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サバイバル  作者: 清 涼
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第十一章(五)

第十一章(五)


『紀伊也、ヤツ等に囲まれる前にお前だけでも逃げろよ。全員が捕まったらおしまいだ。もし、ここが本当にヤニ族のエリアならお前の足で2,3日で出られる。ルートを探して戻って来てくれ』


そう司に言われ、紀伊也は途中で皆からはぐれて、一人ジャングルの中を、半ば彷徨さまようように走った。

途中で畑のような所に出た時、遠くの人影を見て確信すると、コンパスと自分の勘を頼りに走り抜けるように歩き続けた。

時々、図鑑でしか見た事のないような蛇やムカデの仲間に襲われたが、特にケガをする事もなくすり抜けた。

一人で過ごす夜は不安なものもあったが、司の為だと言い聞かせると、自然と冷静になれる。

ほとんど休まず歩き続け、2日目の夜、息も切れた頃ようやく山道に出た。

車のわだちも見られ、ホッとするのと同時に感極まるものがあったが、ぐっとそれを呑み込むと、腕の時計に目をやった。

この時間では彼等は通らない。

しかし、今夜ここを通るかも定かではなかった。

2時間程、紀伊也は山道から外れた木の陰に身をひそめていた。

警戒しながらも疲れ切った体を休ませた。

さすがに、うつらうつらしかけた時、車の音が聴こえた。

彼等なのだろうか。

冷めた瞳の奥が怪しく光った時、四輪駆動の車の前に一頭のジャガーがのそっと現れた。

運転手は驚いてブレーキをかけて止まると、ライトの中に浮かび上がる黒いジャガーに息を呑んだ。

が、助手席にいた男は黙って頷くと銃をシートに置いたままドアを開けた。

そして、両手で口を覆うと、ホーっ ホーっ とふくろうの鳴き声を上げた。

すると近くの木の陰からも同じような声が返って来る。

男はホッとすると、車から降りた。

「赤い牙のアランです」

スペイン語でそう言った。

そして、車のライトを消すように運転手に合図する。

ライトが消され、辺りが暗くなると一人の男が木の陰から出て来た。

「よくご無事で。ここでもちょっとしたニュースになってましたから」

「そっか、参ったな」

「でも既に捜索は打ち切られましたけど」

「ずいぶん早いな」

「まぁ、金かかりますしね」

アランの言葉に紀伊也は苦笑してしまった。が、急に真剣な顔付になると、

「頼みがある」

と、アランを見つめた。

「分かりました。 ですが、この道もそう安全でもありません。昼間は政府軍が通りますし、夜も我々とは別のゲリラ部隊が通ります。時間を決めましょう。それ以外は無理です」

「わかった。で、君達は次にいつ来れる?」

「この時間なら何とか。でも、この3日間はダメです。ところでハイエナは何処から?」

「ヤニ族だ。あそこから2日半かかった。また戻ってアイツ等を連れて来れば最低3日はかかるな」

「いや、彼等の足では4日はかかりますよ。タランチュラがいても4日はかかるでしょう。それにもし、ヤニ族で出されたものを飲んでいれば途中でバテて死んでしまうかもしれない。無事でいても5,6日はかかるでしょう。ですから8日後にしましょう」

「8日後か、仕方ない。では8日後のこの時間に頼む」

紀伊也は一つ息を吐くと、二人は握手を交わした。

「あ、ちょっと待って」

アランは思い出したように車に戻ってシートから何か出すと紀伊也に手渡した。

袋が一つと、水の入った水筒、それに拳銃一丁だった。

紀伊也は軽く礼を言ってすぐに木の陰に姿を消した。

それをアランは不安な目で追った。

「アラン、彼は何処へ行ったんだ?」

車に戻ると、運転手が聞く。

「 ・・・、 ヤニ族の村だ」

「ヤニ族だって!? 食われちまうぞっ!! 何故止めないっ!?」

驚いて目をく運転手に、アランは黙ったまま応える事が出来なかった。



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