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サバイバル  作者: 清 涼
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第十五章(一)

第十五章(一)


 ザッ ザッ ザッ ・・・


 はぁっ はぁっ はぁっ ・・・


濃い緑の覆う密林に、引きずるような彼等の足音と渇いた苦しい息遣いが響く。

あれからどれ位歩いたのか分からない。ただ、何も考えずにひたすら歩き続けていたと言ってもいいだろう。

途中、いくつかの小さな獣に遭遇したが、一々驚いている余裕などない。今では、何処でどんな獣を見たのかさえ思い出せなかった。

岩が大きくせり出した洞窟のような所に出るとそこで腰を下ろした。

ここなら急なスコールに遭ってもしのぐ事は出来る。

西村と岩井も何とか起き上がれるようになり、壁に寄りかかって足を投げ出して座った。

だが、まだ意識のはっきりしない恩田はいつ呼吸が止まってもおかしくない程に不規則かつ苦しんでいた。

「一種の麻薬中毒だ。本当は早く病院に連れて行かないといけない・・・」

さすがに紀伊也も自分の治癒力が落ちていてはどうにも出来ない。

火を囲みながらうつらうつら自然にまぶたが落ちて行く。それと共に体の中の力も陥ちて行く。

いつの間にか全員が無意識に眠ってしまった。


どれ程経っただろう。

ザーっという雨音に目が覚めた紀伊也が、ハッと顔を上げると、辺りはすっかり暗く、目の前の火も消えかかっている。慌てて小枝を入れ、火を起こした。

そして、ごくんと何かを飲み込んで頭を軽く振った。

ふと気付くと、かたわらに黒っぽい野犬が一匹、自分に寄り添うように体を丸めていた。

「お前が守ってくれたのか」

目を細めて頭を軽くさすると、ピクッと両耳が動いたが、まるで飼い主に甘えるかのように安心して目を瞑ったまま起きようとしない。

しばらく紀伊也もそのまま体を休めていた。

疲れ切った体が、頭の先から足の爪先までの動きを遮断している。頭の中の思考回路さえも鈍らせているようだ。

その内、背筋に一筋の悪寒が走り、ハッと我に返った時、再び火がくすぶりかけているのに気付いた。

やはり深夜ともなればかなり冷えて来る。

それもその筈、熱帯と言えども、高地に出れば陽の沈んだ後の気温は急激に下がるのだ。

この火が消えれば凍え死んでしまう。

火の調整をしながら皆の様子を伺うと、紀伊也は溜息をついた。

だが次の瞬間、自分の吐いた息が異常に熱いのを感じると慌てて頭を振った。

ここで倒れる訳にはいかない。

あと2日。

2日目の夜にはアランに会わなければならない。

紀伊也は大きな呼吸を一つすると、両目を見開き再び皆の顔色を伺った。


******



「気ガ付イタヨウダナ。 死ンダカト思ッタガ」


小さな声だが、凛とした女性の声が聴こえた。


 死ンダカト思ッタガ・・・


 それはこっちのセリフだ


ぼんやりする意識の中でそう呟いたが、ハッと我に返って起き上がろうとした時、一気に体中の血が動き、瞬間めまいを覚えた。

「 っく・・・」

「動クナ。 ソノ体デ動ケバ 体ニ触ル」


 誰だ!?


肩に触れた手をガッと掴んだが、その冷やっとした手に息を呑んだ。

骨格は細いが、筋肉の張ったその手は見なくても艶やかだ。明らかに女の手だった。

「ズイブン気丈ダナ」

女は言いながら掴まれた手を離すとそっと置いた。

暗がりでその姿こそ分からないが、誰かが自分の傍らに座っていた。

何故ここに司以外の人間が居るのか分からない。

それに、

「オ前ハ誰ダ?」

そう質問する自分が今、古代ラテン語を話している事に驚きを隠しきれない。

声を発すると同時に喉が渇き、思わずあえぐような息をしてしまった。

「これを飲むか? 律儀に置いて行ってくれたぞ」

とっくりのようなものを取って小さな器に注ぐと、司の体を起こして口元に持って行く。

既に侵されてしまったからにはどうにもならない。考えにも及ばず何の抵抗もなくそれを飲んだ。

 はぁ はぁ ・・・

2,3度呼吸を整え再び寝かされると女を見上げた。


「私はアルナンのティプラ様に仕える者、シンラという。アルナンの力を感じてここへ来たらこのザマだ。アヤツ等が一体何者か知らないが、3日前にアルナンの強力な力を感じて以来、それきりしなくなってしまった。アルナンに何かあったのか?ティプラ様に報告したいのだが」


淡々と語り出したシンラの言葉に司は理解に苦しんだ。

この女は一体何を言っているのだろう。

「アルナン」 「ティプラ」

司には、今、この目の前で語っている女が恐らく自分の夢の中で語っているのだろう、そう思えてならず、彼女から目をそらせると、真っ暗な小屋の天井を見つめた。

そして、何事もなかったように目を閉じると、深い眠りに陥ちて行った。



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