第十章(一)
第十章(一)
陽も高く上った頃、彼等の服も完全に渇いた。が、その暑さは比ではない。木陰から出ると、照り付ける太陽に痛みさえ感じた。
「さあ、行くぞ」
ウェストのベルトをぎゅっと締めるて司が言った。
「何処、行くんだよ?」
晃一が不安になって訊く。
4つの道は全て望みが断たれたのだ。
あとは道のない所に入り、自分達で道を作るしかない。が、中央に立っていた司は、ぐるっと体ごと見渡すようにその場で回転すると、一番奥の大木を目の前にして立ち止まった。
「残すのはあの道だけだ」
「え!? あ、あそこって、あのアナコンダが行った方じゃ・・・」
晃一は思い出して息を呑んだ。
倒れていたアマゾネスをひねり潰し、丸呑みした巨大な蛇・アナコンダが悠々と去って消えて行ったのは、あの大木の向こう側なのだ。
「司ぁ・・・、マジかよ・・・」
「もう、あそこしかないんだ。可能性に懸けるしかないだろ」
「他に道は?」
「ない」
心細そうな木村の問いに司はきっぱりと言い切った。
「イヤならオレ一人で行く。オレ一人でも助かりたいからな。それにこんだけ訳わかんねぇ場所にこれ以上居たくねぇよ」
半ば首をすくめると紀伊也と目が合った。
「お前はどうする?」
「俺は、・・・ 司を信じる。 行くよ」
元々逆らう事は出来ない。が、果てしもなく広いこのジャングルの中で当てもなく彷徨う中では司だけが頼りだと言ってもいい。もし、何かあれば司の指示に従えばいいし、万が一の時は司の命だけでも自分が守らなければならない。
それが紀伊也の架せられた使命なのだ。
「他に道はないんだろ。だったら行くよ。 けど、頼むぜ、何かあったら守ってくれよ」
「あのなぁ、自分の命くらい自分で守れ」
「ええーーっっ!?」
「冗談だよ。 何かあってもオレが必ずお前らを守るから心配すんな。とにかく全員で東京に帰ろうぜ」
頼りない晃一に苦笑すると、司は力強く言った。
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昨夜蓄えた雨水を水筒に詰め、仕度をすると、司を先頭に大木の裏にある岩の前に立った。
決心したようにその横の草を掻き分け中に入る。
今までにないくらいうっそうとした木々に囲まれていた。
目の前の草木は明らかにアナコンダが踏み潰して行った跡が残されている。
「司ぁ、これ・・・」
「間違いなくヤツの通った跡だな。けど、ここを行くしかなさそうだぜ」
さすがに司も息を呑んだ。
「どうか、遭いませんように」
耳元で呟く晃一に苦笑すると、歩き出した。
湿気を多く含んだ濃い植物臭がさすがに鼻を衝く。隙間もない程に垂れ下がった大きな葉が密林の奥を塞ぎ、更に未知の世界へと導くようだ。
背の高い木々が太陽の光を遮っていた。
アナコンダの通った跡が彼等の視界を保っていると言っても良い程に、うっそうとしたジャングルだった。
「何だか気味悪いな」
晃一が辺りを見渡して言う。
「まぁ、これがアマゾンの奥地ってヤツだろ」




