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サバイバル  作者: 清 涼
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第十四章(三)

第十四章(三)


 あともう少しだった。

あと十数メートルという所まで来た時、ヒュンという風と共に何かが木村の耳元をかすめ、目の前の木に突き当たって下に落ちた。

ハッと振り返った時、 ズガーーンっっ と、耳元で聞いた事のない音が炸裂し、煙の匂いを嗅いだ。

その音に驚いて全員が一瞬目をつむってしまったが、恐る恐る目を開けると、十数メートル先に、弓を持った原住民の一人が仰向けに倒れ、それをもう一人が覗き込んでいた。が、突然悲鳴を上げると、そのまま走り去ってしまった。

明らかな銃の音に、晃一が紀伊也に視線を移すと、冷めた瞳で右手に持った拳銃を静かに下ろし、一息ついたところだった。

「 ・・・、紀伊也 ・・・」

「 ・・・、行くぞ 」

紀伊也は何も応えようとせず、拳銃を腰のベルトに差すと、西村を背負い直して再び歩き出した。

晃一も今はそれ以上何も言わずに黙って紀伊也の後を追った。

すぐに境界線の木まで着いたが、紀伊也は立ち止まらずに先に進んだ。

晃一も木村も佐々木もためらわずに、そのまま紀伊也の後を追う。そして、5分程歩いた所で、少し開けた岩場があった。が、それも直接日の当たる事はなく木陰になっていた。

そこの草地に、紀伊也は西村を下ろすとそっと寝かせた。晃一も岩井を寝かせ、木村と佐々木もぐったりとした恩田を下ろすと寝かせた。

そして、全員がその場に崩れるように腰を下ろすと、大きな息を吐いた。

ようやく一つの目的の地に着いたのだ。

「はぁ・・・」

両手を後ろについて、空に向かって大きな息を吐いた晃一の目の前に水筒が差し出された。

無意識にそれを受け取りながら視線を動かすと、少し安心したような紀伊也と目が合った。

「紀伊也」

「第一関門突破ってとこか。よく頑張ったな。今日はここで休もう」

そう言って笑みを浮かべると晃一に薬を一つ渡した。

「解毒剤だ。すぐに飲んでくれ」

「あ、うん」

言われるがままにそれを受け取ると、何の疑問も持たずに口に入れ、水と共に流し込んだ。

何日ぶりの水だろうか。

渇いた口と喉を潤してくれる水に、こんなにも喜びを感じた事はないくらい感極まってしまった。

全てを飲み干してしまいたい、そう思ってしまった自分に苦笑すると、水筒を木村に渡した。

木村と佐々木も薬と共に水を口に含ませた。そして、息も絶え絶えに横たわっている3人の口に少しずつ水を垂らした。

わずかながら口が動き、ごくりと喉が動くのを見て、安堵の笑みがこぼれた。

そして、いつの間にか晃一達は深い眠りについていた。

 あれからどうやって眠ってしまったのか思い出せない。しばらくしてパチパチという木の枝が炎に焼かれる音で目が覚めた。

気だるい体を起こすと、倒れた3人を覗き込むように看ていた紀伊也が振り向く。

「大丈夫か?」

そう紀伊也に声を掛けられたが、炎に映し出されたその表情は重く疲れている。

さすがに疲労の色を隠せなかったのだろう。ふぅと一息吐いて立ち上がると、並べてあった水筒の一つを手に取って晃一に渡した。

「サンキュ」

当たり前のように受け取った晃一だったが、水筒に口を付けながらハッとすると、慌ててそれを離してマジマジそれを見つめた。

それは紛れもなく今まで自分達が使っていたもので、ついこの前、あの村の牢の中で飲み干してしまったものだ。それなのに今はその中にいっぱいに冷たい水が入っていた。

ハッとしたように紀伊也を見れば、石の上に緑色の植物を置いて、それを別の石ですりつぶしているところだった。

「紀伊也、何ソレ」

「ん? ああ、薬草だよ。これを飲ませれば何とか気付くだろう。マズイけど我慢してもらうしかないな」

「紀伊也・・・」

「あ、晃一、その袋の中に少しだけど食べ物が入ってる。それと、さっきって来た果物と木の実、皮むけば食べれるから、食べていいよ」

顎でそれらを指すと、再び薬草をすり潰し始めた。

その手付きは慣れていると言ってもいい程に自然だったが、遠目から見ても肩で息をしているのが分かる。時折、顔をしかめて何か痛みをこらえているかのようにも見えた。

 二人の会話に目を覚ました木村と佐々木に晃一は水筒を渡すと、立ち上がって袋を取りに行った。そして中身を出し掛けたが、すぐにしまった。乾燥したパンとチョコレートだったが、紀伊也が採って来た果物と木の実を手に取る。それを木村と佐々木に渡した。

「いつの間に・・・」

黙ったまま晃一から手渡されて受け取った二人だったが、それを口に入れながら何故か涙が溢れて来るのをぬぐいながらその甘酸っぱさを噛み締めた。



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