第十二章(三の2)
「あー、このメシにも慣れちまったなぁ、ちくしょうっ」
晃一は芋を潰して団子状になったものを葉に包みながら吐き捨てるように言うと、それを口に運んだ。
「そうっすね」
西村も木村も苦笑いを浮かべて同じように口に運んだ。
捕らわれの身でも、三度の食事はきちんとしていた。ここへ来てとうとう5日目の朝食になってしまった。
「はぁ、・・・ んだ? もう時間か? 今日はエラク早いじゃねぇかよ、ったく、どこに行っても働き詰めかよ。勘弁して欲しいよなぁ」
晃一はぼやきながら扉をガシャガシャ開けているヤニ族を呆れて見ていた。
だが今朝は何となく様子がおかしい。
扉が開かれると、一番近くにいた岩井が出ようとしたが、それを制され誰かを探すように皆を見渡し、目的の者を見つけると指さした。
「俺?」
晃一は自分で自分を指すと、男に早く出ろと睨みつけられた。
「大丈夫ですか?」
「さぁな、よくわかんねぇけど、行ってくらぁ」
よいしょと、仕方なく立ち上がると入口まで腰を屈めて歩き、外に出ると大きな伸びを一つした。
が、とたんに両脇から剣を突きつけられ歩かされた。
5人のヤニ族に囲まれて隣の小屋の前まで来た時、晃一は息を呑んだ。
司が居る
咄嗟にそう思った。
そして、何故自分がここに連れて来られたのか瞬時にして予想が付く。
開かれた扉から押されるように入れられた晃一は、更に息を呑んで思わず駆け寄ろうとしたが、瞬間、喉・胸・腹に剣先が当てられた。
「晃一っ!?」
剣を喉元に突かれたまま身動きが出来ずにいた司は、入って来た人物に驚きを隠せない。
3人のヤニ族が血走った目で晃一に剣を突きつけていたのだ。
「サア、飲メっ」
族長が再び器を部下から受け取り、司の口元に突きつける。
「 ・・・ 」
ここで飲まなければ晃一は間違いなくこの場で処刑され、彼等のご馳走となるのは目に見えて明らかだった。
族長の首が横に振られると、晃一の体が縮んだ。
更に強く剣先が体に食い込んだのだ。
「つ、司・・・」
思わず晃一が呻いた。
「ワカッタ、飲ム。ソノ代ワリ、彼ヲ放セ」
とうとう観念すると族長に向かった。仕方がない、守る為だ。
族長が手を上げて合図すると、晃一に向けられていた剣が下ろされた。
「司っ!?」
「 ・・・、 心配するな晃一。 それよりよく聞け。 今夜紀伊也が助けに来てくれる。 晃一、いいか、何があっても生きて帰るんだ。あいつ等と東京に帰れ」
「司っ、司は!? 一緒に帰ろうぜっ」
晃一が一歩踏み出そうとしたが、再び剣で制されてしまった。
それと同時に司は両脇を抱き抱えられた。
器が口元に持って行かれた時、司の顔色がさぁっと引いて行くのが晃一には分かった。
ここまでしても司が拒み続けるものを自分の不甲斐なさがそうさせてしまったのだ。
「司ぁっ!!」
悲鳴のような晃一の声が響いた時、司の喉が鳴った。
ゲホっっ
顔をしかめて一つ咳き込んだ。だが、追い討ちをかけるように、顎を掴まれて口をこじ開けられると更に液体を入れられた。
苦しそうにそれを飲み込む司に晃一は何も出来ないでいた。
「司ぁぁっっ!!」
最後に司の喉が鳴った時、族長はニヤリと笑って器を部下に渡すと、無造作に司を離して立ち上がった。
「司っ!?」
両脇を掴まれた晃一が叫ぶと、起き上がる事も出来ずに苦しそうに息をする司が薄っすらと目を開けた。
「晃一、東京で会おうぜ」
震える唇の端を僅かにニッと上げるとそのまま目を閉じてしまった。
「司っ!! ・・・ ばかやろうが・・・」
晃一はそれ以上何も出来ず、再び剣を突きつけられると、元の牢に入れられてしまった。




