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サバイバル  作者: 清 涼
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第九章(ニの3)

「晃一っ 伏せろっっ!!」


その声に瞬間晃一は、腰をかがめて頭を伏せた。


 ザっっ ・・・ ドサっっ ・・・


何かが自分に迫って来た人間に当たり、倒れた。

晃一は息を呑んだまま恐る恐る顔を上げると、背後から近づいて来る足音に安心したように振り返った。

「司・・・」

「危なかったな、大丈夫か?」

司自身も乱れた呼吸を整えながら晃一の肩に手を掛けた。

安心して泣き出しそうな晃一に少し苦笑したが、徐々に震えていく晃一に少し不安を覚えた。

「晃一?」

「司 ・・・、 お前、殺、したのか? ・・・」

「仕方がない。 らなきゃ お前がられてた」

晃一の数メートル先には、鋭い剣を持った全身褐色の肌をした上半身裸の女が、喉元に短剣を突き刺されたまま仰向けで倒れている。

即死だった。

「でもっ ・・・ 死んだんだ。 司が、殺した? ・・・ ウソだろ・・・」

引きつる頬に青ざめていく顔が、まるで残虐な殺人鬼を見ているように、司を拒んでいた。

「晃一、どしうした?」

「どうした? ・・・ どうしたって? 司、お前、人一人殺したんだぞっ!? 何とも思ってねぇの、かよ?」

「この状況だ、仕方がない。 ・・・ 晃一、つまらない事考えるな」

「つまらない事? ・・・、 そういやお前、ガキの頃向方(外国)に住んでる時、拳銃ぶっ放した事あるって言ってたよな。 まさか、それも!?」

「生き残る為だっ、仕方がないっ!!」

晃一の執拗しつように責める自責の念にえ切れず、最後には叫んでいた。

さっきのアマゾネスからは凄まじい殺気が感じられていた。確実に晃一は殺されていただろう。

「何も殺す事はなかった・・・」

「いい加減にしろっ!」

「触るなっ 人殺しっ!! 汚ねぇ手で触るなっ ・・・ うわぁぁっっ ・・・」

余りにショックだったのだろう。

今置かれている自分達の状況など冷静に考える事など出来なかった。

半分錯乱(さくらん)状態になってしまった晃一は、司を突き飛ばすと、地面に両膝を付いてえるように悲鳴を上げた。

「晃一・・・、 っ ・・・、晃一っ! しっかりしろっ! 晃一っっ!!」

体をよじって司をかわす晃一に、司は半ば諦めたように目を閉じた。

そして、表情のない目を開けると、冷めた琥珀色の瞳で髪をむしり一瞬考えたが、決心したように晃一を見据えた。

両肩を自分の両手で抱き抱えるように掴むと、晃一を自分の方に向かせた。

そして次の瞬間、目を開けたまま晃一の唇に自分の唇を重ねると、何かを吸い込むように両目を閉じた。

瞬時にして気の抜けたように大人しくなった晃一を確認すると、静かに両目を開け、ゆっくり唇を離した。

「晃一」

優しくなだめるように晃一を呼んだ時、ようやく晃一は我に返ったように司を見た。

「俺・・・」

「大丈夫か?」

晃一は何かを思い出そうとして振り返ろうとした。

「見るなっ」

それを司に制され、じっと司を見つめた。何かやり切れなさそうなしんらつな表情の司に気付いた。


「司?」


 仕方がない、晃一の為だ


晃一の中でのさっきの出来事の記憶が消されたのだ。

司はぐっと奥歯を噛み締めると、思い直したように立ち上がろうとして、ハッとなった。

前方に凄まじい殺気を感じたのだ。

「何か来るっ! 晃一、こっちだっ」

急いで晃一を立ち上がらせると、森の入口の草むらに飛び込んだ。

その瞬間、ズザザザァァァっっ・・・・ という草木を掻き分ける大きな音と、シューっ シューっ という獣の息の音が聴こえた。

葉の陰からそっと様子を覗いた二人は、声を出す事も出来ない程驚いて息を呑んだまま、動く事が出来なくなってしまった。

広場の奥の大木の陰から真っ直ぐこちらに向かって、大きな大きな蛇が這っていた。

それもあの太古の森で襲われたアナコンダ並の大きさの蛇だ。いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。

銀色とも黒とも言えない不気味な色をした大蛇が、シューシューと気味の悪い大きな音を立てて、もの凄いスピードで迫って来る。

咄嗟に司は晃一の頭を抱え、二人は地面に突っ伏した。

声も出ず、ごくりと生ツバを飲み込む事しか出来ない。が、それすらもためらってしまう。

近づく音が途中で止むと、今度は バリバリっっ という鈍い音が響いた。

そっと顔を上げると、目の前の光景に愕然としてしまった。

大きなとぐろを巻いた大蛇の中心に、先程のアマゾネスが無残な形で折れ曲がっていた。そして、大きな口がガバっと開くと、頭から飲み込まれていく。

大蛇はあっという間に全てを飲み込むと、満足気に天を仰いだ。

そして、巻いていたとぐろを解き、元の奥の大木の向方へと入って行った。

後に残されたのは、アマゾネスが持っていた剣だけだった。

しばらく二人は、いつの間にか握り合っていた手に力を入れたまま茫然と立ち尽くしていた。

さわさわ と風が吹く。

木の葉を揺らし、時折遠くの方で小鳥の声が聴こえた。

 キーっ キーっ という甲高い声に、二人は同時に息を吐くと、互いに握り合っていた手に気付いて、慌てて離した。

汗ばんでいた手を服にこすり付けた。

「司、今の・・・ 」

「あ、ああ・・・」

何をどう説明していいか分からない。

二人は一度目を見合わせると、息を呑んで大蛇の去って行った方を見つめた。



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