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サバイバル  作者: 清 涼
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第十一章(四)

第十一章(四)


 恐ろしい程静かな夜だった。

時折生温かい風を肌に感じながら、晃一やスタッフは初めて眠れぬ不安な一夜を過ごした。

その中で恩田だけが軽いいびきをかいて眠っていた。

夜の獣の鳴き声も今まで以上に不気味に感じる。夜空に輝く星も、冷たく、見放すようだった。

だが、いつものように、小鳥のさえずりと共に長い夜が明けると、広けた村に、あっという間に熱帯の陽射しが差し込む。幸いにも小屋のすぐ後方には高い木々が立ち並んで木陰を作っていた。

しかし、広場の中央に行けばその陽射しに10分と持たないだろう。黒い紙でも置けば燃えてしまいそうだ。

しばらくして朝食が運ばれて来る。

昨日の夕食と同じものだった。

恩田は昨日と同じようにそれを食べたが、他の者は誰一人手をつけようとしない。

「食べないと体持ちませんよ」

そう恩田に言われたが、黙って顔を見合わせるだけだった。

しばらくすると、剣を持った男達が3人ほど来て入口を開け「出ろ」と合図する。

仕方なく立ち上がって外に出ると、農作業をするような道具を手渡された。

10人ほどの男達に剣で突付かれ、連れて行かれると、恩田の言っていた通り畑に出た。

「多分今日はこの葉っぱの収穫ですよ。手でこれを取って、かごの中に入れるんです」

恩田は説明しながら椿つばきのような葉を茎から取ると、かごの中に入れた。

「何で俺達がこんな事しなきゃなんねェんだよ」

怒ったように晃一は言ったが、瞬間剣を首に突きつけられて黙ってしまった。

「イテっ」

晃一が首に手を当てると、指先に血がついていた。が、その瞬間ハッと息を呑んでしまった。

とてつもなく気味の悪い視線を感じたからだ。

思わずゾッとして辺りを見渡したが、剣を持った男達とスタッフの心配そうな顔があるだけだった。


 何なんだよ・・・今の・・・


冷や汗が出そうになった晃一はごくんと渇いた生つばを呑みこむと、作業を始めた。

炎天下の中作業をして1時間と経たない内に気分が悪くなって来ると、つい作業の手が止まり俯いてしまう。が、その先に剣が伸びて来ると仕方なく顔を上げた。

途中スコールに遭い中断されたが、それでも半日は作業をして終わると村へ戻った。

皆、無言だ。

すっかり喉も渇き、慌てて水筒を出すと、奪い合うように飲み干してしまった。

ぐったりと疲れ果て、うつらうつらして来ると今度は頭が痛くなって来る。

完全に熱中症だった。

出された食事にも仕方なく手をつけたが、全員が吐き気に襲われた。お陰で小屋の隅には皆の汚物がまかれてしまった。

その夜は散々だった。

あちこちで呻き声が聞こえ、晃一も激しい頭痛に眠る事が出来なかった。

今は司の事さえ忘れ、目の前で苦しむスタッフに目を配る事しか出来なかった。

次の日、岩井が起き上がる事が出来ず、仕方なく彼一人残し、再び畑に向かった。

また同じ作業だった。

しかし昨日以上にはかどらない。夕方には西村が倒れた。二人共高熱を出してしまったのだ。

晃一としても多少の心得はあったが、どうしてやる事も出来ず、ただ黙って見守ってやる事しか出来なかった。

 こんな時司なら何と言うだろう

翌朝、出された食事を見ながら晃一はふと口に出した。

「必ず全員で東京に帰ろうぜ」 

「え?」

「必ず、皆で東京に帰ろうぜ」

もう一度言った。

そう言えば、何度このセリフを司から聞いただろう。そして、何度このセリフに励まされただろう。

思わず晃一は泣きそうになって唇を噛み締めた。

「そうですね。 絶対に、皆で東京に帰りましょう」

スタッフで一番年配の木村が言った。佐々木も涙をこらえながら頷くと、地面に横になって苦しそうに息をする二人を見つめた。

が、恩田だけは半ば諦めたように溜息をついた。

再び小屋から出され、畑に向かおうとした時、10M程離れた別の小屋から激しい物音と怒ったような叫び声が聞こえて、晃一は足を止めた。

その小屋は自分達の小屋とは違って、木の板で囲われていた。

中の様子はその板と屋根の隙間から覗かなければ見えない。

「司!?」

一瞬そう思った。

何故かあの中に司が居るのではないか。ほぼ確信したようにそう思ったが、見る事が出来ない。

一歩そちらに行きかけて、再び剣を脇腹に突かれ、諦めてしまった。

ここで死ぬ訳にはいかないのだ。




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