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サバイバル  作者: 清 涼
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第十四章(三の2)

 三人の腹も落ち着き、横たわった三人の様子も落ち着いたのを見計らった紀伊也はホッと一息つくと、水筒に手を伸ばして水を飲んだ。そして、ようやく採って来た果物を口に入れた。

無言でそれを食べていたが、やがて紀伊也も落ち着いたのか、顔を上げた時にはいつもの落ち着き払った表情をしていた。

「晃一、あの村で何があったか教えてくれ」

ようやくの問いかけに、晃一は安心したようにふぅと声を上げて息を吐いた。

「その前に、ホントに司のヤツ、大丈夫なんだろうな? 俺達、こんなとこまで先に来ちまったけど、後から司も来んだろうな?」

あぐらをかき直すと、身を乗り出すように訊く。

「心配するな。 司には、司にだけ分かるように目印をつけてあるから後で来るよ」

表情を変えずに冷静に言う紀伊也に晃一は安心して一息ついた。

そして、捕らえられてからの出来事を全て話した。

その間、紀伊也は相変わらず表情一つ変えずに黙って聞いていた。

「 ・・・、という訳だ。紀伊也、ホントに司、大丈夫なんだろうな? でも、あそこまでして飲みたくなかったものを俺のせいで飲まされちまったんだ。一体何だったんだ、あれ?」

けつく太陽の下に干されても口にしたくなかったものは一体何であったのだろう。

自分達が飲んだものとは違うのだろうか。晃一は食らいつくように紀伊也に訊ねたが、なかなか答えてくれない。それどころか、答えるのをためらっているようだ。

「紀伊也っ!」

とうとう苛立って晃一は怒鳴ってしまった。

が、その時、その声に反応したのか、恩田が呻き声を上げ始めた。

「うぅっっ、・・・ あぁっっ ・・・ はぁっ はぁっ ・・・」

全員が驚いて息を呑んだが、紀伊也は「ダメか」と溜息をついて立ち上がった。

皆が眠っている間中、治癒力を送り続けたが、さすがに紀伊也の能力も体力同様衰えていた。西村と岩井の熱を下げる事は出来たが、恩田の中毒症だけはどうしても治せない。思った以上に重症だった。

皆に背を向けて、恩田の側に腰を下ろすと、右手の平を胸に当てて気を送る。

「あの部族はヤニ族と言って、別名麻薬村とも言われている。晃一達が飲まされたのはコカ茶だろう」

そして、左手を首に当てて脈を診る。少し落ち着いたのを確認すると、先程煎じておいた薬草の液体を口に含ませた。そして、何とか飲ませると一息ついて戻った。

「コカチャ?」

「コカインだよ。お前等が摘まされていたのは恐らくコカインの葉だろう。ヤニ族のものは質が良いらしくて裏ではかなりの高額で取引されているらしい」

「って事は、俺達って、ヤク中?」

「そこまではいかないよ。コカ茶だけならただのお茶と同じようなものだからな」

「はぁ、びっくりした。 ・・・ けど、お茶なら別に問題ないだろ。だったらアイツも素直に飲めばいいのに」

「 ・・・、 そうだな」

間の開いた紀伊也の相槌あいづちに木村が恐る恐る口を開いた。

「もしかして、アヤワスカ、ですか?」

一瞬木村に視線を送った紀伊也だったが、炎に目を向けると黙って頷いた。

それに対して木村は息を呑んで視線を落としたが、晃一と佐々木は不思議そうに顔を見合わせた。

「何だよ、ソレ」

木村は顔を上げて晃一を見たが、即座に答える事をためらって再び俯いてしまった。

「何かの儀式の時に霊が乗り移りやすいように正気を失くさせるんだ。原住民の間ではよくある事だが、別に霊が乗り移る訳じゃない。実際は気が触れてそうなったようなだけだ。ばかばかしいけどそれが信じられている。いわゆる信仰だよ。 ・・・、 つまり、それを飲んで正気を失くさせる」

代わりに紀伊也が答えた。

「それって、もしかして司が飲まされたヤツ?」

晃一は口に出して言ってはみたものの、以前何かの番組でどこかの原住民の儀式を見た事を思い出し、気が触れて天を仰ぎながら何かわめいている原住民に司の姿を重ねてしまい、思わず身震いしてしまった。

そして、すぐさま紀伊也に視線を送ったが、紀伊也は頷こうとせず、炎に小枝を投げ入れた。

「確か、何かの根毒を使うとか・・・」

「ネドク?」

自身なさげに言った木村に晃一は向いたが、木村の視線が紀伊也に答えを求めるように向いていたので、再び紀伊也に視線を移す。

「何の木を使うのかまだ不明だが、根毒を使う事は確からしいな」

木村に答えを送ると、晃一に向いた。

「人に寄っては死ぬ事もある。一種の麻薬と同じだな」

そういって視線をそらすと、その視線を恩田に向けた。


 すっかり辺りは暗くなり、空を見上げれば満点の星空だ。

炎を囲んでいるせいか、それとも自分の気のせいなのか、何故かその炎から温かさを感じる。その証拠に用を足しに少し離れるとかすかに吹く風が何となく涼しいとさえ感じた。

急に秋の気配を感じるようだった。

「何だか冷えるな」

そんな言葉を口に出して晃一は首を傾げた。

紀伊也には聞こえていなかったのか、何も言わなかった。だが、晃一や木村は何か不思議な心地よさを感じて、炎を囲んでぐっすり眠ってしまった。

そんな皆を見守るように炎の中に小枝を入れながら紀伊也は溜息をつくと、星空を見上げた。

 司は無事なのだろうか

あれからテレパシーも通じなくなってしまった。生きているのか死んでいるのか、二人をつなぐ脳波も確かめる事が出来ないでいた。

二人共に相当体力と能力を失っている証拠だった。

自分の目で確かめるしかないが、今はそれすらも叶わない。

とにかく今は皆を約束の時間までにアランに引き渡すしかなかった。

残された時間はあと4日。

倒れた3人を担いで一日にどれだけ進めるのだろうか。

不安を抱きながらも疲れた体を休ませるように岩に寄りかかると、深い溜息をついた。

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