑を潤し、そこから発せられる空気は冷んやりとした心地よさを注ぐ。

いつの間にか深い眠りに陥ちていた紀伊也は、高い木々から漏れる朝日に照らされて目を覚ました。

幾らか体が休まったのだろう。少し軽くなった身体からだを起こすと、一つ息を吐いた。

火はすっかり消えていたが、何事もなかったのだろう。皆を見渡すと、静かに肩が波打っていた。

恩田のそばに行くと、顔色を伺いながら右手をそっと体にかざし、気を送った。

どうやら自分の能力もまだ少しは使えるようだ。

安堵の息を吐くと、水筒を手に取り水を飲んだ。

ごくりと冷たい水が喉を通って行く。辺りを見渡すと、あと半日はここで休んでいたくなるような気持ちになってしまう。

 皆が自然に目を覚ますまで待っていよう

紀伊也は立ち上がると、辺りに気を配り、やがて何かを見つけたようにホッと力を抜くと、それに向かって歩き出した。



 んん・・・ ?


突然腹の辺りに何かを押し付けられて晃一は目が覚めた。


 アテっ


ちくっと何かに刺されたような痛みが走り、顔をしかめたが、再び腹に何か押し当てられ、パチっと目を開けると、ヒっと息を呑んだままそれに凝視してしまった。

灰色をした四つ足の動物が長い鼻先を自分の腹に押し当て、しきりに何かを探すように嗅ぎ回っている。


 マジかよ・・・


声を出す事も出来ず、ましてや体を起こす事も出来ず、視線だけがその動物に向いたままだ。


 ピーっ


何処からか口笛が一つ鳴った。

その瞬間、その動物が不意に顔を上げ、晃一から体を離した。


 はぁ 助かった・・・


晃一はホッと大きな息を吐くと、体を起こして自分の腹を見つめた。

が、次の瞬間、急に違和感を覚え、ギョッとすると、慌てて上着をめくって悲鳴を上げてしまった。


「ぎえーーっっ んだよっ これっ!?」


 っ!?


その悲鳴に皆が目を覚ました。

「えっ!? なっ 何ですかっっ!!?」

心地よい眠りから一変して新たな恐怖の戦慄せんりつが走る。

だが、慌てふためいている晃一とは対照的に、苦笑いを浮かべながら晃一に近づいた紀伊也に安心すると、皆、落ち着いたようにホッと息を吐いた。

「あーあ、結構ひどいな。 このまま川に飛び込むのが一番いいんだが、ここにはないからな。 どうする? あのアリクイに食ってもらうか?」

腹の上に乗った無数のアリの大群に、紀伊也は冷静に言うと、少し離れた所で鼻をヒクヒクさせているアリクイに目をやった。

「マジかよ〜、 まさか、お前が飼い慣らしたんじゃねぇだろうな」

「どうする? このままだと腹に穴が開くぞ。火つけていぶしてもいいけど、やってもらった方が早いぞ」

「 ・・・。 アテテっ わかったよっ。 とにかく何とかしてくれっ これっ。 って。人食いアリだろっ!?」

「 ん・・・、まぁな。 ピィー」

「ホントに飼い慣らしやがったんか・・・」

指を口に当て、口笛を吹いた紀伊也に晃一は半分呆れたように言ったが、長い鼻先から硬い舌がぺロリと伸びた瞬間、さすがにヒエっと小さな悲鳴を上げてしまった。

まるで本当に飼い慣らされた犬のようにペロペロと晃一の腹の上を這い回っている小さな黒い群れをこそぎ取るように舐めている。

その間、紀伊也は慎重にそれを見ていたが、他のスタッフは別段驚く事もなく、当然の事のようにそれを見ていた。




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