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サバイバル  作者: 清 涼
69/150

第十章(四の3)

******


「何だか哀しいお話だな。で、司、一体その昔話は何だ?」

「ん? ・・・、 ホラ、お前らが捕まったアマゾネスの話」

「は?」

狐に包まれたような晃一に少し苦笑してしまった。が、司も話をしながら背筋が寒くなるのを感じていた。

崩れた瓦礫がれきの下にあった人骨はコルバのものだったのだろうか。

そして、自分が持っているこの緑色の石は、その大地の石なのだろうか。

「 っさ、司!?」

ハッと我に返ると、晃一が少し呆れたように見ている。

「あ、ああ ごめん」

「アマゾネスって、そんな綺麗なヤツはいなかったぞ」

「いえ、いたんですよ、それが」

木村が真顔で応えた。

「兵士みたいのが4,5人。その人達もスタイル良かったですけどね。その真ん中にいた人は格別でしたよ」

西村が少し興奮気味に言った。

あの時は恐怖心がほとんどを支配し、冷静でいる事など出来なかったが、今思えば殆んど裸体はだかに近い妖艶ようえんな美女達だったのだ。

普通の男であれば、どれだけ気丈にしていようが、一瞬でも気が緩んでしまう。

「ええっ、マジで?! 紀伊也も見たの!?」

「見たよ」

「どんなだった!?」

「綺麗だったよ。その昔話みたいに」

興奮気味に聞いて来る晃一に少しうるさそうに応えた。

「やめろよ〜、そうやって俺達を架空の世界に引き込むの〜」

おどけたように言ったが、実は単に信じたくないという強がりでしかない事に、晃一自身気が付いていた。

何故なら、隣にいた司の袖を既に掴んでいたからだ。

「アマゾネスが実在していたのは事実だよ。だから出くわしてもおかしかないだろ」

司はそれだけ言うと、晃一の手を振り払った。

 すっかり夜も更け、皆が寝静まった頃、炎を絶やさないよう薪を火の中に入れた。

相変わらず流れ落ちる滝の音が夜の闇に響いているが、この池の水は一体何処へ流れ出ているのだろうか。司は少し不思議に思いながら今まで居た密林の方へ目をやった。


 何かしなければならない。


そんな使命感に駆られるのだが、一体何をすればいいのか分からない。

事実自分がしなければならない事は、自分のこの特殊な能力を使ってでも彼らを無事に東京に帰す事だ。

司は一人になって考える時にそんな事ばかり考えていた。


 ん?


ふと顔を上げて辺りを見渡した。


 まただ、何かに見られているような気がする。 何だ?


今朝から時々感じる事だった。

それが獣なのか人間なのか分からない。それに、何の殺気もないのだ。

仮に透視したところで、ただ疲労感が増すだけだし、もしそれが獣だとしたら、余計な能力を使っただけで、肝心な時に使えなくなってしまうのも馬鹿馬鹿しかったので、それはしなかった。

「司、ごめん、代わろう」

明け方、ハッとしたように目を覚ました紀伊也にフッと苦笑すると、司は素直に眠りについた。

 夜が明け、朝陽が水面に反射し、辺りにきらきらと光を放った。

再び、清々《すがすが》しい朝を迎えた。

体に入って来る空気が体内を浄化してくれそうだ。

思い切り深呼吸をすると、自然と笑みがこぼれる。

「おはよう」

目を覚ますと、既に朝食用にいくつかの果実がきれいに緑色の大きな葉の上に並べられている。

「さすが紀伊也、やる事が違うな」

司は冷たい池の水で顔を洗うと、頭を左右に振って水しぶきを飛ばした。

そして、紀伊也の隣に座ると、一つを手に取って口に運んだ。

美味うまいなぁ」

口に入れた瞬間、甘酸っぱさが広がる。嬉しそうに頬張ったが、次の瞬間にはその表情は消えて俯いて黙ってしまった。

「お前にも感じたのか?」

同じように表情なく黙っていた紀伊也が頷いた。

「司、れない?」

「余計な能力ちからは使いたくない」

「そうだよな、ごめん」

「とにかく、気を付けてよう。そうでなくてもここはアマゾンだからな」

司と紀伊也は少し警戒したように目を合わせた。


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