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サバイバル  作者: 清 涼
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第九章(四)

第九章(四)


 黙って司について歩いていた晃一だったが、やはり不安になる。

「なぁ 司、本当に捕まったのか? もし、捕まったとしたらどんなヤツ等なんだよ?」

「それがわかりゃ、苦労はしない」

洞窟の前まで来ると司は立ち止まり、辺りに神経を尖らせた。そして洞窟内にも視線を送ると気を集中させる。

冷酷な琥珀色がわずかに笑みを浮かべるように怪しく光った。

「陽が沈む前に紀伊也達を見つけないとな。 晃一、オレから絶対離れるなよ。まずはここを抜けるぞ」

「大丈夫かよ、何か気味悪ィな」

真っ暗な入口を覗き込むように見て晃一は一瞬身震いしたが、引き戻す訳にもいかない。それに、既に司は一歩足を踏み入れている。

慌てて晃一は司の服を掴むと、その後を恐る恐るついて行った。

陽の光りさえ入らない真っ暗な洞窟は一瞬ヒヤっとした。が、顔を上げると先の方が薄っすら明るい。思ったより短い洞窟だった。

司の動きが止まり、晃一は一瞬ビクッとしてしまった。

何かあるのか聞こうと思ったが、声が出ない。その代わりに司の服を掴む手に力がこもった。

「大丈夫だって」

小声で司がそう言った。そして再び歩き出す。

晃一は足を引きるようにそろりそろりと進んだ。

出口に近づいた時、司は晃一の肩に片手を掛け、屈むように押した。

二人は前方を伺うように腰を低くすると、そっと顔を覗かせた。

「おい 司、あれ」

5M程先の木の下で一人のアマゾネスが木にもたれ、足を投げ出してうな垂れたように座っている。

司と晃一は辺りに気を配りながら近づいた。が、動く気配がない。

目を閉じたままピクリともしない。

司はそっと首筋に手を当てた。そして、黙ったままアマゾネスの身に着けている首輪や剣を調べるように見ていた。

「司、誰か来るぞ」

カサっ カサっ という足音が聞こえ、晃一が慌てた。

瞬間司は辺りを見渡すと、晃一の腕を掴んで反対側の大木の草むらの陰に身を潜めた。

そして草むらの陰からそっと様子を伺った。

ほどなくして二人のアマゾネスが現れた。

少し呆れたような表情で二人は顔を見合わせた。そして、木に寄り掛かっていたアマゾネスの体に触れると、そのアマゾネスは何の抵抗もなく力が抜けたようにそのまま倒れてしまった。

一人が悲鳴を上げて何か言い出し、もう一人も何やら慌てたようにわめいていたが、木の根元に何かを発見し、それを指差しながら怯えたように悲鳴を上げて走り去ってしまった。

「晃一、追うぞっ」

二人の姿が見えなくなるのと同時に司は立ち上がると草むらから出た。

「え? ・・・ええっっ!? ちょっと〜」

アマゾネスの後を追って走って行ってしまった司に呆気に取られたが、ハッと気付くと晃一も慌てて後を追った。


******


「○×△□・・・∞!!」


突然二人のアマゾネスが、怯えたように走って広場に駆け込んでわめき散らした。

それに動揺するように周りにいたアマゾネス達も怯えたようにざわつき始めた。


「何か騒いでますね」

牢に入れられた一行は格子から広場に目をやった。

そして紀伊也も同じように表情のない目で見つめていたが、その瞳の奥には少しの安堵感を携えていた。

「何て言ってるか分かりますか?」

西村の問いかけに紀伊也は何も応えなかった。

しばらく皆は村の様子を伺っていた。

数人の戦士のようなアマゾネスが血相を変えた彼女らに話を聞くと、入口の洞窟へと続く道に入って行ったが、すぐに何かを威嚇いかくするような声が響き渡ると戻って来た。

「ああっっ!? あれっ!? 晃一さんっっ!!」

西村が悲鳴を上げた。

全員が驚いて釘付けになった。

剣とやりで首を固定され、少しでも動こうものならその先に当たって切れてしまうだろう。数人に囲まれて身動きが取れないまま操られるようにこちらに向かって来るのは間違いなく晃一だった。

その顔は恐怖に引きつり青ざめている。

そのままこちらに連れて来られると牢の中に突き飛ばされるように入れられてしまった。

「晃一さんっ しっかりっ」

木村と佐々木に支えられ、ようやく息を整えた。

「ふぅーっ 死ぬかと思ったぜ」

首筋に手を当て、切れていない事を確かめるようにでた。

「大丈夫、傷つけたりしないさ。 で、司は?」

相変わらず格子の外を警戒するように伺っている紀伊也が冷静に言った。

「相変わらずクールなヤツだなぁ。 あ、そういやアイツも相当白状なヤツだったぜ。 抵抗しなけりゃ傷つけられる事は絶対ないからそのまま捕まれって言って、どっか行っちまったよ。 で、明日の朝決行するからそれまで持ちこたえてくれって、紀伊也に伝えろとさ」

「そっか」

「で、どういう事だよ?」

「うん、とりあえずそのままで聞いてくれ。どうせヤツ等に俺達の言葉は解らない。 明日の明け方、恐らく日の出と同時かその少し前に司が助けに来てくれる筈だ。で、それまでの間、多分今夜これからだと思うが、俺達が危険な目に遭うかもしれないからとにかく頑張って耐えろって事だ」

「そういや司も何か言ってたな。 ・・・ え〜と、とにかく出された物には一切手を付けるな、特に水は絶対だ、って。 骨抜きにされるとか何とか」

そう言って晃一は一息つけるとあぐらをかいて座り直した。

司が助けに来てくれると分かったところで、緊張の糸がほぐれたようだ。皆にもそれが伝わったのか、肩の力が少し抜けている。

「何されんだよ?」

「ん? 骨抜きだろ」

「いや、だからさ ・・・、骨抜き? ってアイツ等って人間の骨だけ食うのか!?」

驚いた晃一はすっとんきょうな声を小声で上げたが、紀伊也のシラっとした目に気づくとハッと口を両手で押さえた。

「もしかして・・・、俺達・・・、犯されちゃうの?」

言いながらスタッフを見渡すと紀伊也と目があった。

「ま、そういう事だ」

「え? ええーーっっ!! あ、あの色気もねぇ ガマみたいなあの女達にかっ!? うっそだろ!? ええっっ!? ・・・、 それならまだ司に犯される方がマシだぜっ」

「それもナンですけど・・・」

ポツリと西村が言ったが、全員がゾッとして格子の外に視線をやった。

遠巻きにこちらを見ているアマゾネスの視線がねっとり絡みつくようだ。

「ところで晃一は何で俺達がここに居るのが分かったんだ?」

ふと紀伊也に訊かれ、晃一は我に返ると、司と別の道を見つけてから行った先で地面が陥没している所に出て、そこから引き返してから見た事など今まで遭った出来事を話した。が、その中で司が自分に襲い掛かろうとしたアマゾネスを殺し、晃一が半狂乱になった事実の記憶はなくなっていた。

「アナコンダか・・・。 ジャングルには実際に居るからな」

「けど、ひと呑みだぜ。すっげェ でかかった。 ホラ、・・・思い出したくねぇけど、太古の森で遭ったヤツと変わんねぇくらいだった」

「え?」

少し興奮気味の晃一が嘘を言っているとも思えない。が、紀伊也はそれきり黙ってしまった。


 アルナンのティプラ


司に確かめなければならない。

紀伊也には自分の中でどう理解していいか分からない。

彼女が本当にアルナンのティプラであるとすれば、一体自分達は今何処の世界にいるのだろう。

太古の森に足を踏み入れてしまった時に、全く別の空間に来てしまったのだろうか。

もし、四次元の世界が本当に存在するならば・・・

そう考えてしまう紀伊也は、自分の存在の恐ろしさにも思わず息を呑んだ。




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