第十二章(三)
第十二章(三)
っく ・・・
ツーンとした匂いに司は目を覚ますと、薬草らしきものをくわえさせられている事に気付き、思わず吐き出したが、とたんに目眩に襲われ頭がぐらっと揺れた。
手足は自由だが動かす事が出来ない。全くと言っていい程力が入らないのだ。
薄っすら目を開けたが、もやがかかったように視界がぼんやりするが、想像からしてここが最初の小屋に居る事が感じてとれた。
まだ左胸がチクチクと痛む。
あの時「秀也」と叫んでいた。何故かは解らない。
ただ5年前に秀也と出会ってから年を追うごとに自分の中で秀也の存在が大きくなって行ったのは事実だった。自分が能力者・タランチュラである前に一人の人間として、女としての光月司が在る事に気付かされ、また悦びを与えてくれたのは秀也だと言ってもいいだろう。
このまま一人の女として果てて行くのも悪くはない。
秀也、もう会えないかもしれない・・・
そう心の中で呟くと視界が閉ざされようとした。
『司っ!』
その時、はっきりと紀伊也の声が聴こえた。
やはり自分は能力者だった。
『紀伊也・・・?』
『しっかりしろっ、大丈夫かっ!? 何度呼びかけても返事がないから心配したぞ。何があった?!』
『 ・・・ 』
『司!?』
『何でもない、心配するな。それよりどうだった?』
『上手く行ったよ。赤い牙のアランと会えた』
『そうか、これで助かるな。で、紀伊也は今何処にいる?』
『近くまで来ているが、これ以上は近づけない。あと2時間位の距離だろう』
『ふっ、ずいぶん遠いじゃねぇかよ。で、アラン達との距離はどれ位だ?』
『俺の足で2日はかかる。次に会うのは5日後だ。司の方は?』
『 ・・・、まぁまぁだな。ただ、この暑さだ。相当参ってる筈だ。5日か、厳しいな』
『こっちはいつでもOKだ。いつやるか決めてくれ』
『わかった ・・・、紀伊也、また後で連絡する』
小屋の扉に気配を感じてテレパシーの通信を切ったが、途端に息が切れる。思わず肩で息をしなければならない程だった。
ガシャガシャと扉が開き、明りが入って来る。
視界の中に4本の足が見えた。
その先を見ようと顔を動かそうとした瞬間、一人がしゃがんで司の顎を掴むとこちらを向かせた。
「 っく・・・」
頭が割れるような痛みが走り、思わず苦痛の呻き声を上げてしまった。
鼻筋を黄色で塗った族長が、部下に手を差し出した。
その上に器が乗せられるとそれを司の口元まで持って行き、飲ませようとする。
固く閉じた口はそれを拒んだが、顎に力を入れられ無理矢理こじ開けられると、その液体が入っていく。
だが、次の瞬間、思い切り首を振って、残された力を振り絞って手で器を払い除けると、液体を吐き出した。
ゲホっ ゲホっ ゲホっ ・・・
バシーンっっ
怒った族長がとうとう司を殴り飛ばした。
どうしても飲みたくないのだ。
族長は部下に何やら命令すると、剣の先を司の喉元に突きつけた。




