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サバイバル  作者: 清 涼
63/150

第九章(四の2)

******


 陽も沈みかけた頃、アマゾネス達の動きが何やらあわただしくなった。

広場の中央に薪を積み上げている。そしてそれを挟むように2本の太い柱が立てられた。

薪を中央にして正面に横に長い台が置かれ、その台を挟んで4本の細い柱が立てられ、その先端にはまるで松明にするように、わらが巻かれている。

何かの儀式でもするのだろうか。

しかし、それを想像するだけでも背筋が凍りそうだ。この中の誰かが犠牲になる事はほぼ間違いないのだから。

誰もが声を出す事なく、じっとそれを見つめた。

「司、早く来てくれよ」

思わず晃一が呟くと、スタッフ全員が晃一を見る。そして膝を抱えると頭を埋めてしまった。

少しして風が吹き始めた。

その生温かい風に、これから始まる恐ろしい儀式の前兆を感じた。

しばらくして、空の彼方からゴロゴロと雷の音が響いて来る。そして、稲妻が光るのと同時に雷鳴が轟き、激しい雨が降って来た。

スコールだ。

バケツをひっくり返したようなどしゃ降りの豪雨に視界が閉ざされる。

牢の中にも雨が吹き込み、皆びしょ濡れになってしまった。

そして、辺りは急に暗雲に閉ざされた。

「紀伊也っっ!!」

突然、司の声がはっきり聴こえた。

牢の扉を縛っていたロープをナイフで切り、扉を開けると、晃一始めスタッフを外に出し、最後に紀伊也の手を取った。

「行くぞっ!」

「司」

「早くしろっ」

司は紀伊也の手をぐいっと引っ張ると、牢から出た。

「こっちだ」


 バチャ バチャっっ ・・・


司に導かれ、皆必死に走った。


 ザザーーっっ ・・・


彼等の足音は豪雨に掻き消された。

洞窟までの道のりがとても長く感じる。暗がりの中、ただ司だけが頼りだった。

ようやく洞窟に辿り着くと、全員の背を押して先に行かせ、後から誰も追って来ないのを確認すると、司は最後に洞窟を抜けた。

そして洞窟を出る前にもう一度振り返ると、冷酷な視線を送った。

 増々激しく降る雨に、洋服が重く体にまとわり付く。

しかし、そんな事に構っている余裕はない。ただ、時々気になって気持ちが悪かった。

そんな中、誰もが無言で歩き続けた。

1時間以上は歩いただろうか。

やっとの事で広場に出ると、雨は上がって暗雲は消え、星がまたたいていた。

無数の星灯りに照らされ、誰もが疲れ切って石の上に腰を下ろして息を整えていた。

その中で、アマゾネスの村へと続く道の入口で、何かに怯えたように立ち尽くしている紀伊也の傍に司が近づいた。

「紀伊也、大丈夫か?」

「司、俺・・・」

「しっかりしろ、どうした?」

明らかに怯えている紀伊也の両肩を掴んで顔を覗きこむと、視線を宙に泳がせたまま微かに唇が震えていた。

これ程までに動揺し、怯えた紀伊也は見た事がない。それに、完全に紀伊也の脳波が乱れている。

司は何とか落ち着かせようと、紀伊也の濡れた頭を抱えると、自分の額を紀伊也の額につけた。

「紀伊也、落ち着くんだ。かなり乱れてるぞ、 ・・・ 何があった?」

「 ・・・ 」

「紀伊也、何かあったのか? 何があったんだ?」

「司、・・・ ごめん、でも ・・・」

ようやく一息落ち着け、それだけ言えたが、顔を上げる事が出来ない。

「紀伊也、話してくれ。 何でもいいから、何があったのか言ってくれ」

「 ・・・、 アルナンのティプラ ・・・ っ 」

その名を口にすると紀伊也はその場に崩れるように膝をついてしまった。

「紀伊也っ!? しっかりしろっ 」

慌てて体を支えると、司も一緒に膝を付き、両肩を強く抱いた。

「アルナンのティプラがどうかしたのか?」

その問いかけに紀伊也はようやく視線を司に合わせると、

「居たんだ。 彼女に会った。 ・・・ アルナンのティプラに」

と震える声で言った。

「え? アルナンのティプラだと? 馬鹿な、だってそれは・・・」

「そうだよ、司。 あれはこの辺りに伝わる伝説だ。 けど彼女ははっきり言ったんだ。自分はアルナンのティプラだとっ! 」

最後には興奮を隠し切れずに振り絞るように叫んでいた。

「司、俺達一体どこに居るんだよ!?」

言いようのない恐怖に襲われて紀伊也の全身が震えて行く。

「心配するな紀伊也。 オレが、必ずお前らを元の世界に帰してやる。約束するよ」

不安を取り去るかのように優しく言うと、司は右手から温かい気を送った。

司と目が合った時、紀伊也はその瞳の中に笑みを見た。


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