第一章(四)
第一章(四)
はぁっ はぁっ はぁっ
三人は少し広けた草地に座り込むと、両手をついて息を整えた。
「何だったんだよ、あれ ・・・ はぁっ はぁっ 」
晃一は思い出したように一瞬目を瞑ると、首を横に振って再び開けて息を整える。
他の二人も被っていた帽子を取ると、はぁはぁ 息を切らせ、互いに目を合わせたが、何と返事をしていいか分からず、声も出せない。
「お前ら、水持ってねェの?」
「あ、あります」
一人が思い出して首に掛けていた水筒を外すと晃一に差し出した。
「サンキュ」
半ば奪い取るように受け取り、キャップを外して勢いよく口に入れ、ごくんと一口飲んでそのまま突き返した。
「お前も飲め」
「は、はい」
言われるまま水筒を受け取り、ごくごくと水を飲むと一息ついた。
そして、隣にいた別のスタッフにも渡す。
「他のヤツ等はどうしたんだろうな?」
晃一は不意に不安になった。
飛び出して来たジャガーに驚いて、あっという間に背を向けて走り出してしまった。
何処から入って来たかなど思い出している余裕などなかった。
一目散に逃げ出したと言っていいだろう。後方で人間と獣の悲鳴を聞きながらとにかく走っていた。気が付くと、背後に二人のスタッフも血相を変えてついて来ていた。
他に獣の気配がない事を信じながら後はひたすら歩き、少し木漏れ日の当たる草地を見つけるとそこで座り込んでしまったのだ。
司はどうなったのだろう。
あんな事をすれば、他の獣の怒りを買うだけだ。
一瞬、変な事を考えそうになって、ゴクンと息を呑んだ。
ザっ ザっ ・・・
!?
不意に何かの足音が聞こえ、三人は一斉に立ち上がると息を呑んで身構えた。
更に近づく足音とは反対方向に後ずさりをする。
「晃一、オレだ」
声と同時に垂れ下がった葉の間から司が顔を出した。
「司っ!!」
驚きと共に安心し切ったように晃一は司に飛び掛って抱きついた。
一瞬避けようかと思ったが、ナイフを持った右手だけを上に上げると、左手で晃一の背中を軽く叩いて体を離した。
「あー、良かったぁっ」
「一応無事だったんだな。 で、お前ら三人だけか?」
司は他の二人が木村と再会出来た事に喜んでいるのを見ながら晃一に訊くと息を吐いた。
皆、無事なのだろうか?
秀也があの大きなシダの向方に行った事は確認出来た。ナオはまだ入って来てはいなかったから恐らくは無事だろう。
そして、紀伊也はどうしたのだろう?
騒ぎが一つ落ち着いた時に、ジャガーは5頭倒れていた。3頭は自分が倒したものだ。とすれば2頭は紀伊也がやった事になる。
が、紀伊也はあそこにはいなかった。上手く逃げ出せたのだろうか。
あのサーベル・タイガーが現れた瞬間、異様な空間に包まれて、紀伊也とを繋ぐ脳波は遮断されてしまった。
何だったのだろう。
「司、俺達これからどうする?」
晃一の素朴な質問に一瞬呆気に取られてしまった。
「どうするか?」
表情なく答えたが、フッと苦笑すると大きな息を一つ吐いた。
「とりあえず、休もうぜ」
司は切り株の上に腰を下ろし、ポケットからタバコを出すとズボンのポケットからライターを出して、それを見つめた。
「司?」
タバコを銜えたままじっとライターを見つめている司に晃一が声を掛けた。
ん?
その視線に気付いてフッと笑うと、火をつけて一服吸って空に向かって煙を吐いた。
陽が傾きかけているのだろう。薄っすらと赤味を帯びた空は、これから何かが起こる前兆のように、不気味なほど血の色をしていた。
「これ、秀也に返さなきゃ」
そう一言呟くように言うと、右手でぎゅっと握り締めた。




