第十三章(ニの2)
顔を見せたのは紀伊也だった。
「紀伊也っ!?」
「早くしろっ、とにかく全員出るんだっ 急げっ」
驚いて再会を喜んでいる間は一寸足りともなかった。
一人一人紀伊也に手を引かれて外に出されると、言葉を交わす間もなく、こっちだと誘導される。
何が何だか分からない内に事が起こったとは、この事をいうのだろう。
誰にも冷静に考えている間もなく、とにかく必死に紀伊也一人の指示に従った。
どこをどう走ったのか分からない。
いつの間にか騒ぎの音が遠のいて行く。
そして、完全に辺りが暗闇と化し、自分達の草木を踏み分ける音と、息を切らせる音しかしなくなった時、一番後ろを歩いていた晃一はハッとしたように顔を上げると恐る恐る後ろを振り返った。
誰もいなかった
再び前を向いて皆に置いて行かれないように慌てて後を追ったが、何故誰もいない事にこれ程の不安を感じなければならないのか、再び後ろを振り返り、もう一度前を向いた。
「紀伊也っっ!!」
突然、一番前を歩いている筈の紀伊也を大声で呼ぶと、一行は立ち止まった。
7人の長い列が小さくまとまると、紀伊也が晃一の傍に寄った。
「どうした?」
「紀伊也・・・、 司は?」
「 ・・・ 」
「司がいねぇんだけど、司は? まさか、置いて来ちまったのか?」
何故、自分の後ろに誰もいない事がこれだけ不安だったのか。
それは、司がいなかったからだ。
いつも先頭を歩いていたのは、紀伊也でなく、司だった。
それが今は、先頭を歩いているのが紀伊也で、いつも一番後ろを歩いていたのが紀伊也でなく自分だったのだ。
「何で、司がいねぇんだよ」
「司は後から来るから心配するな。とにかくこのエリアを抜けないと。行くぞ」
何の動揺も見せずに紀伊也は言うと、皆を促し、再び先頭に立って歩き出した。
言われるがままに晃一も歩き出した。
紀伊也がそう言うのであれば、きっと司は後から来るのだろう。それに、この逃亡は司と紀伊也で計画された事なのだ。
とにかく紀伊也を信じて逃げろと司が言うのであれば、その紀伊也を信じてついて行くしかない。
そう自分に言い聞かせたが、やはり心配になって時々後ろを振り返りながら晃一は歩いた。




