第十一章(ニ)
第十一章(二)
時々、目の前を立ち塞ぐように大きな葉が垂れ下がっている。
それをかき分けながらも、司はいつになく険しい表情で足早に進んでいた。
それでも小一時間は歩いただろうか。少し遠くの方で水の音が聴こえた。その音に幾分気が休まる。高い木々に囲まれ、辺りの見通しがよくなっていた。
ふと辺りを見渡した時、完全に囲まれた事を悟った。
だが、彼等が動いて来る気配がない。
急いで何か盾になるものを探し、大きな岩が一つあるのを見つけると、それに向かって再び足早に歩き出した。
後ろにいた晃一達はほとんど小走りで司の後をついて行く。
ヒュンっ
明らかに何かが一番後ろを歩いていた佐々木に向かって飛んで来る。
瞬間、司は持っていた木の枝をそれに向かって投げ付け、矢を弾き飛ばした。
何が起こったのか解らなかったが、皆、一瞬にして司の側に駆け寄った。
と、同時に ヒュンっ ヒュンっ と次々に矢が放たれ、こちらに向かって飛んで来る。
カンッ カンッ カンッ
それを司がサバイバルナイフで避けていた。
「晃一っ あの岩陰に隠れろっ 早くっ!!」
「つ、司ぁ」
「早くしろっ!!」
司は皆の盾になって飛んで来る矢を払い落としながら、岩の方へ皆を誘導して行く。
「チっ キリがねェっ」
周りの木の陰から弓を構えた黒色の肌をした原住民達が姿を現した。
次の瞬間、足元に落ちていた矢を片足で拾い上げると、目にも留まらぬ速さでそれを掴み、一つの木の陰に向かって投げ付けた。
ドサっ
一人が左胸に矢を受けて倒れた。
一瞬彼等の動きが止まった。が、次の瞬間、四方から一斉に司に向かって矢が放たれた。
「チっ」
まるで、その攻撃を読んでいたかのように司は地面に転がって矢を避けた。
うわぁぁぁっっっ
!?
立ち上がりかけた時、スタッフから悲鳴が上がり、瞬間そちらに目をやると、一人の原住民が剣を振りかざし迫っていた。
司は起き上がり様に腰から剣を抜くと、それを放った。
ドスっ ・・・・ ドサっ ・・・・
ズブっ
「うっ ・・・ くっ ・・・」
「司っ!?」
カツンっ ・・・ カツンっ ・・・
ほんの一瞬の出来事だった。
迫って来た黒色の肌に目の回りだけは赤く、鼻筋が白く塗られた顔の原住民が喉元を短剣で突かれ、悲鳴を上げる事さえなくそのまま倒れた。
が、次の瞬間、晃一は司の小さな悲鳴を聞いた。
ハッと振り向くと、額から汗を噴き出して顔をしかめ、歯を食いしばって倒れそうになる体を、何とかおぼつかない両足で踏ん張っている司がいた。
左手で、ナイフを持っている右腕をかばうように支えていた。
そして、尚も飛んで来る矢を払い落としている。
ガっ
「っく・・」
シュっ
司はその左手で、右腕に突き刺さった矢をぐっと抜き取ると、それを放った。
ドサっ
その矢は司を射抜いた原住民の左胸に突き刺さった。
「司っ!?」
「司さんっっ!!」
口々に皆が司を呼ぶが、徐々にその声が遠くに聴こえる。
ドサっ ・・・
くっそ・・・ 毒矢か・・・ か、体が痺れ・・て・・・
とうとう司はばったり倒れると動かなくなってしまった。
そして、それが合図のように、一本の矢も飛んで来る事はなかった。




