第九章(三の2)
******
不穏な空気が解け、濃い植物臭に包まれ、時々動物の鳴き声が遠くの方から聴こえていた。
司は残されたアマゾネスの剣を拾い上げると、それを黙って見つめていた。
剣の根元に一見傷に見えるが、よく見ると何かの印のようなものが彫ってある。
「晃一、これ何に見える?」
ほぼ確信したように司は立ち上がると、晃一に剣を見せた。
既にいつもの司に戻っている。
「どれ?」
晃一はホッと安心したように息を吐いて司の隣に立つと、剣の根元を覗き込んだ。
「う〜む、こりゃ 俺にでも描けそうなクモだな」
半分バカにしたように言うと、真剣な顔付で「間違いない」と付け加えた。
が、二人共笑い出しそうだ。
余りにも簡単な絵だった。
小さな丸から8本の足が伸びているだけだった。
「アイツ等の守り神か?」
「何でそう思う?」
「だって、さっきのが多分ハチだろ? だから何となく」
「ま、単純に考えればそうだろうな。 で、晃一、お前がここに来た時の状況を教えて欲しいんだけど」
「えっ?」
一瞬二人はマジマジ見つめ合った。
「お、そうだ。それが一番肝心な問題だった。 すっげェ ヤバイ状況だったんだよっ」
突然思い出したようにポンと手の平を打った晃一は、皆が連れ去られたと思われた方に視線を向けた。
それに連られるように司もその方向に向いた。
「それがさ、俺が来た時には既に誰もいなくなってたんだ」
「は?」
真顔で話す晃一に一瞬呆気に取られた。
「そんな目で見るなよ。 っていうかさ、マジで誰もいなかったんだよ。ま、付け加えるんなら、俺が来るのが遅かったっつうか」
「何だ、ソレ?」
「いやさ、近くまで来た時、さすがに俺もへばっちゃって、少し休憩してたワケよ。そしたら何か、すげェ人数の変な人の声がしてさ、それでヤバイかなって、じっとしてたんだ。 で、静かになったから行ってみたら誰もいなくなってて、紀伊也って呼んだら、あのヘンな女がすっげェ顔してあそこから出て来たってワケだ」
そう言ってもう一つの石の後方の茂みを指した。
「てことは、本当に連れ去られたかどうかも分からない。で、しかもどんなヤツ等だったかも分からねぇって事かよ」
「ま、そうだな」
「あのなぁ・・・ それじゃぁ」
「ムリムリっ 今の俺には ンな余裕ねぇからっ。 ま、お前が居てくれるっていうんなら出来るかもしれねぇけど」
司の言いたい事はよく分かる。しかし、今の晃一にはその言葉通り、一人で詮索する事など出来る余裕は一寸たりともなかった。
「まぁ しょうがねぇな。 でも、とにかくあいつ等を助けないとヤバイ事になる」
「助けるって、やっぱ、捕まったのか!?」
「まぁ、単純に考えればそうだろうな」
司は表情を変えずに晃一に視線を送った。




