第十章(四の2)
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「きっと誰にも信じてもらえないだろうな」
食事を終え、夜空を見上げながら司が言った。
「オレ達が遭った事」
「でもっ ・・・、こんだけの人数が実際に遭って見てるんだぜ。誰かは信じてくれるだろ!?」
「どうだか? アナコンダやタランチュラの存在は信じてもらえても、時間の進み方が違うとか、傷を癒せる水はどうだ? それに、伝説。 もし、これが事実だったとしたら、伝説の存在を証明する事になる。在りもしない空想の世界が現実に存在しました、なんて言ってみろ。世界中大騒ぎだ」
「それって、でも、俺達の新発見だろ」
「ばか。熱帯の暑さと密林で迷子になった恐怖から起こる妄想だと言われておしまいだ」
司は呆れて晃一を見ると、小枝を火の中に放り投げた。
「そう、ですね。 証明できる映像がないですからね」
「俺達の妄想って事か」
呟くように言った紀伊也に視線が集まった。
「そういう事になるだろうな。 でも、オレはそう思いたい」
そう言って司はタバコに火をつけた。
一本の白い糸が夜空に向かって静かに流れて行く。
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昔々、アマゾンの奥地にアルナン族の住む村がありました。
そこには、コルバとティプラという仲の良い夫婦が住んでいました。
コルバは猛々《たけだけ》しい勇者で、この村の若き族長でもありました。
ティプラは賢く、そしてこの上ない美貌の持ち主でもありました。
村人達は皆、この二人を敬い、崇めました。
男達はコルバのように猛々しく、女達はティプラのように美しくありたいと心から願い、各々《それぞれ》に忠誠を尽くしていたのです。
ある日、二人が池で戯れていると、欲望の象徴である大きなアナコンダが現れて言いました。
「大地の恵みである守りの石を探して来い。7日目の朝までに持って来なければこの女は我が肉となり血とする」
そして、あっという間にティプラの体をその長い胴体で締め上げてしまいました。
驚いたコルバは村中の男達を呼び寄せ、大地の石を探しに出掛けました。
が、一日経っても二日経っても見つかりません。
とうとう最後の日になってしまいました。
途方に暮れたコルバは仕方なく村に戻って来ました。
その時です、一筋の太陽の光が村の一番奥にある壁に射し込みました。
その光を目で追ったコルバは驚き慌ててその光の射す方へ駆け寄りました。
なんとそこには、この世のものとは思えない程美しい緑色をした石が輝いていたのです。
間違いない、大地の石だ!
そう叫んでその石を無理矢理ひきはがそうと、剣で掘った時です。
突然辺りに物凄い地響きがしたかと思うと、コルバが立っていた地面が、まるでほら穴にでも落ちてしまったかのようにズドンと地面の底に落ちてしまったのです。
うわぁぁぁっっ・・・
ようやく探し当てた大地の石さえ手にする事なく、コルバは息絶えてしまいました。
後には大地の石のかけらがコルバの足元に転がっていました。
残された村人達は泣く泣くその石のかけらを持って、アナコンダの所に戻りました。
それを見たアナコンダは火のように怒り、村人達を次々と殺して食べてしまいました。
命からがら逃げたティプラは、残った女達を引き連れ、アルナンの洞窟奥深くに隠れてしまいました。
さすがにアナコンダもアルナンの洞窟には入れません。
何故ならアルナンの洞窟は恐ろしい毒蜘蛛の住みかだったからです。
そして、アルナンの洞窟に入ったティプラ達は二度と姿を現す事はありませんでした。




