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サバイバル  作者: 清 涼
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第十一章(三の2)

 そんな皆から離れ、曲がりくねった木の格子の外を晃一はじっと見つめていた。

此処ここへ連れて来られる途中、肩に担がれ、だらりと両腕を背に垂らして気を失ってしまった司に何度か呼びかけていた。

『司、頼むからいつもみたいに芝居だって言ってくれよっ』

そんな晃一の願いも虚しく、ピクリとも反応を示さない司は、何処どこか別の所に連れて行かれてしまった。

気が付けば紀伊也の姿も見えない。いつの間にかいなくなっていた。

最後尾を歩いていたから、もしかしたら既に捕まってしまったのかもしれない。そんな不安がよぎらない訳ではなかった。


 これからどうしたらいいんだ ・・・ ちっくしょう・・っ 


晃一は奥歯を噛み締めると拳を強く握り締めた。

そんな晃一に気付いたのか、スタッフは全員が黙ってしまった。

数々の災難から自分達を守ってくれた司がとうとう目の前で倒れてしまったのだ。

恐怖と不安の中で発狂してしまいそうだった自分達を、能天気な晃一の言葉が救ってくれていた。

それなのに、仲間を失った晃一に、仲間と再会出来た自分達が一瞬でも手放しで喜んでいた事に気付くと、何と声をかけていいのか分からない。

誰もが気まずそうに晃一を見つめた。

「なぁに、辛気臭せェ顔してんだよ。そいつが生きてたんだ、会えて良かったじゃねぇか。 素直に喜べよ」

気を遣われていた事に情けなくなったのか、苦笑すると晃一は笑顔を見せた。

「晃一さん、すみません。こんな時に」

「何言ってんだ、 ・・・。 けど、よく一人で生きてられたな」

晃一はふと疑問に思った。

「俺達、とりあえず7人も居たから何とかやってこれたし、それに司と紀伊也の超天才コンビがいたから何の苦労もしなかったけど、お前どうしてた?」

「そう言えばそうですね」

木村が相槌あいづちを打つと、皆、今まであった出来事を恩田に話して聞かせた。

恩田も張り詰めていた緊張の糸がほぐれたのか、不思議そうに首をかしげて聞いていた。

「太古の森?」

「そう。何だかすごく不思議な森だったよ。時間の進み方とか違うし、化け物みたいな生き物はいるしで、まるでCGの世界だったな。そこ通らなかった?」

木村に言われ、恩田は首を横に振った。

ジャガーに襲われ、一瞬パニックになった恩田は、誰かの後について必死に走った。

それが自分の仲間ではなく、通訳の男だと分かるとがっかりしたが、一人になる訳にもいかない。

現地の者ならば、いずれ皆に会えるし助かるだろう、そう信じて彼について行くしかなかった。

言葉も通じず、不自由はしたが、恩田を見捨てる事なくこの村まで連れて来たというのだ。しかし彼は恩田を族長の男に引き渡すとそのまま何処かへ行ってしまったという。

途方に暮れてしまったが、恩田としてもどうする事も出来ず、彼等の指示する通りにここに住む事になったというのだ。

「恩田さん、毎日何してんですか?」

一番体格のいい佐々木が聞く。

「うん、あの林の向方に丘みたいのがあって、そこに畑があるんだよ。何の植物か分からないけど、何か栽培していてそれの手伝い」

「食事とかどうしてたんですか?」

「一応毎日くれたよ。芋みたいのを茹でて、それを潰したものを何かの葉っぱに包んで食べるんだけど、だいぶ慣れたかな」

「よく当たらなかったな」

感心して晃一が言った。

「いえ、最初は当たりましたよ。でも、薬草みたいの煎じてくれて、すごくまずかったですけど、お陰で治りました。彼ら、意外と親切ですよ」

恩田の口調から彼等が野蛮でない事を感じて取れたが、先程自分達が捕まった時の状況を考えるとよく分からない。

恩田は明らかに別の道からこの村に来ている。

しかもあの場所からは4,5日だと言っていた。通訳とガイドがグルだと司が言っていたのを思い出す。

彼等の目的が一体何なのか、又、何故自分たちは伝説の森に入ってしまったのか、晃一にはいくつもの疑問が浮かぶが、今はそれよりも司の事の方が気懸かりだった。

 陽が傾いた頃、恩田の言うとおり、水と食事が運ばれて来た。

木をくり抜いて作ってある食器に、柏のような葉と、見た目には到底美味しそうとは言えない芋を潰した団子状のものが乗せられていた。

「大丈夫ですよ。いつもこれと同じものを食べてましたから」

恩田はさらりと言うと、いつものように手でそれを葉の上に乗せて包んで口の中に入れた。

呆気に取られてそれを見ていたが、誰も手をつけようとしない。

恩田は水も飲んだが、やはり誰も口につけようとは思わなかった。

アマゾネスの村で言われた言葉を思い出す。

『出されたものには手をつけるな。骨抜きにされるぞ』

冗談のようだが、彼等の置かれている状況は常に生死の境にあった。


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